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岩田教授、ダイヤモンド・プリンセス船内の実態を激白…不可解な圧力、杜撰なウイルス対策

構成=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト
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ダイヤモンド・プリンセス号(写真:楢原光晴/アフロ)

 3月12日、WHO(世界保健機関)が新型コロナウイルス(COVID-19)に関して「パンデミック宣言」を出した。114カ国で感染者は11万8000人を超え、死者は4291人にも上った。日本でも感染者数が増え続けているが、これ以上の感染拡大を抑えるためにも、ダイヤモンド・プリンセス号での感染対策を検証すべきである。しかし、現時点で政府による検証はなされていない。

 ダイヤモンド・プリンセス号に実際に乗船し、内部の状況を動画共有サイト「YouTube」を使って日本国民のみならず、世界にも知らせた岩田健太郎医師(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授・神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長)。ダイヤモンド・プリンセス号内でのCOVID-19対策について赤裸々に語れるのは、岩田医師をおいてほかにいないだろう。船内で起きたことの一部始終を含め、今後のCOVID-19についての疑問や今後の展望などを聞いた。

ダイヤモンド・プリンセス号へ乗船の経緯

 なぜダイヤモンド・プリンセス号に乗船しようと考えたのか。

「日々、ダイヤモンド・プリンセス号でCOVID-19の感染者が増え続けていることだけが報道されるなかで、感染対策ができているのかどうかという情報がまったくありませんでした。環境感染学会やFETP(実地疫学専門家)が入っているとは聞いていましたが、どういったことが行われているかわからないので、船内の感染症対策が適切なのかを見たいと思い、乗船することを考えていました」(岩田医師、以下同)

 アフリカのエボラ出血熱、中国のSARS(重症急性呼吸器症候群)で、最前線での医療現場を体験してきた岩田医師にとって、感染者の増加を知るたびに船内の感染対策を危惧せずにはいられなかった。そんなタイミングで2月17日の夕方、沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科副部長の高山義浩医師から電話があったという。

「高山先生から『乗れます』と連絡がありました。しかし、なんらかの派遣の理由が必要なので、最初は『環境感染学会のメンバーとして行きませんか』という話が出ました。それを受け、環境感染学会の理事長にメールを送りましたが、当時すでに環境感染症学会は船から撤退していて今後、学会としては船に入らないことを決めたという話でした」

 環境感染学会は、なぜ撤退したのだろうか。

「メンバーの医師たちが、各病院での仕事が忙しいためという説明はありました。推測ですが、船内の感染リスクが高かったことも理由ではないかと思います」

 しかし、乗船するには大義名分が必要であり、次に高山医師は神戸大学病院のDMAT(災害派遣医療チーム)のメンバーとして行くのはどうかと提案したという。

「高山先生の提案通りDMAT メンバーとして乗船できることになり、2月18午前中に新幹線に乗って新横浜駅へ向かいました。ところが、新幹線の中で高山先生からの電話を受け、『DMATの“ある人物”から横槍が入り、乗船できなくなった。少し待ってください』と言われ、新横浜駅で待っていました」

 待機していると再度、高山医師から電話があり、「DMATのA先生の下でメンバーとして働いてください。感染管理はやらないでほしい」と言われたという。その言葉に合意し、厚生労働省の担当者の案内に従ってI Dを受け取り乗船したという。

「一部の人が『潜入した』『侵入した』と言っていますが、まったくの間違いです」

 乗船すると、DMATのメンバーからリーダーを紹介された。

「DMATのリーダーには、『あなたはDMATではなく感染症の方だから、感染対策をしてください』と言われました。厚労省やDMATのメンバーの皆さんに挨拶をしていると、国際医療福祉大学の和田秀樹先生がいらっしゃって、船内を案内してくれました」

 案内されているなかで、船内の状況を見た岩田医師は驚愕したという。

「危険でした。すごい危険を感じました。その時、私はサージカルマスクしか着けていませんでした。乗船の際、『防護服は着なくてよい』と言われていましたし、厚労省の方々もマスクだけで、船内で働くDMATメンバーも防護服なし。客室のほうに行く時だけ、DMATの本部で防護服を着るといった感じでした」

