共同通信、本人に取材せず「自衛官に私的戦闘訓練」「過激な思想」と報道…被害者が否定
「取材妨害だ! 警察を呼ぶぞ!」「警視庁公安部、三重県警警備部公安課に連絡した」――。
この発言が、権力の監視を使命とする報道機関、それも日本を代表する共同通信社のベテラン編集委員から一般市民に向けて飛び出したものだと言われたら、耳を疑うに違いない。共同通信が配信した、ある自衛隊OBをめぐる記事の内容に問題がある疑いが取材で判明した。
自衛官OBがクーデター準備をしているような印象を与える共同記事
今回問題となった記事は、共同通信が23日に配信した『自衛官に私的戦闘訓練 特殊部隊の元トップが指導』。以下のような内容となっている。
<陸上自衛隊特殊部隊のトップだったOBが毎年、現役自衛官、予備自衛官を募り、三重県で私的に戦闘訓練を指導していたことが23日、関係者の証言などで分かった。訓練は昨年12月にも開催。現地取材で実際の訓練は確認できなかったが、参加者が迷彩の戦闘服を着用しOBが主宰する施設と付近の山中の間を移動していた。自衛隊で隊内からの秘密漏えいを監視する情報保全隊も事実を把握し、調査している。
自衛官が、外部から戦闘行動の訓練を受けるのが明らかになるのは初めて。防衛省内には、職務遂行義務や守秘義務などを定めた自衛隊法に触れるとの指摘がある。OBは作家の故三島由紀夫が唱えた自衛隊を天皇の軍隊にする考え方に同調するなど保守的主張を繰り返しており、隊内への過激な政治思想の浸透を危惧する声も出ている。
関係者によると、訓練を指導するのは、テロや人質事件などに対応する陸自唯一の特殊部隊で2004年に発足した「特殊作戦群」の初代群長を務めた荒谷卓・元1等陸佐。自衛隊を退職後の18年11月、三重県熊野市の山中に戦闘訓練や武道のための施設を開設。直後の同年12月、19年4月、20年12月と現役自衛官、予備自衛官を募り「自衛官合宿」と称し戦闘訓練を続けてきた。
同施設のホームページに掲載された20年の募集要項によると、「真に国を愛する自衛官が、自衛隊ではできない実戦的訓練をする場」と説明。訓練内容を「チームビルド」(部隊編成)、「プランニング」(作戦計画)、「オペレーション」(作戦行動)など-としている。
20年12月26~30日の日程で開催された合宿には十数人以上が参加。人目を避けるためか、日没近くになると迷彩服に着替え乗用車に分乗し、施設から訓練を行う山林に向かっていた。荒谷氏は取材に応じなかった。
三島は1970年、憲法改正に向けた自衛隊の決起を促し、駐屯地に押し入り、割腹自殺した。59年生まれの荒谷氏は雑誌のインタビューなどで三島を信奉していると公言。「三島精神に感化された」と語り、三島が結成した学生らの民間防衛組織「楯の会」と同様の組織の必要性も訴えている。
防衛省幹部の一人は「元群長にはカリスマ性があり(元群長と参加した自衛官の関係は)三島と楯の会に酷似している」と指摘する>
この記事を書いたのは石井暁編集委員で、1961年生まれで1985年に共同通信に入社し、現在は安全保障や防衛省の問題などを取材領域としている。何も考えずにこの記事を読むと、憲法改正に向けて自衛隊の決起を促した三島氏の思想に影響を受けた、陸上自衛隊特殊部隊のトップだったOBが、現役自衛官に違法な私的訓練を施し、クーデターなどの反社会的行為を画策しているような印象を受ける。
内容がセンセーショナルなこの記事は、筆者が確認できただけでも、24日付で沖縄タイムズと愛媛新聞が1面トップ、琉球新報が1面肩、中国新聞が1面トップ、岐阜新聞が1面肩で使用と、広範に地方紙などに掲載されている。
私有地所有者に虚偽説明、不法侵入、許可得ずに撮影
