老舗出版社KADOKAWAと新興IT企業ドワンゴの経営統合によって誕生した持ち株会社、カドカワ。異色のタッグは5年で終焉を迎えた。ドワンゴ創業者の川上量生(のぶお)氏が持ち株会社カドカワの社長を引責辞任し、取締役に降格となった。事実上の解任だ。
川上氏が創業したドワンゴの動画投稿サイト「ニコニコ動画(ニコ動)」の不振で、親会社のカドカワの2019年3月期の純損失が43億円の赤字に転落する見通しになったことから、責任をとったかたちだ。
後任の社長には、角川書店出身の松原眞樹専務が昇格。川上氏はドワンゴの取締役も辞任して顧問に退く。ドワンゴの荒木隆司社長も退任し、後任に夏野剛取締役が就く。夏野氏はNTTドコモに在籍中、松永真理氏らと世界初の携帯電話IP接続サービス「iモード」を立ち上げたメンバーのひとりだ。ドワンゴは4月から事業会社であるKADOKAWAの子会社になる。
経営統合当時は、出版不況に悩むKADOKAWAが、ネットで伸びるドワンゴに救済を求めたとの見方があったほどだ。当時、隆盛を誇ったドワンゴのネット事業が、いまや凋落の一途を辿っている。
ドワンゴの川上氏が、カドカワの筆頭株主と社長になる
14年10月1日、KADOKAWAとドワンゴが経営統合して、持ち株会社KADOKAWA・DWANGO(現カドカワ)が誕生した。東証1部に上場する両社の株式と、新設する持ち株会社の株式とを交換する方式が取られた。KADOKAWA1株に対して新会社の1.168株、ドワンゴの1株に新会社の1株を割り当てた。
統合を発表する直前の両社の時価総額は、KADOKAWAが922億円に対しドワンゴが1047億円と、ドワンゴが上回っていた。
カドカワの筆頭株主は川上量生氏(持ち株比率8.68%、18年3月末時点)。統合時の社長はKADOKAWAの佐藤辰男相談役で川上氏は会長だったが、15年6月に川上氏が社長に就いた。
筆頭株主と社長の座を手にした川上氏は、京都大学工学部卒業後にソフトウェア専門商社を経て1997年にドワンゴを設立。従来型携帯電話の着メロ・着うた事業をヒットさせた。2007年に始まった「ニコニコ動画」は大人気を呼び、「日本のネット文化の発信基地」と評された。
日本のプラットフォームをつくる
KADOKAWAの創業家出身の角川歴彦会長は3年間、川上氏にラブコールを続けてきたという。経営統合の際には「天才、川上くん」と持ち上げ、「川上くんという若き経営者をようやく手にした」と、経営手腕に絶大の信頼を寄せていた。角川氏は川上氏に2つのことを託した。
ひとつは、「日の丸プラットフォーム」をつくること。米アマゾン・ドット・コムなどプラットフォーマーの台頭に危機感を抱いた角川氏は、コンテンツ制作とネット配信が一体になることで、KADOKAWA、ドワンゴの両社の関係がウィン-ウィンになるとの構想を描いた。
プラットフォーマーとは、インターネット上で大規模なサービスを提供している巨大IT企業を指す。有名なプラットフォーマーに、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コムがある。それぞれの社名の頭文字を取って「GAFA(ガーファ)」と呼ばれている。角川氏は、GAFAに対抗できる「日の丸プラットフォーム」をつくることを川上氏に託した。
もうひとつは後継者だ。出版不況のなか、KADOKAWAが成長を遂げるには紙媒体出身者では難しい。ネットに強い若き経営者に託すしかない。新会社の発足に伴い、角川氏は相談役に退き、川上氏に経営を委ねた。
ニコニコ動画はグーグルのユーチューブに完敗
カドカワが戦おうとしたグーグルやアマゾンは強敵だ。思い描いた通りの未来図を実現できるのかと、疑問視する向きはあった。
川上氏はドワンゴで07年に始めた「ニコニコ動画」で頭角を現わした。しかし、皮肉にも「ニコニコ動画」「ニコニコ生放送」などの不振が自身の進退につながった。
ドワンゴの主力サービスである「ニコニコ動画」は、有料会員から得る利用料を主な収入源としている。無料が当たり前だった日本のネット文化に有料課金モデルを構築したのはドワンゴだ。
だが、広告収入による無料モデルで利用者を増やすグーグルの動画投稿サイト「YouTube(ユーチューブ)」にお株を奪われた。ユーチューバーと呼ばれる個人投稿者が再生回数を競い、月間数千万回を稼ぐ人も出てきた。ネット上では、「ニコ動はオワコン(=終わったコンテンツ)」と揶揄されるようになった。
収益の柱となる有料会員は16年の256万人をピークに減少に転じ、18年末には188万人まで落ち込みドワンゴの赤字幅が拡大していった。
ドワンゴ株式の評価損を計上して赤字に転落
ドワンゴの18年4~12月期の単独決算は、悲惨というほかない。売上高は197億7800万円、営業利益は31億3200万円の赤字、当期利益は63億3400万円の赤字となった。
18年11月にリリースしたスマホ向け位置情報ゲーム「テクテクテクテク」は、開発に数年かけた超大作。低迷する業績を浮上させると期待されていた。19年3月期に売上高50億円、営業利益25億円の野心的な計画を立てた。しかし、18年4~12月期の「テクテクテクテク」の売り上げ(課金収入)は、わずか900万円。8億600万円の赤字となった。
ドワンゴは19年3月期に赤字決算が見込まれるため、固定資産の減損損失37億9900万円を特別損失として計上する。それに伴いカドカワは、ドワンゴ株式の評価損149億500万円を特別損失として計上することとなり、業績予想を下方修正した。
カドカワの19年3月期の売上高は2070億円(期初予想比10.4%減)、営業利益は19億円(同76.3%減)、当期純損失43億円を見込む。当初純利益は54億円の黒字を見込んでいたが、ドワンゴの不振で一転して赤字に転落する。
かくして、角川氏と川上氏の異色コンビによる「日の丸プラットフォーム」計画は、結果を出せないまま終わることになった。米ネットフリックスなど動画配信サービスの台頭による「動画戦国時代」の戦いに敗れた格好だ。
ドワンゴの資本金1億円
ドワンゴは2月25日、「資本金の額の減少公告」を同社サイトに掲載。資本金を105億1630万2000円減らし1億円とするとした。減資についての株主総会の決議は2月13日に終了しており、効力の発生日は3月29日。夏野氏への社長交代のタイミングで減資を決めた。
夏野氏は社外取締役を多数兼務している。具体的には、セガサミーホールディングス、トランスコスモス、グリー、日本オラクルなど上場企業7社の社外取締役を務めている。クールジャパン機構(海外需要開拓支援機構)の社外取締役でもある。
カドカワグループでは、KADOKAWA取締役、ムービーウォーカー会長、ブックウォーカー取締役。そして今度はドワンゴの社長だ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授でもある。
これほど多くの社外取締役を兼任していながら、さらにドワンゴの再建ができるのかが注目される。
(文=編集部)