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松岡久蔵「空気を読んでる場合じゃない」

共同通信、本人に取材せず「自衛官に私的戦闘訓練」「過激な思想」と報道…被害者が否定

文=松岡久蔵/ジャーナリスト
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共同通信社本社が入居する汐留メディアタワー(「Wikipedia」より/っ)

「取材妨害だ! 警察を呼ぶぞ!」「警視庁公安部、三重県警警備部公安課に連絡した」――。

 この発言が、権力の監視を使命とする報道機関、それも日本を代表する共同通信社のベテラン編集委員から一般市民に向けて飛び出したものだと言われたら、耳を疑うに違いない。共同通信が配信した、ある自衛隊OBをめぐる記事の内容に問題がある疑いが取材で判明した。

自衛官OBがクーデター準備をしているような印象を与える共同記事

 今回問題となった記事は、共同通信が23日に配信した『自衛官に私的戦闘訓練 特殊部隊の元トップが指導』。以下のような内容となっている。

<陸上自衛隊特殊部隊のトップだったOBが毎年、現役自衛官、予備自衛官を募り、三重県で私的に戦闘訓練を指導していたことが23日、関係者の証言などで分かった。訓練は昨年12月にも開催。現地取材で実際の訓練は確認できなかったが、参加者が迷彩の戦闘服を着用しOBが主宰する施設と付近の山中の間を移動していた。自衛隊で隊内からの秘密漏えいを監視する情報保全隊も事実を把握し、調査している。

 自衛官が、外部から戦闘行動の訓練を受けるのが明らかになるのは初めて。防衛省内には、職務遂行義務や守秘義務などを定めた自衛隊法に触れるとの指摘がある。OBは作家の故三島由紀夫が唱えた自衛隊を天皇の軍隊にする考え方に同調するなど保守的主張を繰り返しており、隊内への過激な政治思想の浸透を危惧する声も出ている。

 関係者によると、訓練を指導するのは、テロや人質事件などに対応する陸自唯一の特殊部隊で2004年に発足した「特殊作戦群」の初代群長を務めた荒谷卓・元1等陸佐。自衛隊を退職後の18年11月、三重県熊野市の山中に戦闘訓練や武道のための施設を開設。直後の同年12月、19年4月、20年12月と現役自衛官、予備自衛官を募り「自衛官合宿」と称し戦闘訓練を続けてきた。

 同施設のホームページに掲載された20年の募集要項によると、「真に国を愛する自衛官が、自衛隊ではできない実戦的訓練をする場」と説明。訓練内容を「チームビルド」(部隊編成)、「プランニング」(作戦計画)、「オペレーション」(作戦行動)など-としている。

 20年12月26~30日の日程で開催された合宿には十数人以上が参加。人目を避けるためか、日没近くになると迷彩服に着替え乗用車に分乗し、施設から訓練を行う山林に向かっていた。荒谷氏は取材に応じなかった。

 三島は1970年、憲法改正に向けた自衛隊の決起を促し、駐屯地に押し入り、割腹自殺した。59年生まれの荒谷氏は雑誌のインタビューなどで三島を信奉していると公言。「三島精神に感化された」と語り、三島が結成した学生らの民間防衛組織「楯の会」と同様の組織の必要性も訴えている。

 防衛省幹部の一人は「元群長にはカリスマ性があり(元群長と参加した自衛官の関係は)三島と楯の会に酷似している」と指摘する>

 この記事を書いたのは石井暁編集委員で、1961年生まれで1985年に共同通信に入社し、現在は安全保障や防衛省の問題などを取材領域としている。何も考えずにこの記事を読むと、憲法改正に向けて自衛隊の決起を促した三島氏の思想に影響を受けた、陸上自衛隊特殊部隊のトップだったOBが、現役自衛官に違法な私的訓練を施し、クーデターなどの反社会的行為を画策しているような印象を受ける。

 内容がセンセーショナルなこの記事は、筆者が確認できただけでも、24日付で沖縄タイムズと愛媛新聞が1面トップ、琉球新報が1面肩、中国新聞が1面トップ、岐阜新聞が1面肩で使用と、広範に地方紙などに掲載されている。

私有地所有者に虚偽説明、不法侵入、許可得ずに撮影

 全国の地方紙やテレビに記事配信する共同通信の記事であるため、まともな取材に基づいた記事であることを疑わないのが普通だろう。しかし、実はこの記事、かなり問題のある取材過程を経たものであることが筆者の取材で明らかになった。

 記事中の「陸上自衛隊特殊部隊のトップだったOB」こと荒谷卓氏は、特殊作戦群と呼ばれる陸自内の特殊部隊の初代隊長だった。現在は三重県熊野市で武道の指導や農業などを営む民間団体「むすびの里」の代表を務めている。この荒谷氏がこの共同記事が配信された翌日24日に反論記事を公式ホームページで公開し、自衛隊関係者の間で話題になった。

 荒谷氏の記事によると、石井氏の取材手法が記者として不適切なばかりか、スタッフへの脅しめいた言動もみられたという。筆者は荒谷氏へのオンライン取材を25日に実施し、以下のような事実関係を確認した。

 荒谷卓氏が主催する「むすびの里」では、年間を通じて武道合宿や文化講習会を開催しており、昨年12月26~30日の日程で現役自衛官限定の自己啓発を目的とした「自衛官合宿」を開催した。この合宿はこれまでに12回開かれており、里のHPで公募していた。自衛官限定としているのは、専門的な能力向上のためであり、集団での戦術行動も加味した森林錯雑地での徒手格闘(素手での格闘術)が実施内容。実弾入りの銃器はおろか、エアガンのような模擬銃も持ち込みはない。参加した自衛官は休暇を利用して参加し、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が発令される前であった。

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