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街中に出没する“若者のフルーツ売り”、その悪質な“嘘まみれ”の実態を経験者が暴露

文=松井克明/CFP
街中に出没する“若者のフルーツ売り”、その悪質な“嘘まみれ”の実態を経験者が暴露の画像1「Thinkstock」より

 話題の“若者のルーツ売り”が、ついに筆者の事務所がある東京・千代田区内の某駅前にも出没した。

“若者のフルーツ売り”とは、最近インターネット上などで出没情報が頻出している謎のビジネスで、いっぱいにフルーツを入れたカゴを抱えた若者(男女問わず)が「売れ残ってしまったので1つ買ってくれませんか?」「最近フルーツを食べていますか?」などと声をかけ、売り歩くのだ。

 オフィスに飛び込み営業をすることもあれば、終電間際の駅前で酔客に売りつける手口に、ネット上では「(売り子の明るい笑顔に)自己啓発系なのではないか?」「マルチ商法なのではないか?」などといった疑問の声が上がっている。

 筆者が遭遇したのは、9月平日の夜11時頃。仕事終わりに家路の途中で駅前のコンビニエンスストアに入ろうとすると、大きなカゴを抱えた若い女性が「すいませ~ん」「すいませ~ん」と寄ってきた。足を止めると、「市場で直接仕入れたフルーツを売っています。いかがですか?」と声をかけてきた。「興味がない」と応えたが、「今日は長崎産のパッションフルーツが入っているんですよ。1個150円です」とセールスを開始する。しかし、こちらが関心を示さないとみるや精気のない顔でそそくさと、近くを歩いていた酔客に向かっていった。

 しかし、コンビニで用を済ませると駅前で再び、「すいませ~ん」「すいませ~ん」と再びフルーツ売りが寄ってきた。「さっき断ったでしょ」と言っても、「全部売れるまで帰れないんです」とポツリ。そこで、しばし話を聞いてあげることにする。

 すると、それではとばかりにカゴに入ったマスカット一房を取り出して「デパートであれば、4000円するマスカットですが、今日は2000円です」とセールストークを始めたのだ。「高いよ」と断ると、今度はみかんを取り出して、「みかんは4個で1000円です」という。2000円のマスカットか1000円のみかんか、このどちらかを買ってくれないかと言う。

「さっきの150円のパッションフルーツは?」と尋ねると、「あっ、パッションフルーツもあります」とパッションフルーツを出してきた。相手の反応によって、セールスする商品を変えているようだ。

やりがい搾取のフルーツ売り

 後日、この体験談を周囲に話していると、ある若者(以下、A子さん)が「私、そのアルバイトをやっていたことがあります。3日で辞めましたけど」という。A子さんの話を詳しく聞いてみると、相当悪質な商売のようだ。

 A子さんは、アルバイト情報誌の「日給1万円」という広告を見て、このフルーツ売りの会社B社(仮名)に応募したのだという。その仕事内容は、およそ次のようなものだったという。

・朝、B社に集合。全員揃うと朝礼が始まる。
・朝礼では全員で円陣を組み、笑顔でハイタッチ。「今日もがんばって売ろう」と大声を出す。
・業者から安く買い叩いた売れ残りのフルーツを箱から開け、腐ったものは捨て、売れそうなものだけカゴに入れる。客に売る価格は、その場で本社が決める。
・リーダーを中心にグループになって、それぞれのグループで当日、売りに行くエリアを決める。現地に着いたら、ひたすら売り続ける。

 B社のシステムでは、グループのリーダーになるためには、一定程度売り上げ成績を上げなければならない。リーダーでも、いくつかのステージがあり、一番の上のステージになると、自分でフルーツ売りの会社を持てるようになるらしい。

 つまり、一国一城の主として、いつかは独立することができる、そうした夢が用意されているのだ。

 A子さんは、1日目はフルーツを40個売った。すると、リーダーから「今日はがんばったね』と4000円を手渡された。ボーナスかと思って喜んでいたが、それはその日の日当だったという。

 つまり、「日給1万円」という広告はウソで、完全出来高払いで、当日の売り上げ分に対して数千円が支払われるのみなのだ。

「2日目、3日目と、なかなか売れませんでした。ただ、3日目終了後に『できたら、給料は当日払いにしてほしい』とお願いすると、リーダーは『えっ、もう出来高の4000円は払ってますよ』と答えた。『それはおかしい。日給1万円と書いてあったから働いている』と日給の支払いを強く要求すると、そのリーダーは困惑したように『今、手元には2万円しかない。これで勘弁してほしい』と2万円を手渡された」(A子さん)

 そのリーダーの対応にあきれて、それ以降行かなくなったという。

 しかし、このB社、明らかに若者の労働を搾取する“労働マルチ”であり、やりがい搾取の典型ではないか。やりがい搾取とは、いろいろな仕掛けでやりがいを錯覚させることで従業員を低賃金で働かせ、搾取するというものだ。代わりがいくらでもいる若手からは、身体や精神が壊れるまで搾取する。その舞台装置が、自己啓発的な笑顔の朝礼、いつかは独立できるといった目標設定なのだ。

 今後、街で“若者のフルーツ売り”を見かけたら、搾取されていることに同情してフルーツを買ったりせずに、やりがい搾取から目覚めるよう逆洗脳をすることが必要かもしれない。
(文=松井克明/CFP)

松井克明/CFP

松井克明/CFP

青森明の星短期大学 子ども福祉未来学科コミュニティ福祉専攻 准教授、行政書士・1級FP技能士/CFP

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