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美容室業界、格安予約サイト&格安店登場以後で常識激変…“格安でも良質”店増加の背景

文=A4studio
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「Getty Images」より

 美容室の倒産が相次いでいる。東京商工リサーチの発表したデータによると、2019年の倒産は1月から10月までの累計で92店舗。2000年以降で最多といわれていた2018年の95店舗に、10月の時点で肉薄しており、2000年以降最悪の数字を記録すると見られている。

 年間100店舗程度の倒産であれば、さほどショッキングな数字ではないが、これは経営が立ちいかなくなり倒産した事業者に限る数値であり、実際は倒産前に自主廃業・休業している店舗が多いといわれている。また、この数字には個人事業主の店舗をはじめとした未登録店舗が含まれておらず、年間で数千~1万店舗ほど廃業しているという指摘もある。

 人口減少率や1000円カットといった高コスパの店舗が増加しているなか、美容室業界はどのような現状なのか。かつてパリコレクションでナオミ・キャンベルやケイト・モスらを担当した経験がある、スタイリスト・美容アドバイザー・美容専門家・コンサルタントの向川利果氏に話を聞いた。

華やかに見える美容室業界の低賃金・高離職率問題

 なぜ倒産店舗が増えているのか。

「実は、こうした倒産の多くは、複雑な要素が絡んだものの一側面でしかないのです。というのも、確かに閉店や倒産はかなり増えていますが、開業店舗数も多く10年前より2万店以上増えているという事実があります。つまり、業界全体が大きな変革期を迎えていることを示しています。十数年前頃に出現した格安で予約ができるクーポンサイトやアプリ、格安店の増加によって、業界形態は大きく変質し始めています。加えて、業界の多くの経営者たちが高齢化し、後継者不足に悩んでいます。こうした多くの要素が絡んだ結果の一面として、倒産数の増加があるのです」(向川氏)

 まず美容室業界の環境を知っておく必要があると、向川氏は続ける。

「この業界は大まかにいえば、美容師がアシスタント、スタイリスト、経営者という3段階でステップアップしていく構造になっています。アシスタントは、美容師免許を取った人が最初に就くポジションで、約2年ほど務めるのが一般的です。修行期間なので、夜に無給で練習を積まねばならず、労働基準監督署や親御さんからのクレームも少なくなく、やっとスタイリストになれたタイミングで業界から去る人も多いのです。

 次は、お店でカットなどの施術を担当するスタイリストです。アシスタントまでは固定給ですが、スタイリストになると歩合制になるケースが多いです。しかし、すぐに指名客がつかないため、場合によっては年収200万円前後しか得られないという方も多いのです。また、社会保険未加入や福利厚生もほぼないところが多く、将来を考えてやめてしまう人も多い。“3年で7割がやめてしまう”という業界の通例認識はこういう背景によるものです。

 最後に経営者ですが、美容室業界における経営者というのは、そのほとんどが自身も現場でヘアカットなどの施術を担当します。業界の慣例として、スタイリストから経営の職に就くという流れが大多数ですが、先ほど述べた“3年で7割”問題の影響で、後継者不足、そして高齢化が深刻な問題になっています」(同)

早計な開業&フリーランス化が招く業界全体の悪循環

 過酷な現状ゆえに、新たな道を模索する美容師が続出しているという。

「スタイリストになってまださほど経験年数を積んでない早期の段階で、個人経営の“一人美容室”を立ち上げる人が増えてきています。一人美容室であればイニシャルコストは最低限200万円ほどでも可能で、すぐに独立開業する人がここ10年数ほどで増えています。

 また、フリーランスで活動する人も増えています。個人で予約が入ったときだけ稼働する形態の美容師です。彼らは『面貸し』や『シェアハウス』と呼ばれる業務スタイルで、美容室の1席分を“1カ月いくら”といった形態で間借りするスタイルになります」(同)

 だが当然、現実は甘くなく、厳しい状況に陥ることが少なくないそうだ。

「サロン営業経験や技術経験の少なさなどもあり、集客や顧客化ができず客単価低下が進み、経営難に陥ってしまうという事例はよく聞きます。例えば、経験の浅いスタイリスト側からお客様に“提案”ができないという技術的な問題です。