 さらに怖いのは、乗客が外に出る時間があったことだ。“隔離”と言いながらも、それは徹底されておらず、乗客は散歩などで客室を出ることがあった。岩田医師は直接、乗客と接することはなかったが、乗客が部屋の外に出るのを認識していた。

「乗客の姿は見ていませんが、『散歩の時間です』というアナウンスが流れていました」

 その上、動画で「(危険な)レッドゾーンと(安全な)グリーンゾーンがぐちゃぐちゃ」と指摘したように、危険なエリアと安全なエリアが区分けされていなかった。そんな危険ななかで、DMATメンバーたちは忙しく動き回っていたという。

「皆さん、健康監視、症状が出た人のチェック、藤田医科大学病院への感染者の搬送の準備などをしていましたが、感染対策の面で見ると危険です。レッドとグリーンのゾーニングを3メートルぐらいずらすだけでも全然違っていたはずです。だから差し当たり、そこからやってはどうかと提案するつもりでいました。リーダーには19時30分からのミーティングがあるので、『提案すべきことがあれば、その時に皆さんに話をしてはどうか』と言われていました」

突然の下船命令

 15時過ぎに乗船し、わずか2時間後の17時過ぎ、岩田教授に高山医師からの電話を取り継がれた。そこで告げられた言葉は、耳を疑うものだった。

「高山先生から『船から降りてください』と言われました。しかも、『どこの組織の誰からの指示かは言えない』と言うのです」

 岩田医師が船を降ろされた理由について、高山医師は自身のSNSでこう述べている。

<船には、DMATのみならず、厚労省も、自衛隊も、何より船長をはじめとした船会社など、多くの意思決定プロセスがあります。(岩田医師は)その複雑さを理解されず、私との約束を反故にされました。せめて、私に電話で相談いただければよかったのですが、(相談なしに岩田医師は)そのまま感染対策のアドバイスを各方面に始めてしまったようです。結果的に何が起きたか……。現場が困惑してしまい、あの方がいると仕事ができないということで、下船させられてしまったという経緯です>(高山医師のSNSより抜粋、現在は削除されている)

 これは事実なのだろうか。

「これは事実ではありません。少なくとも、誰かの仕事を邪魔したことはありません。『今すぐこうしなさい』などと指示を出したこともありません。具体的に何を邪魔したというのか、わからないんです。ミーティングで改善点を提案するために、DMATのメンバーに『直接、患者との面接をしないで、仕事することは可能ですか?』、また検疫の方に『PCR検査の同意書を紙でとっているが、口頭でとることは可能ですか?』という質問を、現状を変えられる可能性を知るためにしました」

 高山医師は、岩田教授が「でも僕がいなかったら、いなくなったら今度、感染対策するプロがひとりもいなくなっちゃいますよ」と語ったと明かし、「これは間違いです。毎日、感染症や公衆衛生を専門とする医師が乗船して指導しています。ご存じなかったんだと思います。まあ、ご自身に比べれば『プロのうちに入らない』と言われると、返す言葉もありませんが」と主張。まるで、岩田医師の態度が傲慢であったかのように批判している。

「高山先生に『これでいいんですか?』と言ったのは、『感染対策はこれでいいのか』という意味です。“専門家”については、高山先生が言うように『いた』というのが正しいでしょう。しかし、意思決定権のある専門家チームはいませんでした。僕が『専門家がいない』と、あたかもデマを飛ばしたような次元が違う話になってしまっていますが、事実ではありません。外国人記者クラブでも話しましたが、『in charge の専門家じゃない』と言いました。それは、“責任と権限を持った専門家がいない”という意味です。

 和田先生も、私と同じところで『ここをゾーニングするといいのにね』とおっしゃっていました。私が『なぜしないんですか』と聞くと、『それはいろいろあるんですよ』という濁した答えでした。専門家が入っていたとしても、彼らの助言が通用しない。本質的な意味で、専門家としてのファンクションができていなかったということです」

 専門家の意見が反映されなければ、感染対策はできないだろう。そのような内情が生み出したのが、ダイヤモンド・プリンセス号の感染者696人(乗客552人、乗員144人)という結果である。

 しかし、この数字も当初は706人と説明してきたが、一部重複してカウントしていたと訂正するなど、発表されたデータの信頼性にも欠ける。また、この数字にはチャーター便で帰国してから発症したオーストラリアや米国、香港などの感染者は含まれていない。

