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堀田秀吾「ストレス社会を科学的に元気に生き抜く方法」

利他的な行動によって、自分自身の人生の幸福度が大きく向上との研究結果

文=堀田秀吾/明治大学法学部教授
利他的な行動によって、自分自身の人生の幸福度が大きく向上との研究結果の画像1
「gettyimages」より

 人事評価、査定等の時期になると、自分の成績・評価が気になってきますよね。成績・上司からの評価を上げるためには結果を出さなければ! 自分の手柄を立てなければ! と思うところですが、社会人歴の長いみなさんのなかには、自分の手柄、結果だけにこだわっていてはうまくいかない、と気づいている方も多いのではないでしょうか?

 京セラや第二電電(現KDDI)創業者の稲盛和夫氏をはじめ、「利他」の精神の大切さを説くビジネスの成功者たちは少なくありません。ビジネスの成功とまではいわずとも、普段の私たちの生活レベルでも、利他の精神、つまり他人の利益・幸福のために行動することは、さまざまなプラスの効果をもたらします。「情けは人の為ならず」――。自分自身がより幸せな毎日を過ごしていくために、利他的な行動をとることの重要性を今回はお伝えいたします。

 さて、「情けは人の為ならず」というのは、ただのことわざではないということが最近の研究で明らかになってきております。

 アイオワ州立大学のジェンティルらの研究では、他人の幸せを一生懸命考えるだけで、いろいろな良いことがあると実証されました。ジェンティルらの実験では、大学生たちをいくつかのグループに分け、建物の周りを12分間歩いてもらって、その間に視界に入った人々について、それぞれ以下のことをしてもらいました。

(1)それらの人々が幸せになることを心底願う
(2)それらの人々と同じ講義を受講したり、共有できる希望や感情について考える
(3)それらの人々と比べて自分が恵まれているかを考える
(4)それらの人々が身につけている衣服や装飾具に注目する(統制群)

 結果、(1)のグループが、不安感が減少し、幸福感が増加し、共感力も向上し、思いやりや連帯意識が高まるという、良いことづくめの効果が得られることが示されたのです。本来自己にとって有利な行動をするほうが幸福度を感じやすいはずであるのにもかかわらず、実際は自己中心的な行動をとるとかえって幸福を感じにくい、ということを明らかにした研究といえます。

具体的行動のほうが、より効果的

 では、なぜ人間にはこのような矛盾が生じるのでしょうか?

 この矛盾を解決するポイントは、人間が自分以外の他者と共同生活を営む生き物だという点にあるといえます。

 ご存知の通り、人間は本来社会的な動物であり、自分以外の他者と共同共存しながら生活をしていくことが根本にあります。これは人間以外の社会的な動物にも共通してみられることで、例えば働き蟻が担う自己犠牲であったり、象が池にハマってしまった仲間を助け出そうとする行為などが挙げられます。最近ですと、親をなくした生まれたての赤ちゃんオランウータンを、同じコミュニティの同じ月齢の子を持つメスオランウータンが育てた話も話題になりましたね。

 同じように、人間も社会的な動物として、困っている仲間を助けたり、自分の気持ちを抑えて相手のことを思いやったりしますよね。これらの行為は、動物としての人間の本来的な姿であるといえるのです。そのため、人間が社会的な動物として、他者とどう関わっていくかを考え、利他の精神をもって行動することは、人間の本来の姿にマッチしているといえます。

 さらに、人間にとってプラスになる利他的な行為のなかでも、より幸福度を高めてくれる行為があります。ヒューストン大学のラッドらの研究によれば、利他的な行為のなかでも、より目標達成がしやすい、具体的な行為をするほうが自身の幸福度を高めてくれるというのです。

 ラッドらの研究によると、抽象的な目標を立てて行動した被験者よりも、「他人を笑顔にする」や「リサイクルの量を増やす」などの、より具体的で、実行に移しやすい行動を行った被験者の方が、幸福度が高くなる、ということがわかりました。

「社会貢献をしよう」といった大きな目標の行動より、「あの人が体調悪そうで困っているから、仕事を手伝おう」などの具体的で、目の前のことに関する行動のほうが、より効果的なのです。「情けは人の為ならず」、古くから言い伝えられてきていることわざには、こんな科学的根拠があるのです。

 また、信じる者は救われる、いわゆるプラセボ効果も馬鹿にできません。利他的な行為は自分のための行為でもある。そう信じて行動していきましょう!
(文=堀田秀吾/明治大学法学部教授)

【参考資料】
Rudd, M., Aaker, J. and Norton, M. I. (2014). Getting the Most out of Giving: Concretely-framing a Prosocial Goal Maximizes Happiness, Journal of Experimental Social Psychology, 54 (September), 11-24.

Gentile, D. A., Sweet, D. M., and He, L. (2019). Caring for Others Cares for the Self: An Experimental Test of Brief Downward Social Comparison, Loving-Kindness, and Interconnectedness Contemplations. Journal of Happiness Studies, DOI: 10.1007/s10902-019-00100-2

堀田秀吾/明治大学法学部教授

堀田秀吾/明治大学法学部教授

 専門は社会言語学、理論言語学、心理言語学、神経言語学、法言語学、コミュニケーション論。研究においては、特に法というコンテキストにおけるコミュニケーションに関して、言語学、心理学、法学、脳科学など様々な学術分野の知見を融合したアプローチで分析を展開している。執筆活動においては、専門書に加えて、研究活動において得られた知見を活かして、一般書・ビジネス書・語学書を多数刊行している。

Twitter:@syugo_h

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