世界興行収入が12.3億ドルの大ヒットとなっている映画『アナと雪の女王』(ウォルト・ディズニー・スタジオ)の追い風を受けて、東京ディズニーリゾート(TDR)も絶好調だ。東京ディズニーランド(TDL)では、シンデレラ城に映し出される新しい映像ショー(キャッスルプロジェクション)「ワンス・アポン・ア・タイム」が5月末からスタートしているが、その中には『アナと雪の女王』のキャラクターも登場し、話題となっている。
流通・マーケティング専門紙「日経MJ」(日本経済新聞)の6月8日付記事『闇に浮かぶ妖精や野獣 城に名場面を映すショー 日常忘れる20分間』によると、「ワンス・アポン・ア・タイム」は今年度の集客の切り札であり、ショーの時間を15分から20分に増やし、力を入れているという。平日午後6時から入場できる「アフター6パスポート」(3400円)を使い、会社帰りに行くという楽しみ方もできそうだ。
TDR運営元のオリエンタルランドの加賀見俊夫会長は経済誌「日経ビジネス」(日経BP/2月24日号)の中で、TDR成功の秘訣を語っている。TDRは9割が準社員(アルバイト)と強調したうえで「コンテンツの魅力をひもとけば、さまざまな場面でゲスト(客)が出会うキャスト(従業員)のホスピタリティ(もてなし)が、テーマパークとして見えない価値の源泉になっています」「キャラクターは元より、販売や清掃のスタッフもそれぞれの持ち場で大事な役割を果たしている」と、キャストのもてなしが顧客満足度を高めていると自画自賛している(『経営教室 第3回 事業の価値向上と人材育成』)。
しかし、ここにきて、労働問題が再燃している。ショーのパフォーマー(スタント、ミュージシャンなど)切り問題が浮上したのだ。
ディズニーに再燃する労働問題
TDRのショーやパレードに、7~17年間にわたり出演してきたパフォーマーたちが、「ショーをリニューアルオープンする」という名目で、3月末に解雇された。キャストの使い捨てともいうべき突然の解雇に、パフォーマーら8人がオリエンタルランドと団体交渉するために「オリエンタルランド・ユニオン」を結成した。
これまでにもオリエンタルランドの労働問題は、2度ほどニュースで報じられ、世間で話題になった。
2000年に発覚したアルバイト1600人の厚生年金加入漏れと、07年に発覚したダンサー労災認定問題だ。ダンサー労災認定問題では、TDRのパレードに参加していたダンサーがケガをしたものの、業者を間に挟んだ業務請負契約だったことから、オリエンタルランド側は「ダンサーとは雇用契約を締結しているわけではない」と主張したが、勤務実態から「労働者性」が認められ、業務上労災と認定されるに至った。
その後、さすがのオリエンタルランドもダンサーなどの数百人のパフォーマーに関して業務請負契約から直接雇用へ移行するものと見られていたが、現実にはパフォーマーの多くは、業務請負契約が続いているのだ。
「07年に問題視されたダンサー部門の一部はその後、オリエンタルランドの直接雇用となりましたが、いまだに多くのパフォーマーはオリエンタルランドと業務請負契約をした中間業者と1年更新で業務請負契約を結ばざるを得ない不安定な状態にあります。それぞれが個人事業主で健康保険も自分で加入し、雇用保険も労災保険も適用対象外となっている人もいます」(オリエンタルランド・ユニオン)
偽装請負の疑い
オリエンタルランド・ユニオンの話によれば、オリエンタルランドはパレードやショー運営に関しては、複数の中間業者と業務請負契約を結び、その中間業者がアルバイト情報誌などで人材を募集し、オリエンタルランド側はその人材の中から選別し、パフォーマーとして教育してきた。
「請負といいながら、オリエンタルランドが時間管理や技術指導を行っている。オリエンタルランドが用意した台本、振り付け通りにやらなければ注意されます。ショーの出演者に裁量権はなく、アドリブは原則禁止だった」(ユニオン)ために、オリエンタルランドにおける就業実態は事実上の派遣形態をとっており、「偽装請負」として職業安定法44条に抵触している可能性も高まっているのだ(ユニオン側は4月末に東京労働局に申告している)。
オリエンタルランド側は、請負業者と請負契約を結んでいる「注文主」の立場にすぎず、雇用契約も指揮命令関係もなければ、労務管理にも関与していないので「使用者」ではないという理由でユニオン側の団体交渉を拒否している。
「オリエンタルランドは、これまでも見てみぬふりを続けてきました。最小限の人数で回すことを余儀なくされた現場はブラック企業化し、疲弊しています。疲弊しているうえにパフォーマーはケガをしても自己責任で、『ケガをして動けないのなら仕事を辞めろ』『妊娠したら仕事を辞めろ』などと中間会社からいわれ、泣き寝入りして辞めていく人が多い。オリエンタルランドに直接、相談をしようものなら、契約先の中間会社の社長から『俺の顔をつぶす気か』と恫喝する電話がかかってきた人もいます。最近は景気がよくなったために、アルバイト応募者も減ってきており、ますます現場は苦しくなっている」(ユニオン)
ユニオン側は、TDR全体の労働環境の改善も要望している。
「多くの準社員も条件は悪い。その契約書には、労働日、労働時間が明記されておらず、労働日の2週間前にシフトが通知される『フリーシフト』状態になっています。これはオリエンタルランド側にとって都合のいい契約で、客の混雑具合や人件費予算を勘案して、人員を手配・配置できるのです。当然ながら、これでは、働く側にとってはたまりません。直接雇用されている準社員からもコスト削減最優先のために『契約時に約束した労働時間と実際の労働時間が違いすぎる。そのため、生活設計ができない』『シフトは6時間なのに、2時間で帰された。オープン準備したが、「客がいないので帰って」と言われた』などの相談が寄せられています」(ユニオン)
コストカットが進むオリエンタルランド
オリエンタルランドはコストカット重視で、ここ数年は、エンターテインメント関係を中心に製作費が大きく削られている。
オリエンタルランドの財務諸表を見ても唯一大きく削減されているのは売上原価、なかでも、「エンターテインメント・ショー製作費」なのだ。同製作費が最も多かったのが09年3月期で、154億円。ところが、最新の14年3月期では55億円と、ほぼ3分の1にまで削減されているのだ。米本社に支払うロイヤリティーが221億円から271億円と2割増であるのと比べても、大幅に減っていることがわかる。こうしたコストカットが労働環境を悪化させ、ひいてはパフォーマンスに悪影響が出る。
「パレードやパフォーマンスも、かつてと比べると配置される人数が激減しています。ディズニーファンからすれば明らかに魅力が落ちており、不満の声も出てきているほどです。オリエンタルランドにとっては、話題の新しい映像ショー(キャッスルプロジェクション)はパレードなどと比べて人件費を大幅に削減できることも魅力なのでしょう」(ユニオン)
“夢の国”が労働者の犠牲の上に成り立っているとしたら、悪夢としかいいようがないだろう。
(文=松井克明/CFP)