 お客様が望んだオーダーをそのままオーダー通りにこなして終わり、となってしまうのです。それ自体は悪いことではないですが、売上を上げていくためには、カウンセリングやコミュニケーションの高さが必要で、お客様により良い提案をできるスキルがなければいけません。そういったスキルがないままでいると、次回来店に繋がらず[t1] 先細りになってしまい、立ち上げたばかりで閉店しなくてはいけないという事態にも陥ります。一方、そういった個人経営のお店やフリーランス化するスタイリストが増えたことで、業界全体の美容室がスタッフ不足となり、閉店せざるを得なくなるケースも増えているのです」(同)

 続いて、業界を変えた格安クーポン予約サイトやアプリ出現の有益性と弊害について語っていただこう。

「昨今はお客様がスタイリストを指名せず、低価格なメニューをオーダーする流れになっています。格安で予約ができるクーポンサイトやアプリはモバイル世代の20〜30代にフォーカスし、いつでも予約ができコスパ重視の客層を掴んで一気に人気になりました。しかし美容師にとってはメリットやデメリットもあります。

 美容師たちはある種、技術一辺倒で育ってきたがゆえに、PC操作や数字の計算に非常に弱い一面があり、そこをうまくフォローするシステムがあるというのがメリット。ホームページやSNSを開設しなくてもWEBから集客ができ、売上を打ち込めば顧客管理データなどを一括で処理してくれるといった機能が、美容師たちから重宝されています。

 しかし、予約サイトはリピート率の低さというデメリットも抱えています。美容業界の通説として、予約サイト利用者のリピート率は10%ほどといわれています。予約サイトはいわば比較サイトであり、料金や利便生を簡単に比較できるため、他に安いところがあれば、前回と同じ美容師でなくてもいい、とコスパ重視の客層が集まることが、そうした原因の一つです」(同)

 客がコスパ重視に傾くなかで、10年以上経験した美容師が、コスパ重視店舗に流れてしまう問題もあるという。

「コスパ重視店舗は開業の段階から経営者を別に立て、福利厚生や給与面、労働時間を明確にしているところが多いです。また、カットの技術に関しても、スタイリストとしてある程度経験した人が流れているので、私の目から見てですが“そこまで悪くない”と思う店舗は多く、実際繁盛しているお店もたくさんあります。

 一方、旧来の技術優先のお店には、こだわりの強い長年のお客様が付いていてくれていますが、50代以上の方たちが中心なので、いつまでも愛用してくれるとは限らないという現実もあります」(同)

今後問われるのは美容師の腕よりも“経営センス”?

 では、旧来型のお店に求められるものとは、なんなのだろうか。

「経営スキルと、そこに対する重要性の認識、そして意識改革です。先にお話しした美容師たちのステップアップ構造は、基本的に施術スキルを育むものなので、経営スキルを学ぶ機会がほとんどありません。しかし47都道府県には美容組合があり、経営相談や経営セミナーもあり、国庫補助金の交付を受けられるというメリットもありますが、任意加入なので認知度が低いのが歯がゆいところです」(同)

 最後に、業界の未来について聞いた。

「今現在の美容業界は客数減少に悩み、客単価の低下が加速しています。大きな流れとして高コスパ化していますが、高単価で利益率が高い店舗も多く実在し、今後さらに二極化するでしょう。

 新規オープンでも成功している人気店は、20、30代の客層をターゲットにしたコスパ重視店ですが、Instagramを活用し認知拡大に成功、“ファッション性が高く、低価格で毎月通える美容室”というコンセプトを確立してリピーターを獲得しています」(同)

「これはターゲット層の20〜30代がInstagramと相性が良く、またコスパだけでは美容室を選ばず、ファッション性も重視しているからです。さらにこのような人気店で働きたい美容師も多く、求人も成功しています。

 これらは経営やマネジメントの成功例であり、これからの美容室業界で生き残っていくためには、経営者がこうした明るい前例に倣っていく姿勢は大切でしょう」(同)

 これまではスタイリストのセンスや職人気質で成り立ってきた美容室業界。だが効率化が進む業界で生き残っていくには、経営者たちの根本的な意識の変革が急務なのかもしれない。

(文=A4studio)

A4studio

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エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
株式会社A4studio

Twitter:@a4studio_tokyo

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