
「週刊ポスト」(小学館)の仕事で、「日本郵政グループをもし、土光敏夫さんが経営すればどう変わる。どう変える」という記事を書いていて、「もし伊藤忠商事の岡藤正広会長CEOが三菱商事を経営したら、どう変える」を書いてみたらおもしろいと思った。6月に「2021年3月決算も三菱商事が首位になると予想する」と書いているが、少し様相を異にしてきた。伊藤忠の攻勢が目立つのだ。
伊藤忠はファミリーマートを完全子会社にして上場廃止とし、経営の自由度を高めることを決めた。コロナ禍であるが、岡藤CEOは今期「3冠」を目指すと宣言した。3冠とは時価総額、株価、21年3月期決算の税引後利益で三菱商事を抜き、業界トップになることを指す。時価総額、株価ではすでに三菱商事を抜き去り、その差はどんどん広がっている。
伊藤忠は「ファミマの完全子会社化は21年3月期の税引き利益4000億円に一定程度織り込み済み」(幹部)というが、「TOBが成立して、上場廃止(非上場化)に伴うシナジー効果が本当に出てくるのは来期(22年3月期)以降」(同)としている。ファミマを戦力化できればかなりの利益の上積みが期待できる。
当面の焦点は8月5日の伊藤忠商事の決算(4~6月期)の内容だ。「実は三菱商事も同日決算発表を予定していたが、8月13日に変更した」(兜町筋)。「伊藤忠の1Q(4~6月期)決算を見極めるための発表延期」(外資系証券会社の総合商社担当アナリスト)といった、うがった見方も出ている。ことほどさように伊藤忠の決算が注目されているのだ。
東京株式市場では「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が三菱商事株を売って伊藤忠株を買っている」と推測する。「これが、伊藤忠と三菱商事の株価・時価総額の逆転につながった」(大手証券会社)といった分析もある。かなりオーバーな言い方になるが「安倍政権が伊藤忠買い、三菱商事売りを決断した」ということになりはしないか。
逆風にさらされた三菱商事で有力OBからの垣内威彦社長に対する批判が強まっている。「繊維商社の伊藤忠に抜かれるとは……。ああ、世も末だ」(有力OB)といった具合なのである。伊藤忠を今でも繊維商社と考えている有力OBがいるから伊藤忠に負けたという冷厳たる事実に、このOBはまったく気づいていない。
垣内社長は、社長に就任した16年、「首位を奪還したら二度と(伊藤忠に)は譲らない」と明言している。今、この言葉が垣内社長に重くのしかかり「金縛りの状態」(三菱商事の幹部)といった、いささか荒唐無稽な情報まで流出している。
2016年4月、垣内体制になってから18年まで副社長は1人いたが、現在はゼロ。副社長不在の状態が続いており、「経営陣(ボード)の強化が喫緊のテーマではないのか」(別の有力OB)という意見もある。組織の三菱商事が伊藤忠に経営力で競り負けているのだ。