来春、今上天皇が退位、皇太子が新天皇に即位する「御代(みよ)替わり」が行われる。憲政史上初めての退位だけに、政府は皇室の伝統と象徴天皇制の在り方に留意しつつ、各種儀式を執り行う方針だ。
こうした諸行事を草の根からお祝いして、国民に皇室の伝統を伝え、退位と即位をつつがなく迎える役割の神社界が今、揺れている。神社本庁は総長が「辞任発言」をして迷走、靖国神社は「不敬発言」で宮司(ぐうじ)が交代、わずか1年の間に3人の宮司を頂く異常事態となっている。
全国8万の神社を傘下に置く神社本庁と、本庁に属さない単立の宗教法人として国家のために戦った戦没者を慰霊顕彰する靖国神社の混乱は、明治以降150年の歴史のなか、国家神道の担い手だった戦前と、一宗教法人として出発した戦後が、ほぼ同じ年月を刻む過程で、「国家の呪縛」から抜け出す時期を迎えたことを意味する。
安倍晋三政権が長期化し、日本社会の保守化が進むなかで、戦前への回帰を根底に秘めた日本会議が注目を集めるようになった。その中核に位置するのが神社本庁であり、傘下政治団体の神道政治連盟だった。宗教団体をはじめとする保守勢力の国民運動を推進するのが日本会議だが、手足となる人員や拠点を自前で持っているわけではない。
47都道府県に「神社庁」という組織があり、2万人の神職で8万の神社を包括する神社本庁の体制は、草の根国民運動の担い手に相応しい。8年目を迎えて支配体制を強固にする田中恆清総長は日本会議副会長であり、その右腕の打田文博神政連会長とともに安倍保守政権を支えてきた。
その象徴が、2016年の初詣に各神社に憲法改正署名活動のためのブースを設けさせていたことだろう。「憲法改正1000万人署名活動」の一環であり、神社本庁の立ち位置を明確にした。
だが、そもそも神道が国家と明確に結びつき、天皇を中心とした支配体制の一翼を担うのは明治維新以降のことであり、本来は祖霊信仰、「祭り」をはじめとする地域コミュニティの場であり、八百万の神を祀る融通無碍の宗教だった。
「氏子には共産党の信奉者だっているわけだし、改憲署名を強制するような支配体制は馴染まない。なのに、田中総長と打田神政連会長のコンビは、田中総長が副総長時代の04年頃から神社本庁に強権支配体制を築いた」(有力神社の宮司)