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千葉哲幸「フードサービス最前線」

女性客から支持、“ひとり焼肉”「焼肉ライク」人気の秘密…コロナ禍で飛躍の土台を確立

文=千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト
女性客から支持、“ひとり焼肉”「焼肉ライク」人気の秘密…コロナ禍で飛躍の土台を確立の画像1
焼肉ライク HP」より

焼肉FCチェーン「牛角」と同じスキームで業態が誕生

“ひとり焼肉”をうたう「焼肉ライク」の1号店がオープンしたのは2018年8月29日であった。東京・新橋の烏森神社近く、飲食店街のど真ん中である。同店を開発したのは株式会社ダイニングイノベーションで、代表の西山知義氏は2000年代の5~6年間で「牛角」を800店舗にした人物である。

「牛角」がこれほどの速さで急成長できたのは、焼肉というハレの要素のある店を客単価2800円という大衆居酒屋チェーンのレベルにしたこと。それをいち早くFC(フランチャイズ)のパッケージにして広げたことだ(この先には、この急成長を支えた代理店の話が必要となるのだが、長くなるので、次の機会で論述する)。

「焼肉ライク」も「牛角」と同じスキームで考えられたものだ。客単価1350円で提供時間は3分以内。サブタイトルどおりにひとりで焼肉を食べられるように客席はカウンター構成で、1脚の前にロースターが1個備えられてある。

 その後、「焼肉ライク」は分社化されて2019年4月に株式会社焼肉ライクが設立。現在同社がチェーン展開に邁進している。

「焼肉ライク」が業態として秀逸とされるのは、前述した客単価と提供スピードの短縮化が店舗展開の可能性を大きく広げたことだ。これまでの一般的な焼肉店でひとりで焼肉を食べるのとは趣が異なり、堂々と店に入ることができる。そこで、これまでひとりで焼肉店に行きたいと思いながら躊躇していた女性にその利用動機を開放した。

 この新しさはアルバイト募集にも奏功した。筆者は2018年9月に当時事業部長をしていて現在焼肉ライクの社長となっている有村壮央(もりひさ)氏に取材したが、アルバイトに230人が応募して、その8割が20歳前後の女性だったという。当時は、インバウンド景気でアルバイト求人市場がひっ迫していたにもかかわらず、である。

趣向を凝らしたキャンペーンを矢継ぎ早に展開

 その「焼肉ライク」はコロナ禍の中で新しい動きを見せている。2020年に行なったことを時系列で紹介しよう。

・5月下旬より、テークアウト・デリバリーサービスを開始。

・5月26日より(緊急事態宣言解除の翌日)、「“今こそ!!ひとり焼肉”キャンペーン」を展開。人気メニューの「牛タン・匠カルビ・ハラミ200g」のセットメニュー通常1480円(税抜、以下同)を1280円で提供。

・8月10日より、「赤身肉とチョレギセット150g(キムチ、スープ付き)」1150円を発売。これは、外出自粛やテレワークの影響で運動不足による「コロナ太り」が気になる人へアピールしたもので、従来のセットからごはんを外して、代わりに大盛のチョレギサラダを入れた。またこれ以来、毎週月曜日は「WoMonday(ウーマンデー)」と称して、同商品を1000円で提供。

・9月15日より、「学割ライク」500円を提供。これは、「バラカルビセット100gとちょい足しカレーのセット」でごはんが食べ放題。

・10月1日から11月30日まで、「メガ盛りパウンダーセット 無限ごはんキャンペーン」を展開。お肉は「バラカルビ、イベリコ豚、牛ホルモン」のセット。お肉のボリュームが450gで1540円、300gで1080円の2種類。ごはん・キムチ・スープのおかわり自由。

・10月23日から、フェイクミートを渋谷宇田川町店で先行販売。11月1日から販売店を増やし、12月14日から全店で販売開始。

・11月23日より、「松阪牛50g」500円を6万食限定で全店で販売。

――ざっとこのように、短期間で多種多様なキャンペーンを展開した。

「今こそ!!ひとり焼肉」を打ち出し店の間口を広げる

 筆者は焼肉ライク社長の有村氏に、このキャンペーンの狙いについて昨年の12月2日に取材した。そこで、次のようなことを教えてくれた。

 コロナ禍で既存店の売上は4月、5月の段階で前年同月比60%あたりまで減少した。その理由は、出店している場所がオフィス街に多いこと(住宅街の近くはこれほど減少していない)、「焼肉ライク」の知名度がまだ低いこと、ひとり焼肉という外食の仕方が知られていないこと――を挙げてくれた。