見えない圧力

「実は、一部患者の発症日の記録が取れていないんです。これについても、高山先生は『取れている』と言いますが、『きちっと取っている』のと『単に取っている』のは違う。2月19日にCOVID-19の最初のエピカーブ(流行曲線)が発表されましたが、151人のデータのうち92人の発症日がわからない。前向きデータ(開始してから新たに生じる事象について調査する研究)において、発症日の記録は重要です。感染研にメールで質問しても『わからない』という回答。感染研は同26日にもデータを出していますが、それについては触れていません。記録していなかったのか、なくしてしまったのか、151人中の92人ですからものすごい量のデータがないということです。少なくとも、この時点では。ですから、単に『データがあります』と言われても、話をはぐらかしているだけと感じます」

 動画を削除したが、なんらかの圧力があったのか。

「外国人記者クラブでも聞かれましたが、あの動画を場外乱闘の道具として使う人がすごく多くて、それは不本意でした。安倍内閣に批判的な人は、動画を攻撃の道具にして『(ウイルス対策が)できていないじゃないか』と使用していました。また、『日本の失態を外国に知らせるのはけしからん』と非難されることもありました」

 動画の削除は圧力ではないと言うが、下船に関してあった“なんらかの圧力”が現在も続いているのではないか。

「私に降りろと言ったのが誰なのか、謎はすごく多いです。要は政治だと思うんですが、学問的に決めるべきことなのに、『岩田が言っていることは学問的に間違っているから別の担当者にやらせる』というのではなく、誰かは隠して『出ていけ』という圧力をかけるような不透明なプロセスは、私に非があるかないかという議論以上に、諸外国から見たら危ういと映っていると思います。アメリカでやったら大問題ですよ」

 そんな日本政府が行ったCOVID-19対策について、岩田医師の評価は意外にも高い。

「日本政府は、おおむね良くやっていると思います。しかし、失敗とか成功に対する見極めが厳しい。日本の場合、結果に対する評価ではなく『メンツを潰した、潰さない』という話になってしまいます。何かがうまくいってないと指摘すると、そこにいる人を愚弄した、けしからんと言われるんです」

 それでも岩田医師は、ダイヤモンド・プリンセス号の対策に限っていえば「失敗だった」と断言する。

「高山先生は『ダイヤモンド・プリンセス号に関しては、しっかり対策できていた』と言うが、そうではない。高山先生が『できていない』と思っていたからこそ私を呼んだわけで、できているなら私を呼ぶはずがありません。高山先生は『船内にある本部を出すように進言してください』と、電話で私にはっきり言っています。彼もできていないことを認めているんですよ」

 岩田医師に対し、インターネット上では賛否両論が巻き起こり、否定派がいたのも事実だ。脅迫メールなどはなかったのか。

「あったのかもしれませんが、そういったメールは見ていません」

 一躍、時の人となったが、何か変化はあったか。

「国内外から、COVID-19対策に関する問い合わせなども日々受けています。ほかにも変わったことがありすぎて、特にこれとは言えません」 

日本のCOVID-19対策の是非

 日本のCOVID-19に関する対策は、おおむねうまくいっていると繰り返す。

「日本での感染者は1000人を超えているが、ほとんどがダイヤモンド・プリンセス号での感染者です。それを鑑みれば、日本の感染者数は少ないといえます。もっとも多くの感染者が出ている北海道は128人だが、道民の人口538万1733人から考えると、爆発的な感染拡大が起きているわけではない。東京都でも75人。検査数が1000人以上で陽性率10%未満ということは、検査が極端に少ないというわけではないことを意味します。患者を見逃していたとしても、国中で蔓延しているとは考えがたい。メディアなどで、『街を歩いていても感染者ばかりでは』などと表現するのは誤りです」(インタビュー時のデータ)

 では、感染拡大はなぜ起こっているのか。

「日本での感染は、クラスターによるものが多い。人が集まる環境がクラスターをつくります」

 満員電車は感染拡大の場となり得るか。

「あくまで私の推測だが、満員電車はあまり関係ないでしょう。その根拠は、これだけ多くの満員電車があるのに、クラスターが起きていないこと。満員電車が感染を広げるという仮説を立てるなら、もっと感染が広がるはずだが、現状はそうではありません。以下のような理由から、満員電車はリスクファクターではないといえます。

