「危機」「非常時」「緊急事態」の名のもとに同調圧力が強まり、息苦しい空気が広がっている。新型コロナウイルス感染はいつか必ず終息するが、全体主義的な風潮がいったん根を下ろしてしまうと、社会を復元するには膨大な労力を必要とするだろう。
このような風潮のなかで、新型コロナウイルスの感染拡大に乗じた中国系住民や飲食店などへの嫌がらせやインターネット上でヘイトを煽る言動が一部に出ているのは、危険な兆候ではないか。
4月19日夕方、「コロナに乗じたヘイトをやめろ!4.19緊急アクション」と銘打った約100人のデモが東京・新宿アルタ前広場から出発し、外出自粛で人通りの少ない新宿の街でアピールした。
デモを呼びかけたのは、「差別・排外主義に反対する連絡会」。午後5時過ぎ、主催者が呼びかけの趣旨を話した。
「中国系の店に嫌がらせをしたり、『武漢ウイルス』だの『チャイナウイルス』などと言って、ヘイト的風潮を煽るような言動があります。
WHO(世界保健機構)は2015年5月8日に、感染症の一般呼称に関して地域名・人名などと結び付けたり、過度の不安を煽る用語は病名に含まれるべきではないと、各国当局、科学者、メディアに呼びかけています。
また、『子どもが遊んでいる』との通報により公園が閉鎖に追い込まれたところもあります。いま、コロナ危機の中でものを言えない雰囲気があると思います。主張してもいいんだ、デモをやってもいいんだ、とここで示したい」
デモといえば、「外出禁止されては生活できない」として外出禁止反対のデモがアメリカ各地で行われており、日本でも4月12日に「要請するなら補償しろ!」というデモが東京・渋谷で起き、注目された。
この「補償しろデモ」を呼びかけた女性も、マイクを握った。
「私も仕事を失い、とても厳しい状況です。怒りがたまっている多くの人がいる。そこでツイッターでデモを呼びかけたら非難されましたが、実行すべきだと考えました。補償もないまま家にいたら、政府に殺されます。
ものも言えず、自粛を要請されるような世の中に私は住みたくありません。同時に、コロナの終息後に私たちがどういう社会を目指すのかも考えていきたい」
さいたま市が一時、朝鮮幼稚園だけマスク配布対象から除外
高校授業料無償化制度から朝鮮学校が除外されたのは違法だとして、同校の生徒たちが国を訴えた裁判の支援を続けている、元小学校教員の長谷川和男氏も参加した。
長谷川氏は生徒たちの裁判支援のため、1100キロメートルを行脚して幼稚園から朝鮮大学校まで全国67カ所を訪れた。
「危機的な状況になると、もっとも弱い人が切り捨てられる現実があります。先日、さいたま市が幼稚園などにマスクを配る際、朝鮮幼稚園(埼玉朝鮮初中級学校・幼稚部)だけ除外すると決定しました。
新型コロナウイルスの感染を防ぐにあたって、朝鮮幼稚園の職員や園児たちは関係ないと判断したのです。これは非常に怖いことです」
3月6日、さいたま市が備蓄する24万枚のマスクのうち9万3000枚を、市内の保育所、幼稚園、放課後児童クラブ、放課後等デイサービス事務所等の乳幼児や小さな子どもたちが集まる場所、また高齢者施設や介護施設の職員向けに配布すると決定した。
ところが3月10日、配布対象から朝鮮幼稚園をはずす旨の連絡が園長に入った。これについて園長がさいたま市「子ども未来局」に問い合わせると、除外した理由を「(同幼稚園が)さいたま市の指導監督施設に該当しないため、マスクが不適切に使用された場合、指導できない」というものだった。
マスクが足りなくて困っているなかで“不適切な使用”とは、どのようなことを指すのかわからないが、保護者をはじめ関係者が抗議すると、13日になり一転して配布を決定。
さいたま市長は、「枚数が用意できたからであり、抗議されたから決定を変えたのではない」旨を述べた。明らかな差別にもかかわらず、開き直っているといえる。この「さいたまマスク騒動」は、現代日本社会を映す鏡でもあるところが怖い。
当サイト記事『新型コロナ恐慌でホームレス激増の恐れ…消費増税との二重苦、リーマンショック以上の打撃か』でも伝えたが、コロナ災害は経済的弱者とともに日本国籍以外の人々を襲う危険性が高い。
いま多くの人は、危機に立つ医療現場を救い、自分と家族を守る、自分の職や生活を守ることで頭がいっぱいだろう。
それは当然であり必要なことだが、パンデミックから生まれる差別や排他的風潮にも警戒が必要だ。
デモ当日、新宿に集まった人々は、そのような危機感を共有しながら出発した。
「コロナに乗じたヘイトを許すな」
「表現の自由を守れ。集会デモの自由を守れ」
「警察は職質をやめろ」
「安倍は辞めろ」
と宣伝カーがアナウンスし、全員がマスクを着け、デモにしては短い30分間の行進をした。
(文=林克明/ジャーナリスト)