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伊藤さん性的暴行、山口敬之氏の逮捕を中止した元刑事部長は菅官房長官の元秘書官だった

文=編集部
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勝訴判決後、東京地裁前でスピーチする伊藤詩織さん(AP/アフロ)

 ジャーナリストの伊藤詩織さん(30)が、元TBSワシントン支局長の山口敬之氏(53)から15年4月に性的暴行を受けたとして、1100万円の損害賠償を求めて起こした民事訴訟の判決で、東京地裁(鈴木昭洋裁判長)は18日、山口氏に330万円を支払うよう命じた。東京地裁の判決は、伊藤さんが被害を公表したことについて「性犯罪被害者を取り巻く状況の改善につながると考えたもので、公益目的だ」と指摘した。内容は真実で、山口氏が伊藤氏に対して反訴していた名誉毀損には当たらないと判断したという。

 一方、山口氏は記者会見し、次のように反論した。

「判決は納得できないので、すぐに控訴いたします。判決文を精査している。私は法に触れる行為を一切していない。我々の事実認定が無視されている。双方の主張の信ぴょう性が問われているが、私が述べたこと、行動を説明した部分はことごとく否定され、伊藤さんの証言や行動が一方的に真実とされている。(伊藤氏の証言に)客観的に嘘であるということがあるにも関わらず、伊藤さんの主張のみを真実認定している点について、今後、高裁で争っていきたい。

 刑事事件の捜査の段階で担当の捜査員は、山口氏、伊藤氏、双方の言っていることは矛盾しないと言っていた。それぞれの主張の食い違いをブリッジするものはブラックアウト、つまりアルコール性健忘です。伊藤さんがお酒を飲んで記憶が飛んでいるとすれば双方の主張に矛盾はありません。そうしたことを受けて不起訴になったことを強調したい」

 確かに山口氏が強調する「刑事事件の段階での不起訴」こそ、今回の事件が世界的に注目を集めている最大の要因だ。ここで、この事件を振り返ってみたい。

所轄に本庁刑事部長が「逮捕中止」命令

 今回の裁判での審理や訴状などで明らかになっている事件の経緯は、以下の通りだ。

・2015年4月3~4日 当時TBSの政治部記者でワシントン支局長だった山口氏は一時帰国中に伊藤さんと東京都内で会食。同日深夜から4日早朝にかけて準強姦行為をした疑いが生じた

・9日 伊藤氏が原宿署に被害を相談

・30日 高輪署が準強姦容疑で告訴状を受理

・16年6月8日 東京地裁が逮捕状を発行するも、高輪署は山口氏を逮捕しなかった

 なお、高輪署が逮捕しなかったことについて、「週刊新潮」(新潮社)は2017年5月25日号で、高輪署員が成田空港で帰国する山口氏を待ち受けていたところ、当時の警視庁刑事部長だった中村格氏(現・警察庁長官官房長)が「本件は本庁で預かる」と主張したため、逮捕が取りやめになったと報じている。

 同年7月22日、東京地検は山口氏の準強姦被疑事件を嫌疑不十分で不起訴処分とした。以降、伊藤氏は検察審査会に不服申し立てを行ったが、ここでも不起訴処分相当となり、伊藤さんは民事訴訟を起こした。

背景に警察キャリアの出世レース

 なぜ、警察の逮捕が取りやめられたのか。一部報道で指摘されているのが、「安倍晋三首相や菅義偉官房長官、中村氏と懇意だった山口氏が、官邸に救援を求めたのではないか」という疑惑だ。中村氏は「捜査上の理由」で山口氏の逮捕を差し止めたことを認めているが、官邸への忖度に関しては否定している。

 ちなみに警察庁内では、中村氏と現・警察庁刑事局長の露木康浩氏の出世争いがあったという。中村氏は民主党から自民党政権に代わった時期に、警察から出向して菅義偉氏の秘書官を務めていた。当時、将来の警察庁長官候補と目されていたのは露木氏だったが、中村氏は菅氏に政権交代後も秘書官を続けることを申し出て、官房長官の秘書官を続けたという。その後、官邸で人脈と政治力を蓄え、警視庁刑事部長に就任。以降、露木氏に対する警察庁内での出世レースでもリードを続けている。

 全国紙社会部記者は次のように解説する。

「中村氏は官邸人脈をバックに、露木氏をはじめ1986年警察庁入庁の同期を次々に追い抜いていきました。よほどの失態がなければ長官就任は固いと噂されています。官邸にとっても、もともと警視庁捜査2課に所属していた中村氏の経済関連の情報は有益だったようです。

 所轄の捜査員に対して本庁の刑事部長が逮捕停止を命令するということは、よほど差し迫った状況でなければありません。そもそも所轄署は都内に全部で102署あり、それぞれが捜査を行い、膨大な数の逮捕状が発行され、多くの容疑者が日々、逮捕されています。その中からどうして山口氏の件をピックアップし、刑事部長が自ら差し止めたのか。非常に不可解です」

 一方、現場の捜査員からは不満の声も聞かれる。

「民事で有罪が出れば、捜査上の細々とした事情など関係なく、現場の警察官の面目は丸つぶれです。少なくとも当時、空港まで山口氏の身柄を取りに行った捜査員は、表面は取り繕っていても、はらわたが煮えくりかえっているようですよ。

 身柄を取っていれば、山口氏から違った自白が取れたかもしれません。もっと緻密な捜査もできたでしょう。立件できるレベルに物証を固めることも、仮に証拠不十分で検察で不起訴になるにしても、もっと違う決着になったのではないでしょうか。

 警察組織では不条理なことは多々ありますけど、今回の件は殊更です。正直、現場の士気に関わる話です。まぁ、キャリアはノンキャリアの兵隊の士気なんて気にしていないんでしょうけどね」

 「上級国民」という言葉が社会に定着して久しい。今回の件もまた、「上の人間」に誰かが忖度したのか。それとも「下の人間」に忖度させたのか。山口氏が声高に自身の主張を叫べば叫ぶほど、この国を覆っている不条理で不可解な力学に気づかされるのは、とても皮肉なことだ。

(文=編集部)

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