
先週の「極論君」は「医者に行くと早く死ぬ」と言っていました。今日の極論君は「抗がん剤を使うと早く死ぬ」と、また同じような論調でまくし立てています。一方の「常識君」は「がんもいろいろだから、効くものも効かないものもあるんじゃないの?」といった乗りで、いつもの無難な立ち位置です。
まず、抗がん剤が著効(とっても有効)なことは確実にあります。でも、抗がん剤が無効なことも結構あります。たくさんの経験から、「こんながんやこんな患者さんには有効だ」といった著効例の推測に基づき、ある程度の「当たり」をつけることも可能です。そして、たくさんの症例の集積からガイドラインというものが識者たちの集まりで決められたりします。
ともかく「抗がん剤のお陰」でがんが消失したり、がんが小さくなったり、がんと共存しながら予想以上に長く生きる人は現実にたくさんいます。薬は厚生労働省から認可される必要があり、臨床試験で有効性を確認できなければ市場に出ることはありません。その臨床試験の結果は、統計的に有益であることが説明できる結果ということです。これをエビデンスといったりします。ですから、グループ全体で見ると、飲まないよりも飲んだほうがいいし、抗がん剤の点滴をしたほうがしないで過ごすよりもいいのです。
しかし、これはグループ全体の統計的有意差で、かつその差は多くの方が思っているよりも大きなものではありません。一般の方が「抗がん剤が有効だ」というフレーズに抱く印象は、飲まない人が3年でほぼ亡くなるとすると、多くの人が10年近く生き抜くようなイメージではないかと思います。
しかし、そんなすばらしい差が出る抗がん剤はなく、またはごく限られたがんの場合のみで、通常は3年が3年半ぐらいに延びるというぐらいの違いです。でも、統計的には「有効」なのです。その延命効果はグループ全体のものですから、その中にはまれに奇跡のように長生きする人も含まれています。一方で、抗がん剤を使用したグループの中には、使用しないグループよりも短い命で終わった人も当然に含まれています。
重要な「当たり前の感覚」
「では、どうすればいいのか?」という根本的な問題が残ります。まず、経験的に効くことが多いと思われる薬剤は使用したほうがいいです。しかし、薬剤、特に抗がん剤は両刃の剣です。自分の体も痛めつけながらがん細胞を殺しているのです。がん細胞だけに有効な抗がん剤は、まだ開発の途中です。
つまり、抗がん剤が効いていなければさっさと投与をやめましょう。そして可能性があるほかの抗がん剤が残っていれば、それを使用しましょう。