全国の地方紙やテレビに記事配信する共同通信の記事であるため、まともな取材に基づいた記事であることを疑わないのが普通だろう。しかし、実はこの記事、かなり問題のある取材過程を経たものであることが筆者の取材で明らかになった。
記事中の「陸上自衛隊特殊部隊のトップだったOB」こと荒谷卓氏は、特殊作戦群と呼ばれる陸自内の特殊部隊の初代隊長だった。現在は三重県熊野市で武道の指導や農業などを営む民間団体「むすびの里」の代表を務めている。この荒谷氏がこの共同記事が配信された翌日24日に反論記事を公式ホームページで公開し、自衛隊関係者の間で話題になった。
荒谷氏の記事によると、石井氏の取材手法が記者として不適切なばかりか、スタッフへの脅しめいた言動もみられたという。筆者は荒谷氏へのオンライン取材を25日に実施し、以下のような事実関係を確認した。
荒谷卓氏が主催する「むすびの里」では、年間を通じて武道合宿や文化講習会を開催しており、昨年12月26~30日の日程で現役自衛官限定の自己啓発を目的とした「自衛官合宿」を開催した。この合宿はこれまでに12回開かれており、里のHPで公募していた。自衛官限定としているのは、専門的な能力向上のためであり、集団での戦術行動も加味した森林錯雑地での徒手格闘(素手での格闘術)が実施内容。実弾入りの銃器はおろか、エアガンのような模擬銃も持ち込みはない。参加した自衛官は休暇を利用して参加し、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が発令される前であった。
石井暁編集委員は訓練初日の26日から、川を挟んだ向こう側からカメラで荒谷氏を含めた参加者や施設の模様を撮影していた。その後、女性スタッフが土地の所有者に聞くと、石井氏は土地の所有者に「風景を撮影するので使わせてもらいたい」と説明していた。彼女が、直接石井氏に意図を尋ねると、「共同通信の石井だ」と名乗った。彼女から石井氏に「取材は受けるので、このような撮影は控えてほしい」と申し入れ、30日に「むすびの里」で取材を受けることにした。しかし、その後も石井氏が撮影を続けているので別の女性スタッフが苦情を言うと、「取材妨害だ! 警察を呼ぶぞ!」と怒鳴り始めた。このやり取りの後、女性スタッフと石井氏は今後の連絡のためにSNSでの連絡先を交換した。
石井氏は4日間、同じ場所で、午前8時頃から夕方までカメラを回し続けた。27日以降は共同通信の腕章を装着し撮影を続けたという。訓練期間中、以下のような石井氏と女性スタッフとのSNSでのやりとりがあった。
・石井氏
「これ以上の、取材を妨害すれば社として、警察への通報を含め、法的手段を検討します、と(筆者注・荒谷氏に)お伝えください」
「(訓練で山の中に入ってしまったので写真が撮れなくなったことについて)意外と姑息な隠蔽ですね。『武士』からぬ。堂々とやってほしかったですね。やましいところがなければ。いずれにしろ、防衛大臣、統合幕僚長には会見質問通告しました。お伝えください。よろしく」
「ちなみに、警視庁公安部、三重県警警備部公安課には連絡しました。念のため。おやすみなさい」
「情報保全隊にはのちほどお伝えします」
・女性スタッフ
「おはようございます。淡々と予定通りのスケジュールを進めてきました。恐縮ながら、30日のインタビューはキャンセルとさせて頂きます」
・石井氏
「残念です。よろしくお伝え下さい」
結局、30日には石井氏は荒谷氏のもとにインタビューにも取材にも来ず、その後も連絡は一切なかった。そして年明け1月23日に共同通信の記事と動画が配信された。
荒谷氏の説明では、以下の点が重要になる。
(1)石井氏は私有地の所有者に虚偽の説明をし、その後も正式に許可を得ないまま、一定区画を4日にもわたり不法占拠していた。
(2)共同通信記者と名乗り腕章をしていたので、個人的ではなく、明らかに社業として記者活動をした。
