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コロワイド、大戸屋“乗っ取り劇”の全真相…大戸屋創業者の長男を抱き込み、敵対的TOBも

文=編集部
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大戸屋の店舗(「Wikipedia」より/Asanagi)

 コロナ禍のなか、定食チェーン「大戸屋ごはん処」などを展開する大戸屋ホールディングス(窪田健一社長)への敵対的買収劇が始まった。6月25日に開催される同社の株主総会に向け、筆頭株主で居酒屋「甘太郎」、焼肉店「牛角」などを運営するコロワイド(蔵人金男会長)が取締役候補12人を選任する株主提案を公表した。

 コロワイドは2019年10月、大戸屋の創業家一族から発行済み株式の18.67%を約30億円で取得(現在の持ち株比率は19.1%)。筆頭株主として大戸屋と経営再建について協議してきたが、大戸屋は独立経営の維持を主張。物別れに終わったことから強硬手段に訴えた。

 取締役の刷新を提案する。コロワイドの蔵人賢樹専務と澄川浩太取締役のほか、大戸屋の実質的な創業者で2015年に亡くなった三森久実氏の長男・智仁氏を含めた7人を役員の候補とする。大戸屋の窪田社長や山本匡哉取締役ら現在の取締役のうち5人も候補とするが、コロワイドは取締役の過半数を握る方針だ。

 株主総会で、この議案を通して経営陣を刷新できれば、TOB(株式公開買い付け)と第三者割当増資の組み合わせで持ち株比率を51%にまで高め、連結子会社とする。プロキシーファイト(委任状争奪戦)となり、大戸屋の勝利に終わった場合でも諦めない。再び臨時株主総会を請求し、経営陣刷新を求め、敵対的TOBを始めるとしている。

・株主提案 社内取締役(業務執行取締役)候補者(4名)

氏名(年齢)         略歴

蔵人賢樹(41)             コロワイド専務取締役

澄川浩太(41)             コロワイド取締役

窪田健一(49)             大戸屋社長

山本匡哉(46)             大戸屋取締役

・株主提案 社外取締役(非業務執行取締役)候補者(8名)

三森教雄(63)    大戸屋取締役(東京慈恵会医科大学外科学講座特任教授)

池田純(44)               大戸屋取締役(元横浜DeNAベイスターズ社長)

戸川信義(41)             大戸屋取締役(公認会計士)

小濱直人(54)             オフィス小浜代表取締役

河合宏幸(58)             公認会計士・税理士

田村吉央(37)             弁護士

鈴木孝子(58)             日本ユニシス購買マネジメント部業務プロセス企画室長

三森智仁(31)             スリーフォレスト代表取締役(前大戸屋常務取締役)

 三森教雄氏は久美氏の実兄。創業家と経営陣を和解させようと仲介の労をとってきたが、創業家が持ち株を処分したため、退任するとみられていた。

お家騒動の白眉は「お骨事件」

 騒動の発端は大戸屋を実質的に創業した三森久実会長(当時)が57歳で死去した15年7月に遡る。久実氏は池袋の食堂だった大戸屋を400店舗以上のチェーンに育て上げた立志伝中の人物だ。

 その後継をめぐり、久実氏の従兄弟にあたる窪田社長ら経営陣と、久実氏の妻の三枝子氏と息子で常務だった智仁氏が対立した。智仁氏は中央大学法学部卒。大戸屋のメインバンクである三菱UFJ信託銀行に新卒で入行し、2年務めた後、大戸屋に入った。当時、26歳と若く、三菱UFJ信託銀行も大戸屋経営陣も智仁氏を後継者にすることに難色を示した。大戸屋コンプライアンス第三者委員会(委員長・郷原信郎弁護士)がまとめた調査報告書が綴る15年9月8日の出来事は、テレビドラマ顔負けの面白さである。

<三枝子夫人は遺骨を持ち、背後に位牌・遺影を持った智仁氏を伴いながら、裏口から社内に入ってきて、そのまま社長室に入り、扉を閉めた上、社長の机の上に遺骨と位牌、遺影を置き、その後、智仁氏が退室し、窪田社長と二人になったところで、窪田氏を難詰した>

 窪田氏はメモを残していた。

<三枝子夫人は、30分ほどにわたり、窪田氏に対し、「あなたは大戸屋の社長として不適格。相応しくないので、智仁に社長をやらせる」「あなたは会社にも残らせない」「亡くなって四十九日の間もお線香を上げに来ない」「何故、智仁が香港に行くのか」「私に相談もなく勝手に決めて」「智仁は香港に行かせません」などと述べた>

