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一ベンチャー企業が宇宙ロケット開発を大きく前進…巨額税金投入の官民共同開発は難航

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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インターステラテクノロジズ HP」より

 6月14日、北海道大樹町を拠点とするスタートアップ企業である、インターステラテクノロジズ観測ロケットの打ち上げを行った。今回は残念ながら打ち上げは失敗に終わったが、若いエンジニアが集まり、コストを抑えながら産学連携によってロケット打ち上げ技術の向上に取り組む姿には期待が持てる。

 これまでに同社は、身近な資材を用いてコストを徹底して削減し、小型ロケット打ち上げに成功した経験を持つ。政府主導のプロジェクトと異なり、民間企業には厳しい採算が問われる。インターステラは、組織を構成する一人ひとりの力を最大限に使って、より効率的に付加価値を生み出そうとしている。民間企業の中にそうした取り組みが増えることは、日本経済にとって重要だ。

 今後、新型コロナウイルスの感染は長期化し、日本経済は低迷することが予想される。社会と経済の閉塞感を打破するために、日本は民間の活力を引き出し独自の技術を生み出して、世界からリスペクトされる存在を目指さなければならない。そうした取り組みを進めるためには、インターステラと地域社会の関係などは参考になるはずだ。

徹底したコスト削減の重要性

 2013年に設立されたインターステラは、資本金1,000万円のスタートアップ企業だ。昨年、その小さな企業が国内初の偉業を成し遂げた。5月、同社が打ち上げた小型ロケット「MOMO3号機」は、発射の4分後に宇宙空間とされる高度100キロメートルを超え、最終的には高度113キロを達成した。日本の民間企業が単独で宇宙空間に到達するロケットを開発したのは、それが初めてだった。

 成功の背景には、徹底したコスト削減の取り組みがある。民間企業は収益性を高めなければ生き残れない。特に、スタートアップ企業のように収益を生み出す体制が十分に整備されていない場合、いかにコストを抑え、収益化を目指すかは避けて通れない課題だ。

 インターステラでは、大学院を修了した若きエンジニアを中心に、自分の手で宇宙に届くロケットをつくりたいと思う人が働いている。インターステラはネット通販や、ホームセンターで販売されている資材(汎用品)を用いてロケットを開発している。燃料タンクなどの主要部分に関しても、自社で溶接などの加工処理を行っている。そうした人々の創意工夫がMOMO3号機の打ち上げ成功を支えた。それは、人々の新しい取り組みが積み重ねられた結果、既存のモノや発想が新しい価値観と結合し、イノベーションが発揮された良い例だ。

 今回、5号機の打ち上げは失敗したが、同社は失敗の原因を迅速に突き止め、次回の打ち上げ成功につなげる意欲を示した。そうした姿勢が、国際競争に対応するためには必要だ。近年、米中を中心に通信衛星などを宇宙空間に運ぶためのロケット開発競争は熾烈化している。各国が、コストを抑え、小型かつ高性能のロケットを多く生産し、打ち上げ回数を増やすことを目指している。

 インターステラは1回の打ち上げ費用を5000万円程度に抑えることを目指している。同社のビジョンが実現すれば、日本の宇宙開発は大きく前進するだろう。

難航する官主導でのロケット開発

 事業の運転資金が潤沢ではないなかで、常にコスト管理を徹底し、改善を重ねて成功を目指すインターステラの取り組みは参考にすべき点が多い。

 政府は手厚い予算をJAXA(宇宙航空研究開発機構)につけ、ロケット開発が進められてきた。その背景には、ロケット打ち上げ実験のように、多くの人材と土地、専門の資材などが必要な分野は、民間に任せるよりも政府(官)主導で進めたほうが良いとの考えがある。

 民間と対照的に、政府には効率性や採算性を重視する発想が乏しい。そのため、どうしても官主導のプロジェクトに関しては、スピードやコスト面への意識が高まりづらい。JAXAのロケット開発は、品質に万全を期すために特注品の資材を用いるなど、1回の打ち上げには数十億円の費用がかかる。

 また、組織の対立などから開発が遅れるケースは多い。官民共同で開発が進められた中型のGXロケットの場合、エンジン設計などをめぐって組織間の衝突が解消できなかった。その結果、予定よりも開発が大幅に遅れコストが膨張した。最終的にGXロケット計画は旧民主党政権の“事業仕分け”によって中止された。

 高度な専門知識をもつ人材や企業からの技術面での協力が確保できたとしても、そうした生産要素をフルに生かすリーダーシップがなければ、新しい取り組みは進まない。突き詰めていえば、新しい事業にすべてをかけているという気概のあるトップなくして、新しい事業の育成は難しい。

 国が官民共同でのロケット開発に苦戦する一方で、中国は急速に競争力をつけている。中国では土地が国有だ。日本企業に比べ、中国の国有企業などが土地を取得する原価は極めて低い。その上、中国政府は産業補助金も支給してロケットを開発し、測位衛星の運用台数を増やした。これまでの日本の発想で競争が熾烈化する環境に対応できるとはいいづらい。

重要性高まる民間企業の活力

 インターステラには、コストの削減を徹底する以外の面でも参考になる点がある。その一つが産学連携だ。同社は室蘭工業大学と連携してロケットの部品開発などを行ってきた。本年3月に同大学はインターステラが拠点を置く北海道大樹町と連携協定を結び、施設の利用活発化などが期待される。

 インターステラのロケット開発は鉄鋼の町として発展してきた室蘭市にも影響を与え始めている。同市には航空機部品や金属加工を手掛ける企業が多く、航空関連の技術を高めようと企業の連携が進んでいる。インターステラが小型ロケットの打上げ技術を高めることができれば、産学連携や企業の提携は強化され、室蘭市がわが国有数のロケット・航空技術の集積地として存在感を発揮する可能性がある。

 また、インターステラのような小規模の企業にとって追い風となる変化も起きている。コロナショックの発生によって、欧米ではテレワークが当たり前になり始めた。日本でもテレワークを続ける企業は多い。テレワークは働く場所を問わない。自らの力を発揮すると同時に自然環境豊かな土地で生活のコストを抑えながら働くことも可能になる。生き方の変化と、インターステラが進める先端技術の開発が融合すれば、国内の要素を用いて、自力で独自の技術を生み出すことができるはずだ。それは、企業が拠点を置く地域だけでなく、日本経済にとって大きなプラスの効果をもたらす。

 当面、インターステラは打ち上げの精度を高め、収益基盤を確立しなければならない。同社がクラウドファンディングによって行った資金調達が1日半で目標額を超えるなど、社会の期待は高い。政府は、規制緩和や構造改革を推進し、インターステラのようなエネルギー溢れる企業を増やさなければならない。自力で世界が注目する新しいモノを生み出す企業が増えれば、日本の社会・経済の活力は高まるだろう。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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