(3)苦情を言った女性スタッフに「取材妨害で通報する」と怒鳴り、別の女性スタッフにもSNS上で防衛大臣や捜査当局の権威を背景として、脅しとも受け取られかねないメッセージを送った。
(4)一度も荒谷氏や参加者に直接取材していない。
これが事実とすると、石井氏は記者倫理にもとるどころか、一般人としての常識すらないということになる(共同通信側には後述の内容の質問状を送付)。「むすびの里」のサイトでは、石井氏が私有地で許可を得ずに撮影している様子を写した写真が掲載されており、筆者も原本を荒谷氏から入手している。
荒谷氏「私の訓練は自衛隊法に抵触しない」
記事内容についての荒谷氏の見解についても、見ていこう。荒谷氏によると、記事で問題視されているような「私的な戦闘訓練」は自衛隊法に抵触しないという。以下は筆者の取材に対する荒谷氏の話。
「自衛隊法は現役自衛官が作戦の中身などの機密情報を漏らしたりすることは違法としていますが、私のようなOBが山間部での格闘訓練を教えることは、まったく問題ありません。もし私がやっているようなことが違法となるのなら、現役の自衛官が休暇をとってサバイバルゲーム施設や空手道場、スポーツジムといったところで部外者から『戦闘訓練』を受けるのはすべて違法ということになるが、そんな馬鹿な話は聞いたことがない」
「私が毎年この訓練を主催しているのは、昔、武道館で指導していた際に生徒から自衛官としてもっと実戦的な訓練を受けたいということで、野外での訓練を始めた。徒手空拳、格闘術のみの指導で銃器類はエアガンを含め一切持ち込んだり使ったりしていない」
「記事内容ではさも私がクーデターを画策しているかのように読めるが、ホームページで毎年堂々と公募しており、馬鹿馬鹿しいとしか言いようがない」
「故三島氏については、過去に雑誌に一度寄稿したことがあるくらいで、思想的に心酔しているというようなことはないし、今回の訓練にしたって三島氏の『楯の会』のような思想を持ったものでは一切ない」
つまり、荒谷氏からすれば今回の共同記事はまったく的外れどころか、事実を歪曲されたに等しいことになる。なお、26日の防衛省の閣議後記者会見で岸信夫防衛相は今回の報道のような現役自衛官のプライベートでの訓練の参加について「特に法的な意味で問題があるような行動をしているとは考えてない」と答弁しており、これが防衛省側の公式見解だ。
本人への取材なく「危険思想の持主」とレッテル張り
次に、共同通信の記事そのものが含む問題点を指摘する。
今回の記事では、第一段落で<現地取材で実際の訓練は確認できなかったが、参加者が迷彩の戦闘服を着用しOBが主宰する施設と付近の山中の間を移動していた>との記述があり、この事実をもって<陸上自衛隊特殊部隊のトップだったOBが毎年、現役自衛官、予備自衛官を募り、三重県で私的に戦闘訓練を指導していた>としている。
実際の訓練を確認できていないにもかかわらず、これをもって「私的に戦闘訓練」と大仰に記述し、読者にさも荒谷氏が反社会的、違法行為をしているかのような印象を与えるのは、単なる憶測の域を出ず、誠実な報道姿勢とは思えない。
さらに、<自衛官が、外部から戦闘行動の訓練を受けるのが明らかになるのは初>としているが、これも「戦闘行動」自体がどのようなものかを確認もしていない上、「明らかになるのは初」としてるのも、自衛官のサバイバルゲームへの参加などに対する防衛省のこれまでの扱いを考慮すれば、取り上げるに足りなかっただけではないだろうか。
また、<防衛省内には、職務遂行義務や守秘義務などを定めた自衛隊法に触れるとの指摘がある>との記述があるが、記事化にあたって防衛省に取材し公式見解を取材したわけでもなく、一部の関係者の解釈をもって荒谷氏が違法行為をしている客観的な材料としている点で、大いに問題がある。
