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クックパッド、みにくい泥沼内紛…株価暴落、問題先送りで対立解消されず

文=編集部
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 料理レシピサイト運営のクックパッドで内紛は高い代償を払い、ひとまず休戦状態に入ったかのように見える。だが、まだ予断を許さない。

 事の顛末はこうだ。創業者の佐野陽光取締役が、3月に開催される株主総会で穐田誉輝社長を含む取締役全員(但し、佐野氏自身は除く)の交代を求める株主提案を行った。

 クックパッドは、料理レシピを投稿・閲覧できるサイトを運営している。レシピ数は219万、有料会員は180万人、月間利用者数は5500万人を超える日本最大のレシピサイトである。創業者で発行済み株式の43.62%を握る筆頭株主の佐野氏と、14.78%を保有する第2位の株主の穐田氏が激突する経営権の争奪戦に発展した。

 2月5日、「佐野氏の株主提案を会社側の取締役選任案と一本化することで合意した」とクックパッドは発表した。創業者の意向を反映した選任案をまとめ、この人事を3月の株主総会で決議するという。

 ただ、これは問題の先送りにすぎない。内紛の原因となった経営方針の違いを、どうやって克服するのかといった問題の方向性は、まったく示されていない。

 内紛が明らかになってから、2週間余りの間に株価は3割以上下落した。この間に時価総額は800億円近く目減りした。2月5日には一時、107円安の1372円まで下げ、昨年来安値を更新した。この日、クックパッドは2015年12月期の連結決算を発表。業績の好調ぶりをアピールするとともに、取締役選任案を一本化することで収束を図る方針を打ち出した。つまるところ、これは株価対策の弥縫策(びほうさく=一時しのぎ)だ。創業者と現経営陣の路線の対立はまったく解消されていない。妥協案が示されたのが決算発表当日であることが、それを物語っている。

 決まっているのは経営陣を選ぶ指名委員会で佐野氏の提案を踏まえ、株主総会に諮る取締役の選任議案を決めるということだけで、新しい体制も経営方針も決まっていない。
 

ベンチャー起業家とエンジェルの関係

 佐野氏と穐田氏は、ベンチャー起業家とエンジェル(創業間もないベンチャー企業に投資する個人投資家)の間柄である。

 慶應義塾大学環境情報学部を卒業した佐野氏は、1997年10月にクックパッドの前身であるコインを設立した。インターネット上で料理レシピを投稿・検索できる新しいビジネスだった。会社をつくった当時は、インターネット関連のニュービジネスが一斉に立ち上がった揺籃期だった。

 だが、クックパッドは創業以来8年間、営業赤字が続いた。そこに穐田氏がエンジェルとして登場した。

 穐田氏は青山学院大学経済学部卒業。ベンチャーキャピタル大手の日本合同ファイナンス(現ジャフコ)出身。独立してベンチャーキャピタリストとなり、価格比較サイト「価格.com」を運営するカカクコムに投資し、同社の社長に就任。株式上場を果たした。

 次に投資先として選んだのがクックパッドだった。クックパッドは2007年7月、委員会設置会社に移行、出資者となった穐田氏が社外取締役に就任した。同氏が上場の指南役となり、09年7月に東証マザーズに上場(11年東証1部に指定替え)した。

 12年5月、佐野氏は穐田氏を後任社長に指名して取締役執行役に退いた。佐野氏は生活の拠点を海外に移し、料理レシピの世界展開に注力することになる。

佐野氏の社長復帰案を棄却

 15年11月27日に行われた取締役会で内紛の火が噴いた。佐野氏が新たな事業プランと自分が社長に復帰する人事案を提出したからだ。これを受けて取締役会は「経営上の事業戦略の選択肢について精査、評価を行うための特別委員会を設置する」ことを決議した。特別委員会は社外取締役5人全員で構成された。

【特別委員会】
委員長 新宅正明・元日本オラクル代表取締役社長
委員  熊坂賢次・慶應義塾大学環境情報学部教授
委員  西村清彦・東京大学大学院経済学研究科教授
委員  岩倉正和・弁護士
委員  山田啓之・税理士

 特別委員会は同年12月18日、取締役会に勧告書を提出した。勧告書に基づき、取締役会は佐野氏の社長復帰の提案を棄却した。

取締役選任案を株主提案

 これを受けて佐野氏は反撃に出た。1月8日、3月下旬開催予定の定時株主総会で株主提案を行うことを通知。議案は「取締役8名選任の件」だった。これに対してクックパッドは1月19日、「佐野氏から経営陣の刷新を求める株主提案を受けた」と発表したのだ。

【株主提案の取締役候補者】
佐野陽光・クックパッド取締役
岩田林平・経済産業省おもてなし規格認証に関する検討会委員
葉玉匡美・TMI総合法律事務所パートナー弁護士
古川享・慶應義塾大学大学院メディアデザイン科教授/マイクロソフト元社長
出口恭子・医療法人社団色空会 お茶の水整形外科 機能リハビリテーションクリニック理事COO
北川徹・スターバックスコーヒージャパン・オフィサー/執行役員
柳澤大輔・カヤック代表取締役CEO
藤井宏一郎・マカイラ代表取締役

