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“超高収益企業”ファナックの変調、利益6割減予想の衝撃…米中貿易戦争不況が日本企業に到来

文=編集部
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“超高収益企業”ファナックの変調、利益6割減予想の衝撃…米中貿易戦争不況が日本企業に到来の画像1ファナック HP」より

 米中貿易戦争の日本企業への影響力を見極める上で、ファナックの決算への注目度は高かった。ファナックは工作機械の動作を制御するNC(数値制御)装置で世界シェアトップ、産業用ロボットでは世界4強の一角を占める。

 2020年3月期の業績予想が衝撃を与えた。連結最終利益が前期比59.6%減の623億円になる見通しだからだ。事前の市場予想の平均値(QUICKコンセンサスは1079億円)を400億円以上下回る。1000億円を割り込むのは10年3月期以来10年ぶりとなる。

 売上高は15.5%減の5369億円、営業利益は53.6%減の757億円と2年連続の減収減益の予想。営業利益が半減するというショッキングな数字だ。営業利益率は14%となる。ファナックの営業利益率が20%を割り込むのは1994年3月期以来、実に26年ぶりのことだ。

 米中貿易戦争で中国企業の設備投資が停滞し、工作機械の頭脳である数値制御装置などFA(工場自動化)関連が低迷。スマートフォン(スマホ)需要も鈍化すると判断した。

 ファナックが手掛けるロボットや工作機械の受注動向は、設備投資の先行指標とされている。ファナックの大幅減益見通しは製造業の経営環境の厳しさを如実に示している。

地域別では中国、部門別ではロボマシンが大きく落ち込む

 同時に発表した19年3月期の連結決算の売上高は前期比12.5%減の6355億円、営業利益は28.9%減の1632億円、最終利益は15.3%減の1541億円。減収減益決算ながら営業利益率は25.7%と高い水準を保った。

 営業利益率15%以上はエクセレントカンパニー(収益力の高い超優良企業)と呼ばれるが、ファナックは日本を代表するエクセレントカンパニーだ。日本の製造業の営業利益率の平均は4%程度にとどまる。

 地域別売上高では国内は9.2%増の1497億円と増収だった。一方、中国は44.0%減の1209億円、米国が11.2%減の1286億円と落ち込んだ。中国ではエレクトロニクスや自動車を中心に業種を問わず振るわなかった。

 部門別売上高では主力のFAは5.0%減の2111億円、ロボットが4.5%減の2175億円。ロボマシンが39.5%減の1151億円と不振だった。

 ロボマシンとは、ロボドリルなど小型金属加工機械の総称。ロボドリルはiPhoneの筐体(機器を入れる箱)加工に使われるため、iPhone人気で需要が急増した。これでファナックは業績を大きく伸ばした。

 過去を振り返ってみよう。15年3月期決算は我が世の春を謳歌した。売上高7297億円、営業利益2978億円、純利益2075億円、営業利益率40.8%は、いずれも過去最高だった。中国とロボマシンが大きく寄与した。その中国とロボマシンが低迷。これが今期の大幅減益予想の原因となった。

5G対応スマホはロボマシンに逆風?

 中国事業は大別して2つだ。工作機械の頭脳であるNC装置などFA関連は工場の省力化に欠かせない。しかし、米中貿易戦争で企業が省力化投資を見送る動きが広がった。

 より深刻なのは、スマホの生産に使うロボドリルだ。

「ファナックは、もうスマホでは以前のように稼げなくなるかもしれない」

 株式市場からはこんな見方が浮上している。というのは、高速次世代通信規格である「5G」対応スマホの普及がファナックに逆風になるとみられているからだ。

 5Gスマホの本体は、金属ではなくガラスや樹脂など電波に影響しにくい素材に変わるといわれている。5Gは従来より高い周波数の電波を使うため、金属では電波が通りづらくなる恐れがあるからだ。金属を加工するロボドリルの出番が減る可能性が高いと市場では懸念されている。

工場のIoTデータシステムを次の成長の柱に育てる

 4月1日、実質創業者である稲葉清右衛門氏の息子、稲葉善治会長兼CEO(最高経営責任者)がCEOを退き、山口賢治社長兼COO(最高執行責任者)が社長兼CEOとなった。稲葉氏は引き続き代表権を持つ会長にとどまる。

 経営トップに就いた山口氏は、NC装置やロボットに続く牽引役を育てることに挑む。あらゆるモノがインターネットとつながるIoTを通じて、工場を見える化する「フィールドシステム」という仕組みづくりだ。工作機械など工場内のさまざまな設備をインターネットで接続し、機器から得られるデータを可視化して生産性を向上させる。

 人工知能(AI)ベンチャーのプリファード・ネットワークスと共同で工作機械の故障を未然に防ぐ技術を開発した。この機能を活用することで、消耗した部品を故障前に交換することが可能となる。

 世界のマーケットを俯瞰すると、独シーメンスなどライバルが多い。国内でも三菱電機や日立製作所などが数年前からIoTの基盤づくりに資源を投入しており、競争は激しい。NC装置やロボマシンのように圧倒的なシェアをファナックが握れるかどうかは未知数だ。

 20年3月期の業績を上方修正することができるのか。中国市場の回復を待つ厳しい1年になることだけは間違いない。
(文=編集部)

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