<三島は1970年、憲法改正に向けた自衛隊の決起を促し、駐屯地に押し入り、割腹自殺した。59年生まれの荒谷氏は雑誌のインタビューなどで三島を信奉していると公言。『三島精神に感化された』と語り、三島が結成した学生らの民間防衛組織『楯の会』と同様の組織の必要性も訴えている>
<OBは作家の故三島由紀夫が唱えた自衛隊を天皇の軍隊にする考え方に同調するなど保守的主張を繰り返しており、隊内への過激な政治思想の浸透を危惧する声も出ている>
こうした記述については、先の荒谷氏の証言からも一方的なレッテル張りであるという印象がぬぐえない。
荒谷氏と石井氏とはまったく面識がなく、直接の取材もなかったわけだが、個人の思想にまで踏み込んで記述する場合、それも社会に不穏な印象を与える性質の場合は特に、本人に取材するのが取材者として当然の行為ではないだろうか。
<防衛省幹部の一人は『元群長にはカリスマ性があり(元群長と参加した自衛官の関係は)三島と楯の会に酷似している』と指摘する>との記述も、取材源の一人からの荒谷氏に対する評価をさも客観的な材料かのように扱うのは、荒谷氏への名誉毀損につながる懸念がある。
共同通信のチェックの甘さで報道被害
忘れてはならないのが、石井氏は個人で取材をしていたのではなく、腕章もつけて共同通信の編集委員として取材し、同社がその取材内容を真実と認め、記事化し配信したことである。
今回の記事内容が、近隣住民はもちろん、日本全体に大きな動揺を与えかねないにもかかわらず、本人や参加者への取材はおろか、実際の訓練の中身すら確認せずに、石井氏の取材した内容をそのまま配信したことについては、取材不足であり、報道機関として無責任と言わざるを得ないのではないか。そもそも、「個人的な政治思想」を本人への取材もなく記事化の根拠としていることについては、「思想・言論の自由を守る」という報道機関の大前提を侵すことになると考えられる。
今回の記事は荒谷氏が住む地域の地方紙には掲載されず、現時点で居住地域の住民から苦情などは寄せられていないものの、荒谷氏に関する悪い社会的イメージが広まったことは疑いえない。また、訓練に参加した現役自衛官のなかには、正式な手続きを踏んで休暇中であったにもかかわらず自衛隊内で叱責を受け、人事考課上マイナスになる不利益を受けた者もいるという。
荒谷氏は今回の記事について「面識がまったくなかった石井氏に無理矢理押しかけられる形で取材され、物証など明確な根拠もなく一方的な記事を書かれ、非常に迷惑を被った」と話している。全体の取材プロセスからしても報道被害との批判は免れないレベルだろう。
石井氏については、今回の件での言動は当然として、これまでの記事の取材プロセスについても、防衛省関係者の間で「自衛隊を悪とする前提でファクトに基づかない憶測を垂れ流す記者」(同省幹部)という評判もある。報道機関のなかに変わり者がいること自体は問題ではないとは思うが、共同通信は自社の記者が上げてきた情報について、ファクトの裏付けや取材プロセスを記者に十分確認することを徹底すべきだろう。
共同通信に質問状を送付
共同通信の見解を確認するため、以下の質問項目を送付したが、期限までに回答は寄せられなかった。
<質問項目>
(1)取材手法について
「むすびの里」の川を挟んだ向こう側から石井氏がカメラで撮影していたことについて、実際には取材目的の撮影であるのに土地所有者には「風景を撮影する」と虚偽の説明をし、所有者の承諾を得ないで4日もの間、一定区画の私有地を占有していた。石井氏は、施設側の責任者である荒谷氏にも、土地所有者にも取材依頼をしておらず、私有地への不法侵入、不法占拠にあたるのではないでしょうか。この点について、貴団体のご見解をご教示いただけますでしょうか。
