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コロナ禍で「東京差別」充満、次に起こる“仕打ち”…“東京で感染したのかも”報道の危険さ

文=明石昇二郎/ルポライター
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新型ウイルス肺炎が世界で流行 緊急事態宣言下の東京(写真:ロイター/アフロ)

「東京出張直後の感染」例が続出

 東京が、日本中から嫌われている。新型コロナウイルス感染症がじわじわと流行し、4月12日現在、東京23区は我が国最大の「新型コロナウイルス感染発生地帯」となっているためだ。筆者はその東京都内で日々取材し、執筆し、生活もしているが、感染してはいない。

 その「東京」へ出張で訪れた人が、地元に戻った後に発熱し、新型コロナウイルスへの感染が判明したとの第一報が流れたのは、筆者の知る限り、2月21日のことだったと思う。50歳の石川県職員の男性で、同県内ではこれが初の感染例だった。

 彼が利用した東京への交通手段は、往復とも航空機(小松空港→羽田空港)。2月12日から14日までの3日間、仕事で東京に出張し、石川県に戻った翌日の2月15日に発熱したのだという。解熱剤でいったんは熱が下がったものの、再び発熱し、咳と倦怠感も生じたので、3つの医療機関を受診したものの症状は改善せず、発熱から5日後の同月20日、4つ目の医療機関で肺炎と診断される。新型コロナウイルス感染の恐れありとしてPCR検査(遺伝子検査)を受けた結果、翌21日に新型コロナウイルス感染が判明していた。発症するまでの14日間に中国へ渡航したことはなく、「感染経路は不明」と報じられていた。

 この「東京出張後の感染」例を皮切りに、各地で“東京で感染したのかも”報道が相次いだ。

・3月18日 福井県福井市に本社がある化学メーカー「日華化学」の役員男性(50代)の感染が判明。3月6~8日、仕事で東京都内に滞在し、往復とも空路(小松空港→羽田空港)を利用。福井県内初の感染者だった。

・4月2日、大分市に住む会社経営者の40代男性が感染判明。東京へは、3月17日から20日までと、同月25日前後から27日までの2回、出張で出かけていた。

・4月3日、岡山市に住む自営業の60代男性が感染判明。3月18~20日、東京へ出張し、同月23日から発熱していた。

・4月4日、静岡県長泉町に住む30代の男性銀行員が感染判明。3月25日に東京へ出張し、同月31日に悪寒を発症。その後、味覚と嗅覚に異常を感じていたという。

・4月4日、岡山市に住む自営業の50代男性が感染判明。3月24~30日、東京へ出張し、往復とも空路(岡山桃太郎空港→羽田空港)を利用。東京滞在中はマスクを着用していたが、上京初日の同月24日に昼食をとった店が混み合っていたため、不安を感じていたという。岡山に戻った翌日の同月31日から、発熱やのどの痛みを発症していた。

・4月8日、沖縄市に住む30代男性が感染判明。3月28~30日、東京へ出張していた。

「東京」で何をしたから感染したのか

 いずれの情報も、それぞれの県当局が発表したものだ。そしてどの県も発表の際、不要不急の東京出張を戒め、出張自粛を呼びかけるメッセージを添えていた。東京出張の直後に感染が判明したのは間違いないのだろう。だが肝心の、

・出張先の東京で会った人に感染は確認されているのか。無事なのか

・東京のどこで感染したのか

・東京での感染源には何が考えられるのか

といった情報がまるでないのは、どうしてなのか。あまりにもアバウトすぎて、これから火急の用事で東京に出張する人にとっても、その東京で暮らす東京都民にとっても、何の参考にもならないし、感染拡大防止にも役立たない。4月4日に判明していた岡山県のケースにしても、本人の心当たりとして、“昼食をとった店が混み合っていた”という情報があるのみだ。東京では混んでいる飲食店の利用は控えろというメッセージなのか。となると、その混んでいた飲食店にいた客は全員「濃厚接触者」と見做される恐れがある。

 例えば、その「出張感染者」は昨今話題の「繁華街にある夜間営業中心の飲食店」、すなわち銀座や六本木などにある高級クラブに立ち寄っていたり、風俗店の呼び込みについて行ったり、あるいはライブハウスに立ち寄っていた等の事実はないのか。恥ずかしくてその「出張感染者」らは、そうした事実を隠してはいないのか――。

