2016年後半から昨年半ばまで、東海カーボンの株価は上昇基調となった。これは、中国政府の景気対策や環境規制などを受けた、いわゆる“黒鉛電極ブーム”による需要の急速な高まりに支えられたもの。黒鉛電極ブームとは、電気炉で鉄を溶かすときに黒鉛の電極を使うため、主に中国の環境規制を背景に黒鉛の電極に対する需要が急拡大すると見られた動きだ。
ところが19年に入り、中国での需要に陰りが見えたことからブームが下火となり、東海カーボンの株価は右肩下がりになった。今年10月半ばの株価水準は、1年前のほぼ半分の水準に落ち込んでいる。最近では黒鉛電極への需要期待はしぼみ、多くの市場参加者が業績下方修正などへの警戒感を強めているようだ。
黒鉛電極を中心に収益を得てきた東海カーボンの業績は、中国などの鉄鋼生産の動向をはじめ、グローバル経済の動向に左右されやすい。現在、米国を中心に世界経済の先行き懸念が高まっている。同社は技術力の向上だけでなく、原価の引き下げや買収に伴うリスクへの対応力を高め業績を安定させることが必要になる。
中国の過剰生産能力と東海カーボンの業績低迷懸念
リーマンショック後、東海カーボンの業績および株価動向は、中国の政策や過剰生産能力に大きく影響されてきた。08年末から16年末ごろまで、同社の株価はおおむね500円を下回る水準で低迷した。この株価低迷には、鉄鋼をはじめとする中国の過剰生産能力の顕在化を受け、同社の業績が悪化傾向をたどるとの懸念が反映されていたと考えられる。
08年11月、中国政府は4兆元(当時の邦貨換算額で約57兆円)の経済対策を打ち出した。これを受けて、中国では公共事業や不動産開発のために、セメントや鉄鋼などの分野で生産能力が急速かつ大規模に増強された。
10年には中国の鉄鋼生産能力が年間8億トンに達した。これは、日本の約8倍だ。この時点で、約2割の生産設備は過剰となっていたとみられる。11年半ば以降、経済成長率が低下したにもかかわらず、鉄鋼生産能力は蓄積されてしまった。そのほか、セメントや石炭などの分野でも成長率が低下するなかで生産能力の調整が進まず、過剰生産能力が顕在化した。