また、石井氏は貴団体の社名を名乗った上、共同通信の腕章も装着した上で撮影しており、貴団体としての取材活動であるとみられます。貴団体として、このような取材方法を肯定しておられるのでしょうか。
(2)「むすびの里」女性スタッフへの対応について
カメラで撮影する石井氏に苦情を入れた女性スタッフに対し、「取材妨害で警察に通報する」と怒鳴りつけた上、SNS上でのやり取りでも、前述したように防衛大臣や防衛省当局、警察当局といった権威を背景とした脅しとも受け取られかねないメッセージを送っておられます。このような威圧的な態度で取材対象者とやりとりするのは記者倫理、および一般人としての常識に欠ける行為と考えられますが、貴団体のご見解をご教示いただけますでしょうか。
(3)記事内容について
当該記事の第一段落では、「現地取材で実際の訓練は確認できなかったが、参加者が迷彩の戦闘服を着用しOBが主宰する施設と付近の山中の間を移動していた」との記述がありますが、この事実をもって「陸上自衛隊特殊部隊のトップだったOBが毎年、現役自衛官、予備自衛官を募り、三重県で私的に戦闘訓練を指導していた」としています。実際の訓練を確認できていないにもかかわらず、これをもって「私的に戦闘訓練」と記述し、読者に、荒谷氏が反社会的、違法行為をしているかのような印象を与えるのは、単なる憶測の域を出ない記述とも考えられますが、貴団体のご見解をご教示いただけますでしょうか。
(4)「私的に戦闘訓練」の記述について、現在、無数の現役自衛官が休日を利用してスポーツジムや空手道場、サバイバルゲームの会場などに行き、レジャーや趣味、自己啓発として活動していますが、これは「私的な戦闘訓練」には当たるというのは貴団体のご認識でしょうか。2021年1月26日に岸防衛相は記者会見で、「特に法的な意味で問題があるような行動をしているとは考えてない」と答弁していますが、これについて貴団体のご見解をご教示いただけますでしょうか。
(5)「自衛官が、外部から戦闘行動の訓練を受けるのが明らかになるのは初」としていますが、貴団体の「戦闘訓練」の定義、および何をもって「初」と報じられたのか、根拠をご教示いただけますでしょうか。
(6)「防衛省内には、職務遂行義務や守秘義務などを定めた自衛隊法に触れるとの指摘がある」との記述がありますが、防衛省に対し公式見解をご取材されたのでしょうか。
(「自衛隊法に触れるとの指摘」という記述から、同省の見解であるとは読めず、この指摘をした関係者の個人的な解釈の可能性があるため)
(7)「三島は1970年、憲法改正に向けた自衛隊の決起を促し、駐屯地に押し入り、割腹自殺した。59年生まれの荒谷氏は雑誌のインタビューなどで三島を信奉していると公言。『三島精神に感化された』と語り、三島が結成した学生らの民間防衛組織『楯の会』と同様の組織の必要性も訴えている」「OBは作家の故三島由紀夫が唱えた自衛隊を天皇の軍隊にする考え方に同調するなど保守的主張を繰り返しており、隊内への過激な政治思想の浸透を危惧する声も出ている」との記述についてお伺いします。
荒谷氏によると、故三島氏の思想については「雑誌に一度考察原稿を寄稿しただけで、まったく同調していない」「楯の会とはまったく違う」と弊社の取材に対して答えており、「同調する」と記述した根拠についてご教示いただけますでしょうか。
(8)この記事の後段について、荒谷氏は石井氏と面識がまったくなく、取材も受けていないと話しています。過去のインタビューに記事中のような見解を披露したことがあるとはいえ、現在の荒谷氏個人の思想について踏み込んだ記述をするのは記者倫理にもとるとも考えられますが、貴団体のご見解をご教示いただけますでしょうか。
