シャープは国内の生産体制を見直す。大阪府・八尾工場は冷蔵庫生産を9月までに中止。栃木工場は液晶テレビ生産を年内に打ち切り、海外に生産をシフトする。
2年前に台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入って以降、ホンハイグループ出身の戴正呉会長兼社長が徹底したコスト削減などの事業改革を進めている。ホンハイの拠点を活用できる海外生産に切り替え、コスト競争力を高めてきた。白物家電も、成長が見込めるアジア地域に拠点を移し、国内生産から撤退することを決めた。2工場の雇用は、配置転換などで維持するとしている。
八尾工場は1959年に操業を開始し、洗濯機など白物家電の生産や開発を担ってきた。シャープが大阪府・堺工場の液晶パネルへの過大投資により経営危機に陥った際も、白物家電事業は継続して黒字を叩き出してきた。エアコンや電子レンジなどの生産が海外に移管されるなか、輸送コストの高い冷蔵庫だけは国内で年間、数十万台の生産を続けてきた。
栃木工場は1968年にカラーテレビの工場として稼働を始め、現在は超高精細映像の「8K」テレビなどを製造しているが、半世紀の歴史を閉じる。国内のテレビ生産は三重県・亀山工場に集約する。
家電の海外生産への切り替えは進んでいる。2018年3月期決算の海外売上高比率は7割を超えた。さらに海外事業を強化して、20年3月期には8割の達成を目指している。
シャープは中国東部の山東省煙台市に、電子部品などの生産や販売を手がける新会社、煙台夏業電子を現地の投資会社と合弁で8月中に設立する。シャープが約52億円を出資し、新会社の株式の7割を握る。
煙台にはホンハイが液晶テレビや一部の白物家電、ゲーム機などを生産する大規模拠点を設けている。新会社を通じてシャープの消費者向け製品の生産委託や、電子デバイスの販売といったグループ間での取引を拡大する狙いがあるとみられる。
代わって、国内は先端分野の研究開発に注力する。戴氏は6月の株主総会で「シャープは、もう液晶の会社ではない。ブランドの会社になる」と、革新的なアイデアを売る会社への転換を宣言。さらに、こうも付け加えた。
「1000万台以上生産しているトヨタ自動車が、なぜアリハバやテンセントの時価総額に負けるのか」
消費者向けの商品を製造するだけでは、会社の価値は評価されない――。こう信じる戴氏の念頭にあるのは、シャープの最大の顧客である米アップルだ。アップルは生産をホンハイのような電子機器の受託製造サービス(EMS)に委託し、自社は企画開発に特化して高い収益を上げている。
戴氏はシャープをアップルのような企画開発型企業に変身させることを考えている。高精細の映像技術「8K」や、あらゆるモノがネットでつながるIoT分野で輝くことが、当面の目標だ。人工知能(AI)を搭載し対話できる家電など、他社にまねできないユニークな商品を生み出し競争力を高めてゆく。
戴氏は、シャープの研究開発や商品企画のレベルを上げ、EMSのホンハイと役割分担を明確にしながら、収益を最大にするビジネスモデルを心に描く。