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赤石晋一郎「ペンは書くほどに磨かれる」

世田谷一家殺害、警察内で封印された犯人像と捜査ミス…20年目の遅すぎるDNA型鑑定

文=赤石晋一郎/ジャーナリスト
世田谷一家殺害、警察内で封印された犯人像と捜査ミス…20年目の遅すぎるDNA型鑑定の画像1
「警視庁 HP」より

 12月30日の産経新聞に次のようなスクープ記事が出た。

「<独自> 世田谷一家殺害 最新DNA型鑑定で容姿推定へ」

 記事の概要は次のようなものだ。

「警視庁成城署捜査本部が現場に残された犯人のDNA型をもとに、顔や容姿などを推定する最新の科学技術を活用した鑑定に着手したことが、捜査関係者への取材で分かった。犯人の当時の年代なども明らかになり、有力な手掛かりになる可能性がある。事件は30日で発生から20年。事件の風化が懸念されるなか、捜査本部は最新技術を駆使して解明に乗り出す方針だ」

 2020年末は世田谷一家殺害事件から20年となる節目の年である。同事件は未解決事件として近代事件史に名を残す大事件であり、その解決は警察にとっては悲願とされてきた。前出記事では捜査本部が最新技術を導入し事件解明に乗り出したように読めるが、捜査関係者からは「あまりにも遅すぎる動きだ」という声も聞こえてくる。

 その背景を説明する前に世田谷一家殺害事件について振り返ってみよう。当時の新聞記事では次のような残虐な手口が報じられた。

<三十一日午前十時五十五分ごろ、東京都世田谷区上祖師谷三丁目、会社員宮澤みきおさん(四四)宅で、一家四人が血を流して倒れているのを、隣に住む宮澤さんの妻の母親(七一)が見つけた。宮澤さんが一階で首などを刺されて死んでおり、二階では妻泰子さん(四一)、長女の区立千歳小学校二年にいなちゃん(八つ)、長男で区立保育園児の礼君(六つ)の三人が死んでいた。室内を物色した跡があり、警視庁捜査一課は強盗殺人事件とみて成城署に捜査本部を設置した。

 調べでは、泰子さんの母が電話をかけたところ、応答がないため、合いかぎを使って宮澤さん宅に入った。宮澤さんは一階の階段の下で首や腕など数カ所を刺され、うつぶせで倒れていた。階段に血痕が続いており、上から転げ落ちたとみられる。泰子さんとにいなちゃんは二階の階段近くで首や顔など数カ所を刺されて並んで倒れ、床に大量の血が広がっていた。さらに二階の子供部屋で、礼君がベッドの上で首を絞められて死んでいた。(中略)

 二階の台所に血のついた二本の包丁があり、これが凶器とみられる。二階の居間や子供部屋などのたんすの引き出しが開けられ、書類などが散乱していた。

 三十日午後六時ごろ、母が内線電話で泰子さんと話をした。検視結果などから、捜査本部は一家の死亡推定時刻を三十日午後六時から三十一日未明とみている〉(2001年1月1日付 朝日新聞)

 あまりに残忍な所業で世間を震撼させた世田谷一家殺人事件。現場には多くの遺留品が残されており犯人の検挙は早いものと思われていたが、ご存じの通り警察の捜査は遅々として進まなかった。

「事件直後に現場を訪れた成城署員は『自殺』という報告をしてしまい、初動捜査が遅れてしまったという逸話もあるほど、同事件では捜査ミスや失策が連続して起こった。世田谷一家殺害事件が難事件となってしまった一因は、こうした捜査の内実に問題があったと関係者の間では囁かれ続けていました」(全国紙社会部記者)

 冒頭に触れたDNA型鑑定についても2005年から数年にわたり実施、その結果をどう捜査に導入すべきか何度も検討されてきたという経緯があった。専門家によるDNA鑑定では、「犯人は外国人もしくは混血である可能性が高い」という犯人像が指摘されていた。

 だが、こうした犯人像については警察内のみで長らく封印されてきた。DNA型鑑定の内容自体がタブーとなり秘されてきたのである。なぜDNA型鑑定がタブー視されたかについては、その理由は明らかにされていない。しかし、産経新聞のスクープによって「DNA型鑑定」という言葉を捜査関係者は十数年ぶりに耳にすることになったのだ。

フジテレビ番組が契機か

 封印されてきた言葉が再脚光を浴びる契機となったと推察されるのが、12月19日にフジテレビで放送された『未解決事件SP 世田谷一家殺人事件 20年目のスクープ~3つの影を持つ男~』という特番だった。

 同番組では2005年当時、警察の依頼を受けDNA型鑑定を行った水口清・東海大学法医学教室客員教授のインタビューを放映したのだ。水口教授は「ミトコンドリアDNA多型を用いた人種推定」などの論文を書いてきた気鋭の学者であり、前述の「犯人は外国人もしくは混血である可能性が高い」という犯人像の分析結果について警察に報告していた人物である。番組で水口教授は2005年から封印されてきたDNA型鑑定の内容を明かし、詳細な犯人像の絞り込みを行ってみせたのだ。

「番組放映により、警察がDNA型鑑定による捜査に再着手せざる得なくなったというのが、産経新聞スクープの背景にはあるように思います。捜査関係者の間では15年前、せめて10年前にでもDNA型鑑定を中心とした捜査を行いたかったという思いがあると聞きました」(前出・社会部記者)

 最新技術を使えばDNA型鑑定の結果を基に髪色などの大まかな容姿の3D再現まで可能であるという。DNA型鑑定に再着目した捜査本部が、どこまで事件解決に迫れるのかは改めて注目されるところである。

 当局を動かしたという意味では、フジテレビの特番もまた大きなスクープであったといえるだろう。

(文=赤石晋一郎/ジャーナリスト)

赤石晋一郎/ジャーナリスト

赤石晋一郎/ジャーナリスト

 南アフリカ・ヨハネスブルグ出身。講談社「FRIDAY」、文藝春秋「週刊文春」記者を経て、ジャーナリストとして独立。
 日韓関係、人物ルポ、政治・事件など幅広い分野の記事執筆を行う。著書に「韓国人韓国を叱る 日韓歴史問題の新証言者たち」(小学館新書)、「完落ち 警視庁捜査一課『取調室』秘録」(文藝春秋)など。スクープの裏側を明かす「元文春記者チャンネル」YouTubeにて配信中

Note:赤石晋一郎

Twitter:@red0101a

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