ここ数年、在日韓国・朝鮮人をはじめとした外国人を追い出そうとする排外主義的な動きが強まっている。特に、外国籍の住人が多く住み、観光客も多い東京・新宿区大久保のコリアンタウンで、昨年夏頃から在特会(在日特権を許さない市民の会)を中心としたグループが、排外主義を訴える“憎悪デモ”を行っている。
今年に入ってからは、隔週で「良い朝鮮人も悪い朝鮮人も殺せ」「飛び降りろ、毒飲め」「ゴキブリを駆除するぞ」などと叫ぶデモが、繰り返し行われてきた。こうした動きに危機感をもつ人々が実行委員会を結成し、2カ月にわたる準備を経て、この日の開催となった。
久しぶりに暑くなった当日、会場となった新宿中央公園に駆けつけると、赤・青・黄・白などの風船であしらわれたアーチが入り口につくられていた。
華やかな色彩とは対照的に、ダークスーツの人が往き来し、なかには黒紋付裾模様を身にまとった女性や普通の和服女性、羽織袴の男性もいる。これは、50年前の1963年8月28日に行われた「ワシントン大行進」に敬意を払って、今回の東京大行進を開催したからだ。ワシントン大行進で、教会へ行くように男性はブラックスーツ・女性はフォーマルな装いをしていたことに倣い、トップ集団の参加者は服装を統一していたようだ。
ワシントン大行進は、20~25万人が集まり、そこでなされた公民権運動の指導者であるマーティン・ルーサー・キング牧師による差別撤廃を訴える「I have a dream」で始まる演説は、あまりにも有名である。当時のアメリカでは、大規模な黒人差別撤廃運動によって公民権法が成立し、人種・民族・出身国などによる差別が明確に禁止された経緯がある。
このような精神を受け継ぐという強い意志表示も、今回集まった人たちに共通している。
●ひとりでも行動できる
男女2人の高校生が司会者として壇上に立ち、集会は始まった。主催者は、
「差別をやめろ、一緒に生きよう。この一点だ」
と、この行動の意義を、シンプルに短い言葉で集まった人に伝えた。
会場には、さまざまな立場の人が集まっており、なかには拉致問題に関する青いリボンも身につけた人が「差別のダシに拉致問題を使うなよ」とプラカードを掲げている。あるいは「最初の一歩になれ」と小さな一歩を踏み出す勇気を鼓舞するようなプラカードなど、多様なアプローチがあるけれど、目的は主催者が述べたシンプルなことだ。
小池晃参院議員(共産党)ら国会議員、地方議会議員も駆けつける中、民主党の有田芳生参院議員が挨拶し、ある詩を紹介した。
70年以上前、朝鮮から日本にやってきた子供が東京の工場で働いていた。その中の、日本語もよくわからない尋常小学校1年か2年の少年に、工員らがおもしろがって汚い言葉を教え、その少年が駄菓子屋に行くように仕向けた。
教わったとおりに、少年が「汚穢(おわい=汚物)のお菓子ください」と小銭を差し出したという。それを聞いた駄菓子屋の女性は差別的な扱いに怒り、すぐ工場に駆けつけ、工員たちを一喝したという話である。
「70年以上も前に、不正な蔑視に対してひとりで行動した女性がいた。この日を迎えて私は、このことを思い出した」(有田議員)と言う。