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JALとANAがコロナで赤字の一方、韓国航空大手が黒字確保の理由…迅速かつ果敢な施策

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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日本航空のボーイング777-300ER型機(「Wikipedia」より)

 新型コロナウイルスの影響によって、世界の航空業界の経営はかなり苦しくなっている。日本航空(JAL)とANAホールディングス(ANA)の国内航空会社の業績悪化もかなり深刻な状況だ。4~6月期、JALとANAは最終赤字に陥った。例年、帰省や旅行で航空旅客需要が高まるお盆シーズンの国内線予約率は前年同期の3割台にまで落ち込んでいる。国際線はさらに厳しく、航空各社の収益悪化は深刻だ。

 重要なポイントは、パンデミックが人々の行動様式を大きく変えたことだ。効果のあるワクチンが開発されるなどして世界経済がパンデミックから立ち直ったとしても、旅客需要がコロナ以前の状態に戻るか否かは見通しづらい。世界の航空各社は、より小さいパイ=需要をめぐって熾烈な競争に突入するだろう。

 日本の航空業界は経費の削減などに加えて、関連の流通分野への進出や貨物輸送分野などに関する新しいビジネスモデルの考案が必要だ。そうした新ビジネスモデルによって、収益を生み出せる体制を早急に整えなければならない。そのためには、経営者がかなりの覚悟を持って改革を進め、新しいビジネスを生み出せる体制を整備するしかない。それができる企業と難しい企業の優勝劣敗が、これまで以上に鮮明になる。

コロナショックに振り回される国内航空各社

 コロナショックが発生してから、国内航空会社の経営は感染者数の増減に振り回されている。4~6月期のJALとANAに関して、前年同期比でみた国内線の旅客数は両社とも前年同期比で8割超減少した。国際線はさらに深刻であり、JALで▲99%減、ANAで▲96%減と需要は消滅状態だ。

 特に、インバウンド需要=海外からの観光需要などの消滅は、航空業界をはじめ日本経済にとって深刻だ。北海道や九州など各地の観光地からは外国人観光客の姿が消えた。その結果、多くの宿泊や飲食、運輸関連の産業がかなりの打撃を被った。その状況を何とかして支えようと政府は「Go Toトラベルキャンペーン」を実施し、国内の観光需要によって地方経済を支えようとした。

 問題は、国内で感染が再拡大したことだ。地方自治体の首長から相次いでキャンペーンの見直しを求める声が相次いだのは、人の移動が増えることによって、感染の再拡大を食い止めることが困難になるとの懸念が高まったからだ。それでも、政府はキャンペーンを開始した。政府にとって、インバウンド需要の消滅が地方の観光産業などに与えた打撃は放置できるものではなかった。

 特に、夏休みを控えて帰省や国内旅行のための航空旅客需要が高まる時期に合わせて政府がキャンペーンの実施にこだわったことは、国内航空会社にとって大きかった。緊急事態宣言が解除されたのち、航空会社が国内線を徐々に復便させたことは、Go Toキャンペーンへの期待の表れだ。

 しかし、現状、世界はワクチンという新型の感染症に対抗する有効な術を持ち合わせていない。国内外で経済が再開され人の移動が活発化するとともに、感染状況の深刻さは増している。その結果、8月に入り国内航空各社は国内線の減便を余儀なくされるなど、現在の事業運営は感染動向次第だ。ワクチンの効果に関しては副作用の有無など不確実な点がある。航空会社には自分の力で目先の収益を確保する方策の立案と実行が不可欠だ。

逆風下で黒字を確保した韓国航空大手

 世界的に航空会社が厳しい状況に直面するなか、4~6月期、韓国の大韓航空とアシアナ航空は黒字を確保した。その背景の一つとして、韓国航空大手2社がオーナー企業であることの影響は大きい。

