
歌手の槇原敬之容疑者が覚せい剤取締法違反容疑(所持)で逮捕された。この逮捕を受けて、俳優の梅沢富美男さんが『バラいろダンディ』(TOKYO MXテレビ)で
「執行猶予がつくからやめられないんだよ! どんな形でもいいから覚せい剤をやったら懲役にいく、そういう法律を作らないとあとを絶たないと思うよ」
と発言したと聞き、私は唖然とした。
これは、「たるんでいるから、ひきこもりになるのであり、徴兵制を導入して、厳しい規律の下で半強制的に集団生活を送らせるべきだ」という主張と同じくらい短絡的で乱暴な意見だと思う。
そもそも、刑務所に入ったからといって、覚せい剤をやめられるわけではない。これは、過去のケースを見れば明らかだ。たとえば、歌手の清水健太郎さんも、タレントの田代まさしさんも、元体操五輪代表の岡崎聡子さんも、何度も覚せい剤取締法違反で逮捕されており、当然服役したはずだが、出所後に再犯を繰り返してきた。
きちんと治療を受けるべき
このように覚せい剤をなかなかやめられないのは、依存症という病気のせいなのだから、そのための治療を受けなければならない。残念ながら、現状では治療プログラムを受けられる刑務所は限られているので、覚せい剤依存症の患者が出所後にまた覚せい剤に手を出して再逮捕されるのは、仕方がないともいえる。
もちろん、刑罰にまったく意味がないわけではなく、それなりの抑止力にはなると思う。また、刑務所に入っている間は覚せい剤を購入することも使用することもできないので、クリーンな体になって出てこられる。
ただ、以前私の外来に通院していた50代の元受刑者の男性は、覚せい剤取締法違反で何度も逮捕され、刑務所に入っていたのだが、「ムショにいた間は、『出たら、あの売人のところに行ってクスリを買う』ことしか考えていなかった」と話した。
この男性は、覚せい剤取締法違反による逮捕と服役を繰り返しているうちに、家族にも友人にも見捨てられ、経済的にも困窮して、生活保護を受給するようになった。お金がないので、覚せい剤を購入することができず、アルコールに依存するようになり、精神科を受診した。すると、今度は睡眠薬や抗不安薬などの処方箋薬に依存するようになったのだ。