 佐野氏は、提案理由をこう記載している。

「基幹産業である会員事業や高い成長性を見込まれる海外事業に経営資源を割かず、料理から離れた事業に注力するなど中長期的な企業価値向上に不可欠な一貫した経営ビジョンに大きな歪みが出てきました。

 それにもかかわらず、一部の取締役は唐突に特別委員会なる組織を設置し、必要性もないのに多額の費用をかけて得た専門家の意見を濫用し、公正中立を装った『勧告書』なる文書を発して現在の自らの経営を正当化するなど、当社内に不要な亀裂と混乱を生じさせています。そこで、取締役を刷新して当社内の混乱を収束し、社内一体となって企業価値向上につながる経営を実践するため、本株主提案を提出します」

料理限定&海外展開望む創業者、異業種に進出する社長

 一般的に内紛は業績悪化が原因で起こるものだが、クックパッドの業績は好調だ。両者の対立は経営路線の違いにある。佐野氏は料理レシピを全世界に広めることを目標としている。特に、米国を主戦場と見なしている。だが、米国での月間利用者数は73万人にとどまり大苦戦だ。

 一方、穐田氏は株価を重視した時価総額経営を進めている。レシピの海外事業には消極的で、事業の領域をレシピ以外に拡大した。スーパー特売情報の提供や、食材の宅配などの新規事業を立ち上げた。結婚式場の口コミサイトを運営するみんなのウェディングなど異業種を買収し、「料理を中心とした生活インフラ」づくりを目指している。一言でいえば、多角化路線である。

 レシピサイトにこだわる佐野氏は、料理から離れた分野への展開が目立つ穐田氏を批判。料理に特化するよう求めたのである。

激突か、和解か

 内紛に株主市場の反応は冷ややかだった。クックパッドは1月19日、佐野氏から株主提案を受けたと発表。翌20日にクックパット株は23%下落してストップ安、21日も6%下げた。終値は18日の2130円から21日の1580円へと550円、26%下落した。そして、とうとう2月5日には1372円にまで崩落した。

 穐田氏は、社長就任当時300億円程度だった時価総額を4年足らずで6倍にした。その経営手腕は株式市場から高く評価されている。

 株価の急落は、株式市場が佐野氏の株主提案(=社長復帰)を支持しなかった証拠と受け止める向きも多い。佐野氏にとって、これは大きな誤算だったろう。佐野氏ら4人の株主提案者は44%の議決権を持つ株式を保有している。株主総会の帰趨は佐野氏に分があるのは間違いないが、たとえ社長に復帰しても、ほかの株主にそっぽを向かれては経営の舵取りは難しい。

 一方、穐田氏は社長続投、社長交代のどちらに転んでも対抗策がある。投資家は5年程度で投資を回収するのが普通。526万株の株式を保有する穐田氏は、持ち株を売却すれば100億円前後のキャッシュを手にすることができる。社長をクビになっても、投資案件としては成功といえる。

 もし、自分の意のままにできる会社にしたいのであれば、佐野氏がMBO(経営権の買い取り)を実施して非上場会社にすればいい、といった冷めた見方が株式市場にはある。

 自ら蒔いた種で株価が急落したのだから、クックパッドは早急に企業価値を向上させることだ。株価が戻らなければ株主(投資家)の反乱が起こる。そして、こうした内紛を再び起こさないための仕組みづくりを明確に示す必要に迫られている。
(文=編集部)

【続報】
 クックパッドは佐野氏側と第12回定時株主総会における取締役選任議案の一本化で基本的に合意した。この合意に沿って2月12日に指名委員会が開かれ、取締役選任議案を審議し、決定した。決定した案を同日の取締役会で決議した。

 定時株主総会における取締役選任議案
 取締役   佐野陽光 ※
 同     穐田誉輝
 同     岩田林平 ※
 同(社外) 新宅正明
 同(社外) 西村淸彦
 同(社外) 北川徹 ※
 同(社外) 出口恭子 ※
 同(社外) 藤井宏一郎 ※
 同(社外) 柳澤大輔 ※

 岩田氏、出口氏、北川氏、柳澤氏、藤井氏の5人は佐野氏が現経営陣を総入れ替えして新たに株主提案した時の名簿に載っていた佐野派である。

 一方、社長の穐田派は「経営上の事業戦略の選択肢について精査・評価を行うための特別委員会」の委員長の新宅氏と委員の西村氏の2人。穐田氏を含めて3人だ。特別委員会は佐野氏の社長復帰を棄却した。クックパッドは「今後の経営方針については定時株主総会後に、新たな取締役体制及び執行役体制のもとで速やかに策定し、公表する」としている。

 株主総会で承認されれば、6対3と圧倒的に佐野グループが優位に立つわけだ。対立がいったん収束したことを好感して、2月8日に株価はストップ高まで急騰。翌9日には一時、前日比371円(21%)高の2111円まで上昇した。1週間で24%上昇し、東証の値上げ率ランキングで首位になった。安値から反騰をみせていた株価に、この取締役議案がどう影響を及ぼすかが注目される。

BusinessJournal編集部

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