
菅義偉官房長官の勝利がほぼ確実となった自民党総裁選だが、総裁候補に出馬した岸田文雄自民党政調会長の選挙後の処遇が永田町関係者の間では「裏の争点」となっている。ついこの間まで「安倍晋三首相の後継は岸田」という認識が一般的だっただけに、それが外れた今となっては「何の実績もないタダの三世議員」(自民党関係者)。約50人の所属議員を抱える名門派閥「宏池会」の領袖なだけに、ぞんざいに扱うわけにもいかないが、よいポストをあてがうわけにもいかず、もはや「党のお荷物」と化している。
演説は「サラリーマンのつまらないプレゼン」
8日に菅官房長官、岸田政調会長、石破茂元幹事長が総裁選立候補の立会演説会に登壇。最有力候補の菅氏は朴訥だが叩き上げ感がにじむベテラン議員の演説、石破氏は新興宗教の教祖のような怖さはあるが主張がはっきりしていてインパクトがある演説だった。
それに引き換え、岸田氏の演説は全く印象に残らないどころか、変にカタカナ語を使おうとしてみたりしており、「政治家にとって最大の武器の演説が全く鍛えられておらず、まるでサラリーマンのつまらないプレゼンだった」(全国紙政治部記者)。少なくとも、日本という国を背負って立とうかという人物が備えていなければならない気迫や信念は全く感じられなかった。
岸田氏は「デジタル田園都市構想」を目玉施策に打ち出し、地方を重要視する姿勢を見せたが、そもそも東京生まれ東京育ちのお坊ちゃんである。選挙区は広島だが、父文武氏の地元がそうだったというだけ。広島には選挙活動で立ち寄ったりはするだろうが、それで地方の実情を知っているとは言えないだろう。宏池会出身の故大平正芳首相の「田園都市構想」を参考にしたというが、こういう薄っぺらさがプロの投票者である国会議員などの評価を下げる結果となった。
「最有力候補から滑り落ちれば、本来は巻き返そうと2倍、3倍頑張ろうと思うものだが、ヘラヘラ笑っていてそんな素振りは感じられなかった」(ベテラン自民議員)
安倍辞任の日に新潟に出張
今回の総裁選をめぐる岸田氏の一連の動きを見ていて、今回の演説の中身のなさと共通するものがある。それは、危機感である。
まず、先⽉28⽇に安倍⾸相が体調不良を理由として辞任を表明したが、当日は午後から記者会⾒するとのアナウンスがあったにもかかわらず、新潟県に出張に⾏き、慌てて引き返すという醜態をさらした。⾃⺠党の臨時役員会が開かれた時も岸⽥⽒だけが間に合わず⽋席した。全国紙政治部記者によると、午前中に番記者から「さすがに今⽇はやめておいたほうがいいんじゃないですか︖」と問われたにもかかわらず、「予定通り」と出発したというのだから、⽬も当てられない。