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高橋篤史「経済禁忌録」

有力寺院、地検特捜部が捜査…巨額の寺院マネーめぐる「疑惑と人脈」、全容解明か

文=高橋篤史/ジャーナリスト
有力寺院、地検特捜部が捜査…巨額の寺院マネーめぐる「疑惑と人脈」、全容解明かの画像1興正寺中門(「Wikipedia」より/Bariston)

 9月12日、名古屋の有力寺院、八事山興正寺をめぐる不透明なカネの動きに名古屋地検特捜部のメスが入った。関係先への家宅捜索はその日深夜にまで及んだ。興正寺をめぐる問題はかねてから一部で注目されていたが、巨額の寺院マネーに群がった人脈を辿ると、かつて乱脈経営を繰り広げた挙げ句に上場廃止となったエル・シー・エーホールディングス(以下、LCA)や、何かと噂の絶えない不動産投資商品「みんなで大家さん」と絡み合う面妖なコネクションが浮かび上がってくる。

 名古屋市東部の八事エリアにある興正寺は、江戸時代の貞享年間に建立された高野山真言宗系の名刹。ところがここ数年は、本山と前住職とが対立するゴタゴタが続いてきた。罷免処分となった前住職に代わり2014年9月に本山の宗務総長が特任住職に就任したものの、前住職は寺院を明け渡そうとせず、泥沼の訴訟合戦が今なお続いている。

 そんななか、昨年夏に前住職時代の税務申告漏れが発覚。それとともに不透明な資金流出問題が浮上した。12年3月、興正寺は境内地約6万6000平方メートルを隣接する中京大学に138億円で売却している。ところが、受け取った代金の大半が短期間のうちに東京都内のコンサルティング会社などに業務委託料の名目で流出していたのである。本山側は前住職に対し刑事告訴に踏み切っていた。

 そして、ここからがこの問題の闇の深いところである。主な資金流出先として名前が上がるのは日本開発研究所(東京都港区)やregeneration(東京都大田区)といった会社。それらを辿っていくと、思わず眉をひそめたくなるような不可解な事実の数々にぶち当たるのである。

日本開発研究所とLCA

 日本開発研究所は米国ニューヨークの大学を卒業したとする男性が04年に名古屋市で設立した会社だが、当時のホームページによると、都市再開発事業や中国関連事業、保険代理店業などを行っていたとされる。07年には名古屋の目抜き通りにビルを取得、関連会社も次々と立ち上げた。それがどういう経緯なのか、興正寺と急接近、12年頃には共同で婚礼事業を行う計画をぶち上げていた。

 興正寺から日本開発研究所に流れた額は、実に約42億円にも上るとされる。なぜかその前後から、同社をめぐっては代表取締役や所在地が目まぐるしく変わった。登記簿によると、代表取締役は都内在住の70代男性に代わり、本店も東京・南青山にあるビルの9階に移った。しかし、現地を訪ねてみても、事務所を見つけることはできない。

 では、後任の代表取締役に就任したのはいかなる人物なのか。じつは件の70代男性はかつて上場企業の役員をしていた時期がある。それが東証2部に上場していたLCAだった。男性は都内で建設関係の会社を経営するほか、NPO法人の専務理事を務めているという触れ込みだった。LCAでの在任期間は09年2月から12年8月までのおよそ3年半に及んだ。

 当時、LCAはさまざまなブローカーらが入り込み、新株発行や社名変更、さらには本業と無関係な新規事業の発表を繰り返すいわば「ハコ企業」の1社として知られていた。09年5月には29億円に上る不動産現物出資による増資を行っていたが、のちにそれは水増し増資だったことが明らかとなり、同社は有価証券報告書の虚偽記載に問われ、金融庁から課徴金処分を受けている。結局、15年12月、LCAは上場廃止となった。

 件の70代男性がLCA退任後の14年6月に後任の代表取締役となった日本開発研究所は、その前後に都内のある会社を傘下に収めていた。それが不動産投資商品「みんなで大家さん」の販売を行っているみんなで大家さん販売(東京都千代田区)という会社だった。東京都庁に提出された宅地建物取引業の申請書類によると、日本開発研究所はみんなで大家さん販売の株式74%を保有し、件の70代男性は昨年6月から日本開発研究所とともに代表取締役を兼務している。

みんなで大家さん

「みんなで大家さん」はもともと兄弟会社の都市綜研インベストファンド(大阪府吹田市)が営業者となり07年9月に始めたものだ。みんなで大家さん販売はその販売代理人という立場である。商品は不動産特定共同事業法に基づき賃貸不動産を裏付け資産にして匿名組合方式で出資者を募集するというもので、これまでに30本以上が組成されてきた。会社側の募集案内などによると、出資者は約2000名、今年3月末の預かり出資金は約148億円に上る(一部の組合はみんなで大家さん販売が営業者となっていた)。

 みんなで大家さんの宣伝文句は、元本の安全性を重視し、これまでに一度も想定利回り(年6~7%前後)を下回ったことがないという点。しかし、運営実態は極めて杜撰といっていい。何しろ、都市綜研インベストファンドは所管の大阪府から2度も業務停止処分を受けており、とりわけ13年の2回目の処分では、紹介料や業務委託料の費用計上先送りで32億円もの債務超過を隠していたことが発覚した。そして、今日に至るまで水面下では元本の償還遅延が多発しているのである。