 そこで採った戦術は「店の間口を広げる」ということ。ここから新たな需要や顧客層を取り入れていこうと動いた。

 最初にアピールしたことは「環境に配慮している」ということ。従業員の検温と手洗いの徹底から、飛沫防止のためにアクリル板の仕切りを設定している等々のさまざまな原則的な内容に加えて、「客席全体の空気が2分30秒で入れ替わる」ことを随所でアピールした。

 コロナ禍で最初に言われたことは「3密の回避」で、「焼肉ライク」はこれに最も適していると認識し、先の換気に加えて、お客様が自分で調理をすること、そもそも「個食」をアピールしていることから、「今こそ!!ひとり焼肉」キャンペーンの展開に至ったのだという。

「フェイクミート」に未曽有の可能性を確信する

 この中でも10月23日から販売を行っているフェイクミートは、焼肉店にとって極めて先端的な試みといえる。フェイクミートとは植物性の代用肉のことで、ビーガンや健康に気遣う人が求める食品である。フードダイバーシティ(食の多様性)が進むアメリカでは一般的になっているが、日本ではコロナ禍以前、インバウンド対策の中で注目されていた。

「焼肉ライク」のフェイクミートはネクストミーツ株式会社が開発したもので、大豆たん白とえんどう豆たん白を組み合わせ、添加物を使用しないで肉の食味に近づけている。通信販売を積極的に行ってきた過程で知られるようになり、フードサービス業界でもこれを使用したメニューの事例が増えてきている。

 有村氏自身、フェイクミートについてはアメリカの様子を興味本位で眺めていたとのことだが、ある人物からネクストミーツの佐々木英之社長を紹介されてその商品を試食したところ、その瞬間にこの食味に感動して「焼肉好きの人も喜ぶのではないか」と思い、いち早くフェイクミートをメニューに加えようと考えたという。

 導入して以来、にわかに多くの反響があった。ビーガンや健康に気遣う人が来店するようになっている状況を見て、「もの凄い可能性を秘めているのではないか」と考えるようになったという。現在、有村氏は「フェイクミートの市場はこれから広がっていき、縮むことはない」と手応えを得ている。

独自の物流システムがFCビジネスを切り拓く

 冒頭、「『焼肉ライク』は『牛角』と同じスキーム」と述べたが、その一つは「飲食のFC」であることだ。飲食業でありFCビジネスなのである。具体的に「焼肉ライク」は2020年12月末段階で総店舗数50店、FCは45店舗である。「9割FC」という姿勢で邁進している。

 最近の加盟店の傾向として電鉄系の引き合いが増えていて、すでに東急電鉄溝の口駅(神奈川)、近鉄鶴橋駅構内(大阪)、JR岡山駅の駅ビル(岡山)で「焼肉ライク」が営業している。これはこの業態が駅構内の立地との親和性が高いからだ。入店して15分か20分で食べ終わることができるので、時間を急いでいる人からは重宝されている。

 このような立地開拓ができるのは物流の仕組みにある。カット済みのチルド肉が配送され、店内では盛り付けるだけ。365日物流を実現して、店には在庫を置かない。こうしてクオリティが高い肉をクイックに提供する仕組みが出来上がっている。有村氏はこう語る。

「今後当社はFC展開を推進する企業として存在し、例えばキャッシュレス決済とか、立地、提供方法の進化系のトライアルは直営で試していき、軌道に乗った場合はFCで展開していきます」

 筆者はコロナ禍の中で「焼肉ライク」が取り組んできたことは、そのあるべき姿をより鮮明にしてきたと思っている。それは「ファストフード」ということ。「こだわりの食材で差別化する」世界ではなく、より気軽に利用できる店ということだ。

 フードサービス業界はコロナ禍によって大きな変革を迫られたが、「焼肉ライク」の場合は同社の展望の土台を築いたといえるだろう。

(文=千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト)

千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト

千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト

フードサービス業界の経営専門誌である『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)とライバル誌両方の編集長を歴任。2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく、最新の動向もリポートする。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)。

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