
現在、5つのがんに対する集団検診が国によって推進されています。胃、大腸、肺、乳房、それに子宮の各がんです。しかし、どのがん検診も死亡率を下げる効果がないか、むしろ死亡率を高めてしまうものであることは、本連載で述べてきたとおりです。
検診でがんが見つかれば必ず治療が行われていますから、これは検査だけの問題でなく、治療の方法にも疑義があることを意味します。
では早期発見・早期治療ができるはずのがん検診で、なぜ死亡率が下がらないのでしょうか。
「がん=死」というイメージが人々の脳裏に焼きついています。日本では、昭和27年に公開された黒澤明監督作品『生きる』がひとつのきっかけだったように思います。映画の中で、がんを患った主人公を名優・志村喬が演じていましたが、「がんは必ず死ぬ病気」であることが強調されていました。しかし、本当にそうなのでしょうか。
その昔、がん細胞のかたまりを動物に移植すると、たちまち大きな腫瘍に成長して動物が死んでしまうという研究報告が世界中でなされました。がん=死であることが専門家の共通認識となり、やがて世界中の人々の知るところとなったのです。
しかし動物にがんを移植しようとしても、普通は拒否反応が起きるため、うまくいきません。もし移植したがんが動物の体内でどんどん大きくなったとすれば、よほどたちの悪いものを選んで実験を行ったと考えられます。動物実験の結果だけから、がんの性質を論ずることはできないのです。
何も治療せずに、病気を放置した場合にたどる経過を「自然史」といいます。『現代病理学体系-癌の自然史(藤田哲也著)』によれば、ヒトの胃がんや大腸がんは、1個のがん細胞がレントゲン検査や内視鏡検査で発見できるほどの大きさ(直径1センチメートル以上)に成長するまでに、理論上25年くらいかかるのだそうです。しかし現実には個人差も大きく、また、がんが発見されるとほぼ例外なく手術などの治療が行われるため、本当の自然史は誰にもわかっていませんでした。
放置と最新治療、5年生存率は同じ?
ところが最近、意外な事実が次々と明るみに出されるようになりました。
たとえば、CTによる肺がん検診が行われ、小さな変化まで見つかるようになりましたが、ある研究によれば、直径が3センチメートル以下の腫瘍では、サイズとその後の運命、つまり死に至るかどうかとは無関係であることがわかりました。