緊急事態宣言が発令された1月8日(金)から10日(日)までの3日間、東京・千葉の夜の繁華街を歩いてみた。
JR総武線の某ターミナル駅。20時を過ぎると、ほとんどの飲食店が閉店の作業に取りかかる。中には客が残っている店もあるが、筆者がドアを開けて入店しようとすると「すいませーん、もう終わりましたー」という声が聞こえてきた。
そんな中、1軒だけ営業を続けている店を見つけた。駅前から徒歩1分の一等地にある洋風居酒屋の店内は、50席ほどのキャパシティだ。店内は20~30代と思しき若者ばかりで、8割ほど埋まっている。3人の若者が入店しようとすると「いらっしゃいませー!」との声が響いてきた。客席と客席の間はアクリル板で仕切られているが、文字通り「密」の空間だ。
「6万円なんか雀の涙にもならないよ」
緊急事態宣言の発令に伴って、飲食店には20時までの営業時間短縮が要請され、応じない店舗は公表される可能性もある。一方、応じた店舗には1日最大6万円(1カ月最大180万円)の協力金が支払われるが、この店の店長は「1日6万円なんかもらっても、雀の涙にもならないよ」と答えた。
「うちは家賃だけで月に120万円、従業員とアルバイトの給料や光熱費、仕入れ費などを含めると、1カ月の経費は500万円弱かかるんだ。休業して180万円をもらうことも考えたけど、それでは店員の給料さえ賄えない。他の店が休んでいるため、とりあえず連休の3日間だけは開けることにした。仕入れた食材を使い切りたいし、黙ってたって客が来るしね。
店名を公表される恐怖? いい宣伝だ、というバイトもいれば、怖さを感じている社員もいるけど、私としては、客が集まる分、宣伝効果の方が高い気がする。罰則は(店だけでなく)客にも与えるべきじゃないかな」
深夜2時まで営業を続けた店内は、活気にあふれていた。筆者は終始マスクをしながら、端の席で店内を見つめていた。
この店から徒歩5分の場所にあるキャバクラの客引きも、「6万円では応じられるわけがない」と話してくれた。
「月180万円では、1カ月の家賃で終わるよ。女の子の人件費が1人2万円×平均8人として、1日16万円=月480万円でしょ。加えて、俺たちボーイも社員なので、月給30万円×7人で210万円。人件費が月に700万円以上かかるんだ。雇用調整助成金? 手続きが面倒だからか、やらないんだよね。『業種が業種だからもらいにくい』とも聞いてるよ。しかも、店を閉めたら女の子が他店に移ってしまうよね。時短要請など、応じられるわけがないんだ。
ただ、今の時点(1月10日日曜日の深夜0時)で店内に客は2組しかいなくてね。不入りが続くようだと、話は別。オーナーも今後は『日々の雰囲気を見て判断する』と言ってるよ」
多くの店のシャッターが閉じている中、キャバクラやガールズバーの多くが営業しているのも、こうした理由からである。クラスターは「夜の店」での発生率が高い。政府はもう少し、この現状を認識するべきではないだろうか。
時短に従うラーメン店、完全休業のナイトバー
ラーメン店の多くも20時までの時短要請に従っている。千葉県でラーメン店を営む店長は、こう語る。
「うちは11時~深夜2時までの営業です。1日の売り上げは20~24万円ですが、その6割は20時以降です。客単価もだいたい昼はラーメン1杯800円ですが、夜は餃子や飲酒もあるので1000円を超えます。満卓だと24名で、家賃は月25万円。13坪なので広さは一般的です。
今回は20時までの時短要請に従いましたが、従来通り深夜2時まで営業を続けた方が利益は出ます。時短営業による1日のマイナスは10万円以上です。6万円では、渋々応じるという感覚ですね。
加湿や換気、仕切り板などの感染防止対策はやっていますが、若い人が飲んだ後に3~4名で飲食をすると、どうしても大声になりますよね。『もう少し静かにしてもらえませんか』と注意したこともあります。ただ、ほとんどのお客は静かに食べてくれますし、いくら飲食を伴うといっても、うちのような店で感染する可能性は低いように感じます。飲食店は店ごとに感染の可能性が異なります。業種を分けてほしいですよ」
近所の焼肉店の店主にも話を聞いた。
「うちは33坪で家賃が66万円、水道光熱費15万円で、月に合計81万円必要です。社員は雇ってないので、バイト代を支払えばやっていけます。4月の緊急事態宣言のときはお客さんが来なかったのでテイクアウトもしましたが、今回はGo To イートの予約もありますし、20時閉店でもどうにかなります。
私の見立てですが、チェーン店以外の大きな店とキャバクラやホストクラブ、ガールズバーなどは1日6万円ではやっていけませんが、夫婦で経営している居酒屋などは6万円ももらえば御の字でしょう。小さな店で開けている店がないのも、協力金の6万円が大きいからですしね」
21時から明け方まで営業をしていたナイトバーのマスターは「完全に休業する」と言う。
「うちは家賃20万円、電気・ガス・水道で30万円と、合わせて50万円で済む。バイトも週末だけだから、月186万円は大きいよ。時間をずらしての営業も考えたけど、長年このスタイルでやってきたし、母親の介護もあるので完全に休業することにしたんだ。2月7日までは帳簿つけや家の片づけ、店の掃除などをして、なるべく金を使わない生活をするよ」
元阪神・川尻氏の居酒屋はイベントを自粛
最後に、昨年12月に新橋で「虎戦士居酒屋 虎尻」を開店した、元阪神タイガースの投手・川尻哲郎さんにも話を聞いた。
「今は20時までの営業としています。うちの店の場合、1日6万円では厳しいですが、20時閉店でやらざるを得ません。仕方ないですね」
川尻さんは現役時代からファンサービスに熱心だったこともあり、かつての虎戦士を中心としたトークショーやファンミーティングなどさまざまなイベントを行っていたが、それらもすべて自粛せざるを得ないという。
「今は我慢の時、耐え忍ぶしかありません」と語る川尻さん。この言葉を、飲食業界のみならず多くの人に伝えたい。
(文=小川隆行/フリーライター)