 この事件が社内では「お骨事件」と呼ばれていたことまで報告書に記されている。16年2月、智仁氏は大戸屋を去った。

相続税を払うために保有株式をコロワイドに売却

 大戸屋の創業家と経営陣の対立は、煎じ詰めれば8億円とされる功労金の問題だった。創業家は相続税を支払うために遺産相続した大戸屋株式を売却すれば、会社と縁が切れる。これを最も怖れていた。大戸屋は17年6月28日、定時株主総会で創業者の久実前会長に功労金2億円を支払う議案を可決した。智仁氏と三枝子氏は相続した大戸屋株を担保に銀行から融資を受け、相続税を支払った。しかし、2億円の功労金では足りない。最終的には、コロワイドに保有株を30億円で売却して借金の返済に充てた。未人側にとっても、大戸屋の経営陣にも最悪の結末となった。

 大戸屋を去った智仁氏は16年2月、スリーフォレストという新興の宅配サービス会社の社長になった。介護を必要とする高齢者が簡単に外食チェーンのメニューを注文できる「ハッピーテーブル」というサービスである。しかし、高齢者向け宅配サービスは激戦区。最後発のスリーフォレストがどこまで食い込めるか。首を傾げる向きが多かった。

値上げで客離れを起こす

 その智仁氏が、コロワイドの株主提案の取締役候補に名前を連ねていたから大戸屋経営陣は驚いた。智仁氏はメディアの取材に「(コロワイドの)野尻公平社長が『大戸屋を日本一の定食屋にしたい』と言われ、涙が出た。創業者の理念を一番近くで見てきた自分が力添えしたい」と語っている。コロワイド側は、智仁氏を自分の陣営に抱き込むことで、「創業家の意向」を大義として掲げることができる。大戸屋のFCオーナーには、創業者の久実氏の信奉者が少なくない。

 稼働店舗数347店(3月末時点)のうち200店をFC店が占め、足元では新型コロナによる臨時休業が広がっている。FC店オーナーの離脱を防ぐことを、コロワイドは子会社化を急ぐ理由にあげている。

 大戸屋の既存店の売上は前年実績割れが続く。19年4月から20年3月までの通期で既存店売り上げは6.6%減った。3月(単月)は20.7%減と急落した。3度にわたる値上げが客離れを起こした、と指摘されている。昨年4月のメニュー改定で、当時720円(税込み)で最も単価が低く、人気メニュー3位だった「大戸屋ランチ」を、低採算を理由に廃止した。これが常連客の離反を招く引き金になった。

 大戸屋HDの20年3月期の売上高は前の期比3%減の250億円、最終損益は上場以来初の5億3000万円の赤字に転落する見込み。事業会社大戸屋の山本匡哉社長は3月31日付で退任。4月1日から持ち株会社大戸屋HDの窪田社長が大戸屋社長を兼務した。山本社長は業績不振による事実上の解任といわれている。

コロワイドはセントラルキッチンに変更する

 コロワイドが打ち出した大戸屋の経営改善策では、全国10カ所で稼働しているコロワイドのセントラルキッチンの共同利用や物流の共通化、仕入れの一元化で6億9000万円のコスト削減が可能と試算している。大戸屋の魅力はセントラルキッチンでなく店内で調理するところだ。野菜や肉などは各店舗でカットする。焼き魚の定食など前日にタレに浸して仕込んでおくものもある。店内調理だと、必然的に店舗運営にかかる人手が多くなる。開店前に仕込み作業を行うため労働時間も長くなる。店内調理を売り物にしてきたが、客数が増えなければ、コスト増となり、これが赤字に直結する。

 コロワイドと大戸屋の意見の対立は、セントラルキッチンか、店内調理なのかという点だった。大戸屋にとって店内調理は、他の定食チェーンと差別化できる、いわば生命線である。最大の魅力の店内調理をコスト削減を理由に中止しますとは言えない。

 コロワイドは大戸屋包囲網を絞る。3000円の食事券付きで大戸屋の株主にアンケートしたところ、「回答した約1万8000人の9割強がコロワイドの傘下入りに賛同した」という。大戸屋の子会社化は既定路線だとしても、創業家の智仁氏を復帰させるのは、吉と出るか、凶と出るか。発行済み株式の6割を保有しているとされる一般の個人株主が、智仁氏の取締役選任にどれだけの賛成票を投じるかが焦点となる。

(文=編集部)

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