●女子高生の発言をきっかけに、まわりの大人が動く
主催スタッフの一人でもある新宿百人町にある『Naked Loft』というトークライブの店を運営する加藤梅造さんが書いた文章に、似たような話がある。
在特会を中心とした憎悪をまき散らすデモに、直接の攻撃の対象になった人はもちろん、多くの人々が危機感を募らせていた。そんな中、転機が訪れたのは、加藤さんによるとこうだ。
「ある決定的な出来事があった。以前から新大久保の反韓デモに迷惑していた『Kポペン』と呼ばれる韓流ファンやK-popファンの若者たち(主に中高生)が、1月12日の在特会のデモの時に、在特会会長・桜井誠のTwitterアカウントに対して一斉に非難を浴びせたのだ。
『あなたみたいなひとがいるから日本がだめになるんじゃん』『人の気持ちを考えられる人間になりましょう』と、40歳のオッサン(桜井)が中高生に諭される様子はネット上でも話題となった」
ツイートという形での行動だが、70年以上前の駄菓子屋の女性に通じるものがある。中高生の発言をきっかけに、今まで見て見ぬふりをしていた大人たちが奮い立たされたという。脱原発運動などに積極的に参加している野間易通氏が呼びかけた「レイシスト(差別排外主義者)をしばき隊」という批判のカウンターデモも実施された。
また、差別言動に反対するプラカードを掲げて沿道に立つ「プラカード隊」も登場。排外主義反対の動きは強まる。
この動きと並行して、国会議員たちも動き始めた。先の有田議員らが呼びかけて、超党派十数人の国会議員と市民が中心となり「排外・人種侮蔑デモに抗議する国民集会」という国会内集会が数百人規模で開催された。
ここには右派系民族主義団体の「一水会」の鈴木邦男最高顧問や、同団体の木村三浩代表なども参加して、排外主義を非難した。
さまざまな人々が危機的状況を打破しようと集まり、大久保で行われる憎悪デモを批判するカウンターデモへの参加者は激増し、6月30日には在特会が集まった大久保公園を2000人の抗議者が取り囲み、機動隊に守られてデモは行われたものの、実質的に封じ込める形になった。
●日本政府は「人種差別撤廃条約」を誠実に履行せよ
ダークスーツ隊を先頭に出発した大行進は華やかで、この日のために結成された「トーキョー・フリーダム・マーチング・バンド」は、『自由への賛歌』と、ワシントン大行進でも歌われたプロテストソング『We shall overcome(勝利をわれらに)』を演奏し続けた。
続いて「差別を許さない東京」をテーマにラッパーたちが沿道にアピール。さらには、性的少数者や在日外国人、障害者、部落差別反対の人たちも加わって大いに盛り上がった。
最近の排外主義の動きは、在特会らだけではない。政治家の従軍慰安婦否定発言、あるいは安倍晋三首相の「侵略の定義は国際的に定まっていない」といった発言など、過去の戦争や植民地支配に対する反省もなく、ネット右翼に大人気の安倍首相率いる現政権の言動が排外主義を煽っている。安倍政権が誕生した時も欧州の新聞では、極右政権が誕生したと指摘したところもあり、近隣諸国ばかりでなく欧州からも危険な政権と警戒されている。
このような状況下、人種差別撤廃条約に加入していながら、まったく履行していない日本政府に対して「誠実に履行せよ」と東京大行進は訴えた。
欧州諸国では人種的・民族的憎悪をかき立てる言論や活動を法律で禁止している。これまでも、差別撤廃のために「法整備などを具体的に実行せよ」と国際的に勧告されているにもかかわらず、日本政府は聞く耳持たず。
本イベントの実行委員会としては、法整備など詳細には踏み込んでいない。しかし、腰の重い政府に代わって、いまの状況を憂う個人が結集した東京大行進は、確実な一歩を踏み出したといえるだろう。
(文=林克明/ノンフィクションライター)