 例えば、今年8月に東京地裁で和解が成立したケースはこんな具合だ。11年2月、ある投資家が4号組合に500万円を出資した。組合は前年6月から北海道の倉庫を裏付け資産として運用されてきたもので、年6%の想定利回りを謳っていた。ところが、分配金こそ支払われていたものの、償還期限を月末に控えていた13年5月、都市綜研インベストファンドから投資家のもとに償還期限を1年延長する旨の連絡が突然届いた。「怪文書による一連の事件の影響」がその理由とされた。

 さらに翌6月、都市綜研インベストファンドはある提案を投資家にしてきた。それは4号組合だけでなく5~11号組合の出資者に対しても提案されており、系列の都市綜研インベストバンク(東京都千代田区)が投資家の保有持ち分を額面で買い取るという内容だった。

 しかし、買い取るのは元本総額の15%に満たない15億円だけで、しかも実際に代金が支払われるのは1年以内のいずれかの日とされた。一方で買い取り希望の受付期間は1カ月間だけ。いってみれば、元本回収に焦りを募らせる投資家に対し、早い者勝ちを煽るような提案だった。

 この裁判のケースでは、投資家が買い取りに応じ、都市綜研インベストバンクからは譲受証が発行された。しかし結局、支払い期限までに買い取り代金は入金されなかった。かわりに月1度のペースで届き始めたのは、支払期日を延期する旨の手紙である。9・11テロで従業員の大半が犠牲となったことで知られる米国の証券会社と融資交渉を進めているが、トランプ政権への交代で手続きが遅れているなどとする真偽不明の言い訳が、毎回のようにそこには書かれていた。

 投資家はついにしびれを切らして今年5月に本人訴訟を提起。事実関係を認める都市綜研インベストバンク側は行政処分などから解約が殺到して資金繰りに窮しているとし、元本棒引きの和解を希望した。その交渉経過はまるでバナナの叩き売り。都市綜研インベストバンク側が最初提示したのは元本の7割に当たる350万円を12回分割で支払うというもの。これに対し投資家は400万円なら応じるとし、何度かの条件交渉の末、最終的には400万円を来年3月末までの8回分割で支払うという条件で和解が成立した。この先、全額が支払われたとしても、元本の一部は永遠に返ってこないわけである。

注目される、捜査の行方

 じつは都市綜研インベストファンドの創業者である柳瀬公孝(本名・健一)社長もLCAとは縁が深い。柳瀬氏は関連会社を通じ07年5月にLCAの増資を引き受け、同年8月に取締役となり、さらに同年11月には代表取締役となっているのだ。柳瀬氏はのちに水増しが発覚した不動産現物出資による大型増資の話が進んでいた09年4月頃まで、LCAの経営にタッチしていたとされる(登記上は09年8月に退任)。

 興正寺から多額の資金が流れた日本開発研究所の後任代表となった件の70代男性と、柳瀬氏とは、LCAで接点を持ったものと思われる。昨年6月、都市綜研インベストファンドは日本開発研究所が名古屋市内に持っていたビルを取得、「みんなで大家さん」の30号組合として総額28億円の出資を募っており、両者の関係性は幾重にも重なっている。

 興正寺から資金が流出した先とLCA人脈との接点はまだある。上場廃止から1カ月後、LCAの社長となった60代の男性がいる。じつはこの男性が13年に都内で設立し、興正寺から約5億円が支払われた先こそが前述のregenerationなのである。現在、LCAは日本開発研究所が本店を登記する東京・南青山のビルの同じフロアに入っており、ここでも関係性は重層的だ。

 水面下で元本償還の遅延を繰り返しつつも、どういうわけか「みんなで大家さん」はこのところ新規物件を次々に取得し、出資金集めの手を広げている。今年1月からは安土桃山城が原寸大で再現されていることで知られる大型観光施設「伊勢・安土桃山文化村」(旧伊勢戦国時代村)を対象不動産に新規の組合を2本組成、計50億円の出資金集めを始めている。九州の地熱発電所用地やリニア新幹線工事などの残土受け入れを標榜する西伊豆の採石場、はたまた種子島の空港プロジェクト関連用地といったものまである(いずれも計画の真偽や進捗度などは不明)。

 みんなで大家さん販売に取材を申し入れようとしたが、電話は一方的に切られた。LCAにも電話したが、取り次ぎを依頼した代表取締役からの折り返しの連絡は得られていない。興正寺問題の捜査の行方は「みんなで大家さん」の不可思議経営に大きな影響を及ぼす可能性もありそうだ。
(文=高橋篤史/ジャーナリスト)

高橋篤史/ジャーナリスト

高橋篤史/ジャーナリスト

1968年生まれ。日刊工業新聞社、東洋経済新報社を経て2009年からフリーランスのジャーナリスト。著書に、新潮ドキュメント賞候補となった『凋落 木村剛と大島健伸』(東洋経済新報社)や『創価学会秘史』(講談社)などがある。

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