ルネサスが隠す、異例の2カ月工場停止の“不都合な理由”…経営危機下で巨額買収の暴挙
気になる2018年以降の営業利益率の低下
ここまで論じてきたように、中国経済の失速、産業向け半導体の落ち込み、過剰在庫の影響では、ルネサスが操業を停止しなければならない理由が説明できない。
しかし、図5のグラフで2018年後半に、営業利益率が急落していることが気になる。2018年第3四半期に7.3%、第4四半期には5.4%にまで低下している。また、2018年第2四半期に260億円を超えていた最終損益も、第3四半期に75.6億円に減少し、第4四半期には24億円の赤字に転落してしまった。
なぜ、ルネサスの営業利益および最終損益が大きく毀損したのか。
インターシルの買収が原因ではないのか
ルネサスは、米半導体メーカーのインターシルを2017年2月に約3200億円で買収した。インターシルの業績は、まだルネサスの決算には反映されていないが、この大きな買い物がルネサスの懐事情に影響しないはずがない。
そのインターシルの地域別半導体売上高構成比を見てみると、アジア向けが急拡大しており、2009年以降は約75%を占めるようになる(図6)。そのほとんどが、中国向けと見られる。
ルネサスはインターシルを買収する理由として、アナログ半導体の強化を強調しているが、筆者には拡大する中国半導体市場を攻略するための橋頭堡を目論んでいるように見える。
ところが、2018年以降、激化している米中ハイテク戦争の影響で、本当に中国経済が失速しつつある。中国ビジネスを主力とするインターシルは、その影響をモロに受けてしまったのではないか。そして、ルネサスの経営陣は、「インターシルの買収は失敗だった」ことを認めたくないために、本当の理由を公表しないのではないか。
さらにルネサスは2018年9月に、米Integrated Device Technology(IDT)を約7300億円で買収すると発表した。ルネサスは、インターシルとIDTの合計で1兆円を超える買収資金を投じることになる。そして恐ろしいことに、IDTのビジネスの約70%が、中国を主力とするアジア向けになっている(図7)。
ルネサスは、IDTの買収を即刻取りやめるべきである。
その理由としては第一に、今ルネサスは国内外13工場の操業を停止するほど財務状況が悪化している。まともな経営者なら、企業の存続が危ぶまれる時期に、このような散財をすべきでないことがわかるはずである。
第二に、米中ハイテク戦争の行方がどうなるか誰にもわからない。その展開によっては、中国経済がよりいっそう悪化する可能性がある。そのようなときに、中国ビジネスを主力としている企業を買収するべきではない。リスクが大きすぎるからだ。ルネサスは、インターシル買収と同じ過ちを犯してはならない。下手をすると、本当に会社を畳むことになりかねない。
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)