●経営独立性喪失説の根拠
一方、経営独立性喪失説を取る業界関係者は、逆に「どこで相乗効果を見いだそうとしているのかがわからない」という。
成城石井の13年12月期の純資産額は188億円。それを550億円で買収するので、362億円の「のれん」が生じる。これを最長償却期間の20年で償却しても毎年18億円強を損失処理しなければならない。同社の同期最終利益は20億円であり、利益の9割がのれん償却で消えてしまうが、これではローソンの収益増加要因にならず、20年間は宝の持ち腐れ状態になる。それどころか、ローソンの体力疲弊要因にすらなりかねない。業績が悪化すれば、当然三菱商事の経営関与圧力が強まる。
また、ローソンは本体のほかに女性客訴求のナチュラルローソン、価格訴求のローソンストア100と3業態のコンビニを展開しているが、ローソン以外の業態は店舗数が減っているのが実情で、それは業態間のコントロールができていない上に、消費者がその価値を認めていないことの表れだ。そんな中で成城石井という既存3業態とまったくコンセプトも客層も異なる小売りチェーンを生かせるのか。「消費者はローソンのシナリオ通り踊らない」と懸念しているのだ。
●問われる玉塚社長の手腕
成城石井の買収は、サントリーホールディングス社長へ転身した新浪氏が玉塚社長に残していった宿題だった。しかし、新浪氏が在任中にシナリオを描き、三菱商事が監督した成城石井の買収劇では、玉塚社長の出番はほとんどなかった。
その玉塚社長は、社長就任時にひと波乱あったため、今後どのように手腕を発揮するかが大いに注目を集めている。新浪氏の後任選びの際、三菱商事は玉塚氏の社長就任に難色を示していたが、玉塚氏の手腕を高く買っていた新浪氏が強力な引きで社長に就任させた。それに対し玉塚社長の手腕に不安を拭えない三菱商事は、同社の小林健社長秘書であった竹増貞信氏を代表権のある副社長としてローソンへ送り込んだのだ。
三菱商事関係者は「竹増氏は、玉塚社長の実質的なお目付け役」とみており、「玉塚社長が買収した成城石井をいかにさばくか。端的にいえば、成城石井の最終利益額を今後どれだけ上積みするかで、当社は玉塚社長を評価すると思う」と、ポスト新浪体制の複雑な内情を示唆する。
成城石井の買収成功の陰では、ローソンの経営独立性をめぐる玉塚社長と三菱商事の綱引きが始まっている模様だ。
(文=田沢良彦/経済ジャーナリスト)