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杉江弘「機長の目」

成田空港「陸の孤島」化は運営会社による“人災”…なぜガラガラの羽田に向かわせなかった

文=杉江弘/航空評論家、元日本航空機長
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成田国際空港(「wikipedia」より/Nanashinodensyaku)

 9月に台風15号の影響で最大1万7000人が成田国際空港で足止めされ、1万3000人以上の利用客が一夜を明かした「事件」。

 事の発端は、成田空港からの地上の交通アクセスがすべて遮断されていたのに到着機が次から次へと着陸したことにある。国内でもっとも多く国際線の旅客が利用する成田空港が、行き場のなくなった旅客であふれかえる「陸の孤島」と化した原因と再発防止策について述べていきたい。

鉄道やバスの運休に無策

 台風15号が千葉市に9日午前5時前に上陸した結果、鉄道では成田スカイアクセス線が9日夕方まで、JR線では10日午前まで、京成本線が10日朝まで運休となり、バスも新空港道と東関東道が閉鎖され、空港からの交通手段がすべてなくなるという事態が発生した。

 このなかで鉄道については台風が関東地方に接近中に計画運休が発表され、成田国際空港会社(NAA)や国土交通省では事前に今回のトラブルが発生する可能性を予期して対策を準備する時間が十分にあったはずである。しかし両者は協議することなく、それぞれが一方的に主張を述べ合うだけであった。

 たとえば国交省成田空港事務所によると、同事務所は9日午後1時頃に近隣空港から成田に向かう便の着陸制限をする必要があるか、NAAに打診したが断られたという。つまりターミナルに利用客がたまり始めていたのに、NAAは着陸機を予定通りにどんどん降ろすという利益第一主義に終始したと言われても仕方がない。

 この点についてNAAでは26日になって「利用客に大変な不便と迷惑をかけた」と陳謝するとともに、一方では「国や航空会社、関係事業者と事前に十分な打ち合わせや訓練をしておかないと、適切な判断は難しかった」と釈明。「あらかじめ滞留者を増やさない体制を関係者で構築しておくべきだった」(田村明比古社長)と述べている。

 つまり、これまで非常時対応について関係者間でなんら話し合いが行われてこなかったと自ら認めたかたちだ。ただ、私は今回の事態を招いたのはNAAのみならず、運輸事業全般を統括する国交省をはじめ、入管と通関を管轄する法務省や財務省などにも責任があると言っておきたい。

到着機がなぜガラガラの羽田空港に向かわなかったのか

 結論から言えば、成田空港から地上のアクセスが断たれた段階で、以後着陸予定の航空機を羽田空港や茨城空港などほかの代替空港へ回せば今回のトラブルは最小限に抑えられたはずだ。特に羽田空港は前日から9日にかけて大量の欠航によって着陸機も少なく、ゲートもかなり空いていたので、受け入れは可能であった。加えて羽田空港からの地上のアクセスは問題ない。

 しかし、成田空港で何か問題が発生した場合、ダイバート(目的地以外の空港への着陸)する代替空港として羽田空港の使用については条件があり、航空会社にとってもダイバートのタイミングをめぐり上空待機をいつまで続けるのかと悩まされている事情がある。

 一般的に、成田空港に着陸できない原因としては、まず成田特有の放射霧の発生と春一番のような強風といった悪天候がある。次に、滑走路が2本しかないため先行機が滑走路上でトラブルを起こしたり、落下部品の点検で一時的に閉鎖されることもある。

 このような場合、航空機は上空で待機するか、燃料の問題で羽田空港などの飛行計画上の代替空港に向かうことになる。しかし、羽田空港に着陸しても乗客は機内に留めさせられ、燃料を積みなおして成田空港の運用再開を待って、再び成田空港へと向かうことが原則となっている。つまり羽田空港で入力審査や通関を果たしてフライトが終了することはないのである。

 この措置は国際線が成田に移転して以来、羽田空港の入管体制などが不十分との理由や、羽田にダイバートした便の乗客が入管できたとなると結果的に都心に近くなるので、成田で上空待機後に着陸した航空機との不公平が生じるとの考えから続けられている。このような事情から、羽田空港に向かうのはあくまで安全上の理由に限られている。

 それでも時に多くの航空機が羽田空港に向かうことによって、受け入れゲートや航空機の駐機スペースが足りなくなり、管制官はほかの空港へ向かうように助言することがある。どの空港に向かうかは最終的には航空会社とパイロットの判断となり、管制官や空港会社が決めることではない。

再発防止のためには各省庁の連携が必要

 成田空港での今回のようなトラブルを起こさないためにこれからやるべきことは、台風等の災害に対する基本マニュアルを省庁間で作成することである。その主管は国交省である。調整しておくべき課題の第一は、羽田空港や茨城空港でも今回のような非常時には入管と通関ができるようにすることだ。羽田に関していえば、すでに国際線のターミナルも拡大されて態勢は強化されているが、それでも人員が不十分とあれば人員を自衛隊のヘリで輸送してもらう方法もあるだろう。その意味で、防衛省との事前調整も必要となってくる。

 第二の対策は、国交省は気象庁からの情報をもとに、鉄道などの計画運休を事前に管轄する立場から、日本を含む世界の航空会社にダイヤ調整や十分な燃料を搭載するように通知すべきである。航空会社にしても、単に空港の天候だけで運航を決定しても、利用者に大きな負担がかかることは本意ではないはずだ。

 一般に、成田上空まで来て十分な燃料が残っていないとなると、ダイバート先は限られ羽田に集中することになる。羽田にダイバートする順番は基本的に先着順であるが、なかには燃料が少なくなっているとの通報で、管制官に優先着陸を要求する航空機も少なくない。進入のための順番待ちで上空待機しているときに、燃料切れを切り札のように使って優先着陸を要求する外国機に私自身何度も不快な思いをしてきた経験がある。公平性を確保する意味でも、特に外国の航空会社には十分な予備燃料の搭載を行うよう指導すべきであろう。

 そして、いつも羽田空港が代替空港として十分に使えるとは限らないために、横田の米軍基地もそれに加えるのはどうか。この場合、入管などは無理としても、一時的に避難して燃料を補給して条件が整ったら成田などに再び飛行できればいい。この問題には外務省もかかわってくるが、非常時対応ということで決して無理な要求ではないだろう。

 このほかにも、さまざまな各省庁間の調整が必要であろうが、それを行わないのであれば、今回のような空港の「陸の孤島」化を回避することはできないだろう。

(文=杉江弘/航空評論家、元日本航空機長)

杉江弘/航空評論家、元日本航空機長

杉江弘/航空評論家、元日本航空機長

1946年、愛知県生まれ。1969年、慶應義塾大学法学部卒業。同年、日本航空に入社。DC-8、B747、エンブラエルE170などに乗務する。首相フライトなど政府要請による特別便の経験も多い。B747の飛行時間では世界一の1万4051(機長として1万2007)時間を記録し、2011年10月の退役までの総飛行時間(全ての機種)は2万1000時間を超える。安全推進部調査役時代には同社の重要な安全運航のポリシーの立案、推進に従事した。現在は航空問題(最近ではLCCの安全性)について解説、啓発活動を行っている。また海外での生活体験を基に日本と外国の文化の違いを解説し、日本と日本人の将来のあるべき姿などにも一石を投じている。日本エッセイスト・クラブ会員。著書多数。近著に『航空運賃の歴史と現況』(戎光祥出版)がある。
Hiroshi Sugie Official Site

Twitter:@CaptainSugie

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