 そんなことを考えているうち、10年ほど前のある出来事を思い出した。新宿歌舞伎町にある「濃厚接触」が売りのキャバクラにリピーターとして出入りしていた某民放テレビ局のワイドショー番組スタッフたちの間で、口内ヘルペスが大流行したのである。もちろん、その民放テレビ局では箝口令が敷かれていた。

 今の東京で外食したり息を吸ったりしただけで新型コロナウイルスに感染してしまうかのような推測は、公的機関が発表する情報として大いに問題があるし、事実としても間違っている。その証拠に、筆者はこの間、都内から一歩も出ずに暮らしているのに、家族も含め、一人も感染していない。外出の際にはマスクを着用し、こまめに手洗いを励行し、公共交通機関の利用を極力控えているからかもしれない。

 匿名の輩による無責任なツイッターの放言とは違うのだから、地方自治体の首長や職員の皆さんは、ぜひ冷静さを取り戻し、不確かでいい加減な風評を引き起こさぬよう、自らの発言に責任と自覚を持っていただきたい。

「東京差別」の次に来るもの

 今や東京はすっかり“汚染都市”扱いである。特に国の「緊急事態宣言」が出た4月7日前後からは、東京とそこに暮らす人たちに対する差別感や蔑視のまなざしが日本中に充満している。3月末から4月上旬にかけ、東京から帰省した人が新型コロナウイルスに感染しており、帰省先で家族に感染を広げてしまう事例が静岡県や佐賀県、秋田県、富山県などで続発。そのため、この時期に帰省するのは「迷惑」だとの風潮が生まれ、新型コロナウイルスへの感染を恐れた「東京脱出」や「コロナ疎開」は、人の迷惑を顧みない不心得者の所業と見做されている。その結果、たとえどんな火急の用事で帰省するのだとしても、周囲には内緒にして、実家にこもって過ごさざるを得ないのだという。

 東京からのUターンを拒む理由として、医療体制が盤石でない地方では、少し感染が広がっただけで簡単に医療崩壊につながる恐れがあるうえに、地方ではすさまじい勢いで高齢化が進んでいるという事情がある。

 それを踏まえたうえで思うのだが、今の非常事態は「コロナ疎開阻止」で凌ぐのだとしても、緊急事態宣言が出た7都府県以外の地方自治体は、いったいそれをいつまで続けるつもりなのか。緊急事態宣言が解除された以降のことも見据え、近視眼的な癇癪やヒステリーに振り回されるのではなく、どう対処するのかを冷静に考えていく必要はないのか。

 仕事や学業のために上京し、首都圏で暮らしている人たちは、今回の新型コロナウイルス禍で自分の故郷から受けた仕打ちを決して忘れはしないだろう。その故郷は、緊急事態宣言が解除された途端に手のひらを返すように「コロナ疎開阻止」「東京脱出阻止」の看板を下ろし、節操なく「来県大歓迎」の看板にかけ替えるのかもしれない。ただ、その思惑どおりに観光需要が戻るとは限らないうえに、解除されたことをきっかけに感染拡大が再発することも考えられる。

「東京差別」の次に来るものは、冷たい仕打ちを受けた人たちからの仕返しであるような気がしてならない。

(文=明石昇二郎/ルポライター)

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

1985年東洋大学社会学部応用社会学科マスコミ学専攻卒業。


1987年『朝日ジャーナル』に青森県六ヶ所村の「核燃料サイクル基地」計画を巡るルポを発表し、ルポライターとしてデビュー。その後、『技術と人間』『フライデー』『週刊プレイボーイ』『週刊現代』『サンデー毎日』『週刊金曜日』『週刊朝日』『世界』などで執筆活動。


ルポの対象とするテーマは、原子力発電、食品公害、著作権など多岐にわたる。築地市場や津軽海峡のマグロにも詳しい。


フリーのテレビディレクターとしても活動し、1994年日本テレビ・ニュースプラス1特集「ニッポン紛争地図」で民放連盟賞受賞。


ルポタージュ研究所

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