3月28日、警察庁が2018年末までの暴力団構成員を発表した。警察庁のデータによれば、全国の指定暴力団の組員数(構成員、準構成員)は、前年より少ない約3万5000人。筆者の現役時代にはピーク時、山口組だけで4万人を超えるといわれていたから、当局発表だけみれば、その減少ぶりは顕著だ。
確かに、暴力団排除条例施行以降、ヤクザに対する取り締まりは強化され、組員数は減少の一途を辿っている。当局も、こうした数字を発表することで、自分たちの取り組みをアピールしたいところだろう。ただ、警察庁が示すこのデータが的確かといえば、以前から、そこには実情と大きな隔たりがあると業界関係者は口を揃えて指摘している。
「たとえば、今回、警察庁は全国の暴力団構成員数は約1万5600人と発表したが、構成員と準構成員の線引きがなんなのかがわからない。ヤクザの行儀見習い(戦闘服を着て、事務所に詰め、挨拶や掃除、電話の対応、お茶の出し方などをする研修生的な人員)を準構成員とみるのであれば、事務所に詰めて、寝泊まりしている部屋住み組員なども準構成員と見なすのが妥当だ。しかし、彼らが逮捕などされれば、れっきとした構成員として数えられているのが実態だ。仮に、ヤクザやその周辺者となんらかのつながりがある人間を準構成員とするなら、半グレだって、準暴力団という定義ではなく、暴力団の準構成員の定義にあてはまるのではないか」(業界関係者)
また、このように話す組幹部も存在する。
「ヤクザ事務所には毎日のように、他組織の破門状や絶縁状が全国の組織から届く。それだけ出たり入ったりが激しい業界だ。それをいちいち警察当局が把握できているわけがない。新規の新しい若い衆にしても、組員として登録することによって、法的に不利益しか生じない時代だ。どこの組織でも、当局に明らかに把握されている組員は別として、なるべく実態を隠すように対策している」
筆者の経験からいっても、大組織になればなるほど、3次団体や4次団体の組員数を把握できているかといえば、できていない。当事者側であるヤクザ組織が把握できていない人数を、警察当局が調査したところで、的確なデータを集計するのは不可能に近いはずだ。そもそもヤクザの収益にしてもそうだ。一般社会と違い、ヤクザ組織が収益を税務署に申告することもなければ、一般的に組員は親分クラスに至るまで、確定申告しないのが常識となっている。当局が発表する、暴力団の勢力にしても収益にしても、あくまで目安といった意味合いでしかなく、実態よりも小さい数字になっていると考えるのが自然ではないか。
そんななかでも、警察庁が集計した勢力のトップに立つのが、構成員と準構成員合わせて9500人を誇る六代目山口組だ。分裂してもなお、関東の2大組織、住吉会(4490人)、稲川会(3700人)よりも多いということになる。それに続くのが、六代目山口組から分裂し発足した神戸山口組の3700人。さらに統計上では、神戸山口組から離脱し誕生した任侠山口組も770人の勢力となっており、指定暴力団のなかでも上位に君臨している。このデータからみても、山口組という巨大組織の分裂がいかに業界全体に影響を及ぼしているのかがわかるのではないだろうか。
「第一次頂上作戦(1964年から始まった、警察当局による暴力団壊滅作戦)の時には、ヤクザ人口は18万人にも上ったといわれています。実態が把握されていないといっても、それが半数以下になったことは間違いない。ヤクザが法によってがんじがらめにされているなか、今後も警察庁から発表される勢力は年々縮小されていくのではないでしょうか」(犯罪ジャーナリスト)
だが、それはヤクザの水面下への潜在化につながっていくことを意味するとも考えられる。なぜならば、世間に対して、ヤクザであることを律儀に示す必要がなくなっているからだ。かつて、一定のコミュニティに対して、ヤクザは必要な存在として認められていた。そのために、ヤクザの看板を掲げ、ヤクザを名乗る意味もあったのだ。だが、今はそれを社会全体が許さなくなった。ならばと、極道を歩む人間はより当局に補足されにくい姿に変容していくはずである。当局発表の暴力団員数は、年々小さくなると同時に、その意味も失われていくのかもしれない。
(文=沖田臥竜/作家)
●沖田臥竜(おきた・がりょう)
2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、『山口組分裂「六神抗」』365日の全内幕』(宝島社)などに寄稿。以降、テレビ、雑誌などで、山口組関連や反社会的勢力が関係したニュースなどのコメンテーターとして解説することも多い。著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任侠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)など。最新刊は、元山口組顧問弁護士・山之内幸夫氏との共著『山口組の「光と影」』(サイゾー)。