 大韓航空とアシアナ航空では、基本的に創業家が経営を指揮し、大株主の座にある。つまり、所有と経営が分離していない。経営者にとって自社企業の経営に失敗することは、すべてを失うことを意味する。近年、大韓航空もアシアナ航空も創業家一族の内輪もめや資金繰りの悪化によって経営状態は不安定化した。その上にコロナショックが発生しただけに両社の創業家は、中核企業である航空会社の存続にかなりの危機感を持っている。

 重要なのは、事業を守り収益を生み出さなければならないという経営者の覚悟だ。経営者の覚悟が、思い切った改革につながった。両社が黒字を確保した要因として2つの取り組みがあげられる。一つ目が人件費の思い切った削減だ。大韓航空では7割の従業員を一時帰休とし、アシアナは全従業員に無給休業を実施した。政府の雇用維持政策がそうした企業の取り組みを支えた。

 その上で、両社は旅客需要の落ち込みを貨物便で補った。旅客機を貨物便に転用し、それが収益獲得に貢献したことを考えると、韓国航空大手2社の変化への対応のスピードには学ぶべき点がある。先行きは不透明であり、大韓航空とアシアナ航空が黒字を維持できるか否かはわからない。ただし、政府の支援を取り付けつつ、さまざまなリストラや改革を行うことで黒字を確保した韓国航空大手の業績は冷静に受け止める必要がある。

 どのような状況下であれ、変化に適応し、組織全体が向かうべき方向を明確に指し示すことが経営者の役割だ。JALやANAでも、旅客事業の減少をどのようにしてカバーするか、経営者が確固とした信念の下、大胆な発想を取り入れて事業ポートフォリオを変革することが求められる。それは、コロナウイルスの影響に自らの力で立ち向かうという意味での自立した経営を目指すことといえる。

世界の航空各社が迎える大きな変化の局面

 日本の航空会社がそうした経営を志向できるか否かによって、今後の収益と財務内容にはかなりの影響があるだろう。そう考える理由として、コロナショックを境に、世界の航空業界が激変期を迎えていることがある。

 まず、経済のデジタル化の影響は大きい。コロナショックを境に、世界的にEC(電子商取引)を活用する消費者が増えた。それによって航空貨物需要が高まった。米アマゾンは航空輸送を手掛けるアマゾン・エア事業の強化に取り組んでいる。また、米国では貨物航空企業への成長期待が高まり、アトラス・エアなどの株価が堅調に推移した。航空貨物分野での競争は熾烈化するだろう。ANAJALの決算説明資料からは、そうした変化にどう対応するか具体的なイメージがわきづらい。

 それに加えて、デジタル技術の普及は航空旅客需要を低下させる一因だ。テレワークの普及によって多くの人が移動せずにビジネスを進められることに気づいた。飛行機を用いた国内外への出張の必要性は低下している。テレワークのプラットフォームを用いることによって、居住する場所を変えずに海外の企業で働くケースも増えるだろう。

 また、感染症から命を守るために、不特定多数の人との接触に忌避感持つ人が増えている。お盆時期の国内線の予約率の低さは、そうした考えの裏返しだ。その一方で、中古車需要や自動車のサブスクリプションの利用者が増えている。欧米を中心にスタートアップ企業と自動車大手などの提携によって空飛ぶ自動車の開発が進んでいることも、航空各社には競争上の脅威だ。

 ワクチンが開発されたとしても、新型の感染症への恐怖心は残るだろう。航空各社が利用客の不安を解消するには、中間席を外す、機内の清掃をより徹底するなど、コスト負担が避けられない。それは旅客単価の上昇などにつながり、世界の航空会社間の競争は激化するだろう。

 当面、JAL、ANAをはじめ国内航空会社の収益環境は厳しいだろう。航空各社をはじめ日本企業の経営者は相当の覚悟を持って変革を進めなければならない。変化に対応し、収益を生み出す体制を整えることが、日本企業が経済環境の変化の加速化に対応するために欠かせない。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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