
10月8日に日本テレビで発生した放送事故が波紋を呼んでいる。
これは、バラエティ番組『秘密のケンミンSHOW極』の終了後、『ダウンタウンDX』開始前の21時55分から、同局放送エリア関東圏で起こったもの。この時間は本来なら、ミニ番組『まもなくダウンタウンDX』が放送予定であったが、CMから突然「NETWORK」の文字が表示され、「ピー」音が流れ続ける事態となった。そのまま1分強が経ったあと、今度は海中などの風景画面に切り替わり、こちらも1分20秒以上流されることに。その後CMに移行した後は通常通りの放送に復帰し、『ダウンタウンDX』は問題なく放送された。
同じプログラムを放送中だった系列局の読売テレビ(近畿圏)ではこのトラブルは発生しなかったため、当初は日本テレビ側のトラブルかと思われたが、翌9日に読売テレビ側が、同局の「データ入力による人為的なミス」が原因で日本テレビ側に障害が起こったと発表。ネット上では、「こういう放送事故は久しぶりに見る」「昔を思い出す」など、昔は頻発していたこの種の放送事故を懐かしむような声も上がっていたが、局側にとっては、「やっちゃった」と笑って許されるものではないのだという。
かつてBSラジオ局が起こした、「4時間の無音放送」というとんでもない放送事故
「この事故を見た瞬間、責任者の左遷は避けられないのではないかと思いましたね」
こう語るのはあるキー局社員。今回のような放送事故は、テレビ局側から見れば“致命的なミス”なのだという。
「放送事故には2つある。本来放送してはいけないような内容が映るものと、今回のように放送自体が止まってしまうもの。前者も無論問題なのですが、後者はそれに輪をかけてまずい。周知の通りテレビ局は、放送法のもとで総務省から許認可を受けた免許制のなかで運営されています。しかし今回のような放送停止事故が起きてしまうと、最悪、その免許の取り消しにまでいたる可能性があるほどの由々しき事態なんです」(キー局社員)
免許取り上げによる放送停止は、テレビ局ではまだ過去に例はないものの、ラジオ局では有名な事例がひとつある。衛星放送経由のラジオ局、World Independent Networks Japan(WINJ)が起こした事故だ。
地上波テレビがアナログからデジタルに切り替わる過渡期にいくつか存在したBS系ラジオ局のひとつであった同局は、かねてよりの経営不振で放送内容の混乱が見られ局としての存続が危ぶまれていたなか、2006年9月に、なんと約4時間もの“無音放送”という放送事故を起こしてしまう。こうした不祥事が決定打となり、同局は2007年11月、総務省より認可されていた委託放送事業者の認定取り消し処分を受け、廃局となってしまったのである。
「たかがBSラジオ局といえばそれまでですが、しかしWINJの一件は、放送停止事故がどれだけ重大なことかを示す一例として、うちの局の研修でもよく使われていますね。放送法にもある通り放送局は、例えば災害時にはその被害を最小化するための放送をするよう義務を負っています。だから、そんなときに放送事故なんか起こしていては、放送法で課せられた義務を果たせない、ということになってしまうわけです。そういう意味で放送事故は、視聴者から見れば“笑えるミス”程度に見えるかもしれませんが、総務省からのお叱りを受けることもあり得るという意味において、局内においては“左遷もあり得る激ヤバミス”という認識なんですよね」(前出・キー局社員)
スポンサーを怒らせかねない、きわめてまずい放送事故
放送事故はまた、基本的にはスポンサーからの広告料で成り立っている民放局にとって、経営的な意味でもきわめて大きなミスなのだとこの社員は語る。
「今回日テレで起きた放送事故は、『秘密のケンミンSHOW極』と『ダウンタウンDX』という人気番組に挟まれた時間帯ですからね。当然スポンサー企業は、CMを流すために数百万、数千万単位という額の広告料を払っています。それが放送事故によってフイになった、あるいは視聴率が下がってしまったとなれば、営業的にはきわめてまずい事態。場合によっては『スポンサーを降りる』とさえいわれかねませんから。ただでさえコロナ禍でテレビ各局は軒並み売り上げが下がっていますから、そういう意味でもこうした放送事故は、本来は“あってはならない事故”なんです」(前出・キー局社員)