あなたはまったく勝ち目がないその戦いを今すぐやめるべきだ…圧倒的ライバルに勝つ戦略
「それは『me, too戦略』っていうんだ。失敗する戦略の典型だよ」
前職の日本IBM社員時代、米本社のある事業責任者に言われた言葉だ。
日本のあるソフトウェア製品市場で、ダントツに強いライバル製品があった。シェアは5割を超えていて、さまざまな営業施策を繰り出してもこのシェアはビクとも動かない。ライバルは国内代理店チャネルをしっかり押さえ、顧客から圧倒的認知を獲得していたためだ。
そこで同等の対抗商品を出そうと2年間検討し、営業戦略も練り直した上で、米本社の事業責任者に商品強化を強く要望した。しかし、彼は冒頭の言葉の後、次のように続けた。
「圧倒的に強いライバルがいるのだから、同じ事をしても絶対に負ける。市場のルールを変えなきゃダメだ。『ルールを変える戦略(change rule strategy)』を考えて持ってくれば、投資を検討してもいい」
言われてみれば、確かにその通りだ。そこでこの宿題に答えるべく、プロジェクトを開始した。
わかったことがあった。圧倒的に強いライバルは、現在主流ではあるものの古い技術を使っていた。なので、顧客が使う際にさまざまな制約があった。しかし顧客にとっては「制約があるのは当たり前」だったので、受け入れていたのだ。
一方で、数年前から市場では新しい技術が台頭していた。この新技術を使えば、それまでの「あって当たり前だった制約」がなくなる。そして市場にはこの新技術を生かした定番商品はまだなかった。
そこで先の事業責任者に、「この新技術を生かした製品を投入すれば、顧客の潜在ニーズを満足させて新市場を生み出せる可能性がある」という分析を元に、戦略を立案し、新製品開発を提案した。
その後、新製品を市場に投入。「早く、安く、カンタン」を売りに製品市場での技術の世代交代を促進し、代理店経由でも販売を開始した。そして新製品はライバルの牙城を切り崩し始めた。このプロジェクトの出発点が、まさに事業責任者が言った言葉だった。
私たちは知らず知らずのうちに、圧倒的に強いライバルと同じことをしようとしていないだろうか。しかしそれは、勝ち目がまったくなく、新たな価値も生み出さない無益な戦いだ。実際には完全無欠に見えても、時代の変化によってライバルの足下は危うい兆候が出ていることも多い。それは何か、そしてどうすれば顧客に新たな価値を提供できるかを考え抜くことが、大切なのである。
(文=永井孝尚/ウォンツアンドバリュー株式会社代表)