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木村誠「20年代、大学新時代」

コロナ禍が直撃した日本人留学生の受難…千葉大や関関同立が積極的な海外留学はどうなる?

文=木村誠/教育ジャーナリスト
コロナ禍が直撃した日本人留学生の受難…千葉大や関関同立が積極的な海外留学はどうなる?の画像1
千葉大学の総合校舎1号館(「Wikipedia」より)

 新型コロナは留学する日本人学生も直撃した。留学予定だったが、コロナで延期。費用が3分の1で済むオンライン留学を受けるケースもある。ただ、3年の秋以降になると時期的に就職活動とダブるので、留学を断念する学生も出てきた。

 すでに留学している学生は、もっと厳しい。たとえば、アメリカなどの州立大学ではもともと留学生の学費がアメリカ人学生より2倍以上高い上に、アメリカファーストのトランプ政権のもと、留学生は緊急経済支援の対象外とされていた。アルバイト先も閉鎖。通学が条件の学生ビザは、オンライン授業では認められない。まさに、八方ふさがりの状態だ。

 アメリカに次いで留学先として人気のある英国も、留学生は英国人の2倍以上の学費を払う。英国の大学全体で留学生は全学生の2割もおり、経営は留学生頼みの大学も少なくない。これがオンライン授業になれば、友達にも会えず、実習・実験もできず、留学の魅力も半減する。日本人の留学生も減るのは必至だ。

 英米など英語圏の大学こそ、コロナによって問題点が浮き彫りになっている。留学生も、国境閉鎖という想像もできない国際社会の変化に戸惑いを感じている。

日本人留学生が増加するも6割超が短期留学

 日本学生支援機構の「協定等に基づく日本人学生留学状況調査」によると、2018年度に大学などが把握している日本人学生の海外留学状況は11万5146人で、2009年度の3万6302人と比べて約3.2倍に増えている。ところが、2009年は1カ月未満の短期留学が46%、6カ月以上が26%だったのに、2018年は1カ月未満の短期留学が66%に増加、6カ月以上が13%に半減しているのである。

 留学に詳しい専門家は、留学を実りあるものにするには、せめて3カ月、できれば6カ月以上が必要という。しかし、外国の大学の高い学費や3年の後半にはスタートする就活などを考えると、1カ月どころか2週間未満の短期留学も目立つ。また、背景には、各大学が短期留学プログラムを設けており、その内容が充実してきた影響もあるだろう。

 留学生数の多い派遣国・地域は、アメリカ合衆国1万9891人、オーストラリア1万38人、カナダ1万35人、韓国8143人、中国7980人など、やはり英語圏が中心だ。

米国の私大では年間授業料700万円も

 昔は狙い目と言われたアメリカの州立大学は実質民営化が進み、学費も高騰している。総じて、英語圏の大学では留学生の学費は高い。だから、合格しても高額な学費を払えることが前提である。アメリカの私大では、年間授業料が700万円(1ドル=106円換算)に達するところもある。ちなみに、日本の国立大の平均は、最近値上げをした首都圏の一部有力大を除き、約53万5000円だ。私大でも医学部を除き、80万~150万円が相場である。

 この高学費が留学のネックになっているが、最近は日本の一般家庭でもその高学費に耐える高所得層が増加しており、また近年、日本でも返済不要の給付型奨学金が充実するなど、留学支援システムが整備されてきたことも大きい。ユニクロなど有力企業のオーナー経営者が独自に奨学金制度を創設するケースも増えている。以前は海外留学といえば帰国子女が目立ったが、最近はグローバル化で、将来設計として海外の大学で学ぶ方が有利という一般の高校生や保護者も増えているようだ。

 また、留学を考える場合、希望する国の入試が日本とは大きく違う。たとえば、アメリカの一般的な大学選抜方式は、いわゆるAO(アドミッションオフィス)方式である。学業成績だけでなく、ボランティアやスポーツなど学業以外の活動の実績が重視され、アメリカの大学進学希望者を対象に実施される共通外部試験のSATやTOEFLなど必要なテストスコアを提出する。日本の一般入試の本流のように、私大はほぼ一発の本試験、国公立はセンター試験(新・共通テスト)+個別の学力試験で決めるのとは大きく違う。

