市販の梅干しのほとんど、さらにカップラーメンや袋入り即席めんの多くに、原材料名に「ビタミンB1」、あるいは[V.B1]の文字があります。つまり、食品添加物のビタミンB1が添加されているということです。
ビタミンB1といえば、欠乏すると脚気などを起こす重要な栄養素です。したがって、消費者の目には、その大切な栄養素を添加物で強化しているように映ります。しかし、実際には違うのです。梅干しに添加されているビタミンB1は、保存料の代わりとして、日持ち向上の目的で使われているのです。
もともとビタミンB1は、豆類、緑黄色野菜、豚肉、牛乳などに含まれる栄養素で、欠乏すると脚気のほか、しびれや筋肉痛などを起こします。ビタミンB1は、チアミンともいい、その化学構造は解明されており、化学的に合成されています。
しかし、梅干しに添加物として使われているのは、チアミンそのものではないのです。その類似物質の一つが使われているのです。その類似物質とは、チアミン塩酸塩、チアミン硝酸塩、チアミンセチル硫酸塩、チアミンチオシアン酸塩、チアミンナフタレン―1,5―ジスルホン酸塩、チアミンラウリル硫酸塩の6品目です。
チアミン塩酸塩は、チアミンに塩酸を結合させることでつくられます。そして、チアミン塩酸塩をもとに、チアミン硝酸塩などほかの5品目が製造されています。
これら6品目は、別個の化学物質であり、性質や毒性も違います。しかし、チアミンの類似物質ということで、いずれもビタミンB1として食品に使うことが認められています。しかも、どれを使っても「ビタミンB1」という表示でよいので、消費者には6品目のうちどれが使われているのか、わかりません。
梅干しに使われているのは、チアミンラウリル硫酸塩です。なぜなら、上の6品目のうちで一番防腐効果が高いからです。
一般に梅干しは塩分が多いため、「しょっぱい」「高血圧の原因となる」という消費者の声がありました。そこで、製造会社では、食塩を減らした製品をつくる傾向にあります。また、はちみつや糖類を加えた甘い梅干しもあります。
すると、当然腐りやすくなり、梅干しの最大のメリットである長期保存が困難となります。そのため、防腐効果のあるチアミンラウリル硫酸塩を添加しているのです。梅干しに保存料を添加することでも、腐りにくくすることはできますが、その場合「保存料」という表示をしなければなりません。すると、保存料を嫌う消費者が多いので、その製品の売れ行きが悪くなる心配があります。
ところが、チアミンラウリル硫酸塩を使えば、「ビタミンB1」という表示で済みます。しかも、消費者の目には、ビタミンB1が強化されている製品と映り、かえって売り上げが伸びることが期待できるのです。
安全性に関する実験
では、チアミンラウリル硫酸塩は安全な添加物なのでしょうか。
チアミンそのものはビタミンの一種であり、安全性にまったく問題はありません。ところが、その類似物質は、そうではないのです。
ラットに対して1日に体重1kgあたり2gという大量のチアミン塩酸塩を10日間経口投与した実験では、体重が急激に減少し、5匹中3匹が死亡しました。解剖すると、肝臓、脾臓、腎臓の腫大が認められました。
一方、チアミン塩酸塩をえさに0.1%混ぜて、ラットに6カ月間食べさせた実験では、体重、臓器重量について、対照群との間に有意な差は見られず、解剖や病理学的検索でも有意な差は見られませんでした。つまり、チアミン塩酸塩を大量に動物に投与した場合、害が発生するということなのです。
チアミン硝酸塩とチアミンセチル硫酸塩の毒性は、チアミン塩酸塩と同程度です。チアミンナフタレン-1,5-ジスルホン酸塩は、動物実験の結果からチアミン塩酸塩よりも毒性はやや弱いと考えられ、チアミンチオシアン酸塩は、動物実験のデータが少なく、比較ができない状況です。
梅干しに使われているチアミンラウリル硫酸塩の場合、その毒性はチアミン塩酸塩と同程度と考えられています。したがって、大量に摂取した場合、悪影響が現れる可能性があるということです。
ビタミンB1は梅干しのほかに、多くのカップめんにも添加されています。ただし、カップめんの場合、梅干しと違って保存性を向上させる必要はないので、チアミンラウリル硫酸塩が使われているかどうかはわかりません。前述の6品目のうちのいずれかが使われているということです。袋入り即席めんも、ビタミンB1が添加された製品が多いのですが、カップめんと同様に保存性を高める必要はないので、6品目のうちどれが使われているのかは不明です。
原材料名に「ビタミンB1」と表示された食品はほかにもありますが、単にビタミンB1(チアミン)が添加されているのではないのです。チアミンラウリル硫酸塩などの類似物質が添加されているのです。そのことを頭に入れておいてください。
(文=渡辺雄二/科学ジャーナリスト)