『満員電車では、あまり口を開かない』

『マスク着用率が高く、感染者がいたとしてもウイルスの飛散を防いでいる』

『マスクは、予防目的には意味がないが感染源の抑止効果がある』

『空間を共有する時間が短い』

『駅に停止するごとに扉が開き、換気される』

 これに対し、ライブハウスのような環境はクラスターを起こしやすい。もちろん、ライブの種類にもよりますが、特にみんながシャウトして人が触れ合うようなものは危険です。今は国を挙げて感染を押さえ込もうとしている時期。イベント自粛などの対策は、やりすぎるくらいでいいと思います」

検証しない日本

「ダイヤモンド・プリンセス号における感染対策がどうだったかを検証し、次に生かすことが大切ですが、日本は検証をしません。2012年の焼肉チェーンの事件が発端となり、腸管出血性大腸菌感染(食中毒)でレバ刺しが禁止になったが、出血性大腸菌感染の食中毒の発症率は下がっていないんです。つまり、レバ刺しを禁止することに意味はないといえます。だが、そういった検証をしない。2009年の新型インフルエンザの水際対策の時も、政府は『それなりに意味があった』と言っています。『完全ではなかったけれど意味があった』という言葉は100%正しいが、それは意味がないと同じで、正当化でしかありません」

 仮に、ダイヤモンド・プリンセス号に岩田医師が初動から入っていたら何をしたか。

「まず、ミッションを明確にしました。乗客を下ろすか下ろさないかは、降ろしたほうが感染対策的には正解だったが、降ろした後どこに入るかといった受け入れ態勢の問題があるので、船にとどめるのであれば、2次感染が起きないようにベストを尽くすべきでした。しかし、完璧な隔離ではなくスキがある状態で10日間を過ごし、2次感染が起きました。それは、場当たり的な対応だったと思います。

 ミッションを明確にし、さらに検証し、改善することが大事ですが、『一生懸命やったんだから、つべこべ言うな』といった風潮があります。日本はハーモニーを何よりも大事にするが、クライシスの時はリスクヘッジのほうが大事です。事実を直視するしかなく、安心を目標としてもだめ。安心を目標としたら、隠蔽国家になります」

 COVID-19は終息するのか。

「わかりません。しかし、わかっているのは、終息してもしなくても『日本はよくがんばったよね』で終わるということです」

 たとえば、国民の70~80%が感染すれば終息するものか。

「終息を“騒ぎ”という意味で取り入れるのであれば、そうですね。日常になれば関心がなくなりますから。現に私たちの周りには感染症がいっぱいあります。たとえば、ヒトパピローマウイルスで毎年3000人以上の女性が亡くなっていますが、多くの人は気にしないから安心していられる。だから、安心というのは怖いのです。COVID-19についても、あるのが当たり前となれば、『高齢者が感染すると死亡するウイルス』という認識となって、日常へ戻っていくでしょう」

 政府が感染拡大防止のため国民に自粛を求める今、我々は従うしかない。中国・南京は3月6日の時点で、16日連続で新規感染者を出していない。政府と南京市民による徹底的な封じ込めを行った結果だ。多くの店は閉店し、限りなく人と人の接触を避けるような体制をとっている。

 これからの日本が、活気あふれる日常を取り戻すか、COVID-19が日常化して死の恐怖と隣り合わせに生きる日々になるか、それは我々が今後、どう動くかに左右される。そして、日本政府が“メンツ”ではなく真実に向き合い、専門家の意見を聞き入れて“正しい感染症対策”を実行することを願うばかりである。

(構成=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)

吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト

吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト

1969年12月25日福島県生まれ。1992年東北薬科大学卒業。福島県立医科大学薬理学講座助手、福島県公立岩瀬病院薬剤部、医療法人寿会で病院勤務後、現在は薬物乱用防止の啓蒙活動、心の問題などにも取り組み、コラム執筆のほか、講演、セミナーなども行っている。

吉澤恵理公式ブログ

Instagram:@medical_journalist_erie

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