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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

クラシックオーケストラ、独特すぎる雇用事情…リストラできない、定年までずっと勤務

文=篠崎靖男/指揮者
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「Getty Images」より

 僕が芸術監督をしていたフィンランドのオーケストラでの、ある日の出来事です。午前10時に始まるリハーサルに、3分くらい早く着いたのですが、なぜか楽員はすでに着席し、一音も出さずにじっとしています。通常は、ウォーミングアップを兼ねて気になるところを練習したり、舞台裏でコーヒーを大急ぎで飲み終えようとしている時間です。しかし、その日はなぜかみんな揃ってシーンとしています。

「どうしたの?」とコンサートマスターに尋ねてみると、前回の楽員総会の取り決めで、リハーサル5分前にチューニングすることになったというのです。チューニングというのは、多くの楽器の音を同じ高さにそろえる大事な作業です。オーケストラの楽員を何年もやっていると、チューニングをした時点で、「これからリハーサルが始まる」と自然と気が引き締まり、指揮者が来るまでは静かにしているように体ができています。

 プロのオーケストラならば、チューニングには1分もかからないので、彼らは9時56分頃から、じっと前を見てリハーサル開始を待っていたのです。その背景には、同じオーケストラであっても、曲目によって楽器の編成が違うので、すべての楽員が確実に集まっているのは、リハーサル開始時かコンサート本番のみというオーケストラ独特の理由があります。その時間を使って事務局や楽員はさまざまな伝達事項を伝えるのですが、時間がかかる内容であったり、「それはおかしい。取り決めと違う」と数名の楽員が言い出して不穏な空気が漂ったりすることもあります。そしてもちろん、アナウンスに長い時間がかかってしまうと、限られたリハーサル時間が減っていきます。

 そんなわけで、指揮者を迎えてのリハーサルに影響を与えてはいけないというフィンランド人ならではの生真面目さから、開始5分前にチューニングとなったのですが、毎回、時間がかかるわけでもありませんし、アナウンス自体がないこともあるので、しばらくしたら自然にやめてしまったようです。

“出世”がないオーケストラ

 オーケストラと一般企業との違いは、たくさんあります。まずは、会話を通してディスカッションをすることはほとんどなく、基本的に静かにしているのが暗黙のルールです。たとえば、ホルンが難しいソロを吹いている最中に、弦楽器に出番がないからといって、いくら大切な話であっても声を出して話していたりしたら、ホルン奏者に睨まれるでしょう。もちろん、演奏をしていない際には、コンサートマスターや首席奏者が声を出して指示を出すことはありますし、仲間同士が言葉で確認し合うことはありますが、できるだけ短く、リハーサルに影響がないように配慮します。

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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