 前述したように英語圏の海外大学への留学希望者は多いが、国際社会でグローバルに活躍したいのであれば、英語圏以外にヨーロッパなどの選択肢も考えるべきだろう。ヨーロッパには、留学生も含めて国公立系の大学の授業料がほぼゼロの国もある。ドイツやノルウェー、アイスランド、フィンランドなどだ。また、主要国のフランス、イタリア、スペインなども、留学生も含めて学費はかなり安い。

 一方、英語圏の英国はケンブリッジ大学、オックスフォード大学など有名大が多いせいか、高い。英語圏にこだわらなければ、本人の問題意識に従って選べる留学先の候補は広がるはずだ。

留学必須の国際系学部はどうなっているのか

 近年、海外留学が必須となっている国際系学部が激増している。下図は、学科ではなく学部全体が留学必須の大学の主な例だ。

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 国立では、千葉大学が国際教養学部だけでなく全学的に留学必須という、思い切った構想を打ち上げている。そのため、国立大の標準授業料(53万円強)より高い授業料を課すことになった。他に標準額より高い国立大には、首都圏の有力大である東京芸術大学や東京工業大学などであり、千葉大の自負がうかがえる。全員留学の場合は、2週間~2カ月間という想定だ。しかし、コロナで全員海外留学の道は遠のきそうだ。

 留学必須の場合、いろいろなパターンがある、国際教養大学のように海外協定校との交換留学で多くの選択肢がある場合と、立命館大学のグローバル教養学部のように特定の大学との協定(オーストラリア国立大学)のデュアル・ディグリー・プログラムが全面的に組み込まれているケースがあり、両者は対照的だ。

 千葉大の国際教養学部などは、回数や時期などは学生が決めるが、1回は必須となる。九州大学共創学部は、1年間の交換留学や1カ月の短期留学などから選べる。おもしろいのは、新設の神田外語大学のグローバル・リベラルアーツ学部だ。入学直後にリトアニアやインド、エルサレムなどに滞在して3~4週間のスタディツアーがあり、さらに3年次後期にニューヨーク州立大学への長期留学と、2回の留学をする。

 ただ、これらの留学必須の学部でも、2020年はコロナで渡航中止勧告が出ている地域の交流や連携のある海外大学への留学は自粛が一般的だ。単学部で日本人学生の全員留学(1年間)が必須となっている国際教養大は早々に中止を決め、副学長名で公表した。

 コロナ感染が世界で広がり、2021年も多くの国への渡航禁止勧告が継続される場合、大学の留学制度の見直しも考えられる。

広島大はアリゾナ州立大のグローバル校を誘致

 2020年秋、国立大では初めてアリゾナ州立大学/サンダーバードグローバル経営大学院―広島大学グローバル校が、広島大学東広島キャンパス内に設置された。NHKなどで報道されたので、同大にはインターナショナルスクール生の保護者などからカリキュラムなどの具体的な事項について問い合わせがあるなど、反響は大きい。

 アリゾナ州立大学は「THE大学インパクトランキング2020」において世界5位(アメリカ1位)で、イノベーションなどの分野では世界トップクラスと評価は高い。総合力では「THE世界大学ランキング2020」で155位と、東京大学や京都大学を除く日本の旧帝大より高い。

 4年間を広島大キャンパスで学ぶ「4+0」と、後半はアメリカで学ぶ「2+2」のコースがある。授業料は年間約340万円と高額だが、アメリカでは珍しくない。このように、留学しないでも日本の大学で外国の実績ある大学の学位を取れるようになれば、選択肢は広がるであろう。

 コロナ禍によって留学のさまざまな問題点が浮き彫りになったが、逆にどのように日本のグローバル化を外国人や日本人の留学生が担うべきか、より具体的にその道筋の多様化を考える機会になったといえよう。

(文=木村誠/教育ジャーナリスト)

木村誠/大学教育ジャーナリスト

木村誠/大学教育ジャーナリスト

早稲田大学政経学部新聞学科卒業、学研勤務を経てフリー。近著に『ワンランク上の大学攻略法 新課程入試の先取り最新情報』(朝日新書)。他に『「地方国立大学」の時代–2020年に何が起こるのか』(中公ラクレ)、『大学大崩壊』『大学大倒産時代』(ともに朝日新書)など。

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