(9)「防衛省幹部の一人は『元群長にはカリスマ性があり(元群長と参加した自衛官の関係は)三島と楯の会に酷似している』と指摘する」との記述がありますが、個人の思想に踏み込む以上、本人への取材もなく、取材源の一人からの荒谷氏に対する評価をさも客観的な材料かのように扱うのは、荒谷氏に対する読者の印象を著しく損ね、一方的に名誉を毀損することになると考えられますが、貴団体のご見解をご教示いただけますでしょうか。
(10)共同通信の編集過程について
今回の記事内容は読者に「『憲法改正のためには武装蜂起も必要だ』という政治的思想を持ち、現役時代に高い実績とカリスマ性を持った自衛官OBが、現役自衛官などを募り、自衛隊法違反の可能性がある訓練行為を行っている」との印象を与えます。荒谷氏は今回まで12回におよぶ「むすびの里」での訓練について、「かつて武道館で教えていた時、生徒から自衛官としてより実戦的な訓練を受けたいとの要望があり、山間部で教えている。武器の使用はまったくなく、エアガンすら持ち込んでいない。実弾の入った銃火器を使用したり、現役自衛官が作戦内容などについて披瀝することがあれば自衛隊違反だろうが、一般人である私が山間部での戦闘訓練を実施することは自衛隊法違反にはまったくあたらない」と答えています。また、クーデターなど反社会的行動については「ネット上で公募している時点でありえない」と反論しています。
記事内容は近隣住民をはじめ日本国民全体に大変な動揺を与えるものにもかかわらず、本人や参加者への取材や実際の訓練の中身の確認をせずに、石井氏の取材した材料をそのまま反映し、記事として配信したことについては、偏りがある上、報道機関として無責任な印象を受けますが、貴団体のご見解をご教示いただけますでしょうか。また、「個人的な政治思想」を本人への取材もなく記事化したことは「思想言論の自由を守る」という報道機関の大前提を侵すことになると考えられますが、貴団体のご見解をご教示いただけますでしょうか。
(11)当該記事について、弊社で確認した限りにおいて、1月24日付で沖縄タイムズと愛媛新聞が1面トップ、琉球新報が1面肩、中国新聞が1面トップ、岐阜新聞が1面肩で使用しており、かなり広範に読まれたと推察されます。荒谷氏が住む近辺の地方紙には掲載されず、居住地域からの苦情などはなかったものの、この記事を読んだ多くの読者には、荒谷氏本人に関する悪い社会的イメージが広まった可能性があります。また、荒谷氏によると、訓練に参加した現役自衛官のなかには、正式な手続きを踏んで休暇中であったにもかかわらず、自衛隊内で上司から叱責され、人事考課上マイナスになると考えれる不利益を受けた者もいるといいます。
今回の記事が荒谷氏の社会的イメージや、訓練に参加した自衛官らに実害を及ぼしていることに対する貴団体のご見解をご教示いただけますでしょうか。
(12)荒谷氏は今回の記事について、「面識がまったくなかった石井氏に無理矢理押しかけられるかたちで取材され、物証など明確な根拠もなく一方的な記事を書かれたとして非常に迷惑を被った」と話しています。全体の取材プロセスからしても報道被害を被ったといえますが、貴団体として荒谷氏への謝罪、記事の取り消しなどの実施されるご予定はございますでしょうか。
(13)石井氏は貴団体が配信された『自衛隊の闇組織「別班」』の連載もご執筆されておられますが、今回の取材プロセスを拝見する限り、不当な取材活動をされておられると推察されます。これまでに石井氏が執筆した記事について、事実関係や取材過程について再検証され、それについて公表されるご予定はございますでしょうか。
(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)