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赤石晋一郎「ペンは書くほどに磨かれる」

韓国が中国・北朝鮮と連携して日韓歴史問題“再燃運動”か…国際世論で「日本叩き」醸成

文=赤石晋一郎/ジャーナリスト
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韓国の文在寅大統領(首相官邸HPより)

「政府はいつでも日本政府と向き合い、対話する準備ができている。易地思之(相手の立場に立って考える)の姿勢で向き合えば、過去の問題も賢明に解決できると確信している」

 日本による植民地支配に抵抗して1919年に起きた独立運動「三・一運動」から102年を迎えた3月1日、韓国政府主催の記念式典で文在寅大統領はこう演説した。歴代最悪という日韓関係のなか、文大統領の言葉は“歩み寄り”を意識させるものだと各メディアでは報じられた。

 だが日韓両国が歩み寄るには、程遠い状況にあるというのが現実だろう。文政権は「挑発」と「譲歩」を繰り返すという、北朝鮮ばりの“瀬戸際外交”を対日政策として長らく続けてきた。ときに対話を呼びかけるという譲歩を見せるものの、その軸となっているのが「反日姿勢」であることには変わりがない。

 文政権が発足して以来、日韓関係が悪化の一途をたどっていることは周知の通りである。韓国側が繰り返し日韓歴史問題を持ち出してくることによって、両国関係は拗れに拗れたのだ。日本政府側も、韓国に対韓国輸出制限や日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄決定を行うなど対立は深まる一方であり、いまだにその溝は埋まっていない。

新しい冷戦構造

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『韓国人、韓国を叱る 日韓歴史問題の新証言者たち』(赤石晋一郎/小学館新書)

 なぜこうも日韓関係は拗れるのか。「原因は“新しい冷戦構造”にある」と私に語ってくれたのは、李大根・元成均館大学校名誉教授だ。李氏は日韓経済に精通している経済学界の重鎮の一人である。

「大きな視点で見れば、米中対立という枠組みのなかに日韓関係もあると私は見ています。韓国が大陸側(中国・北朝鮮)につくのか、太平洋側(米国)につくのかという選択をいずれ迫られることになるでしょう」

 文政権は親北朝鮮というスタンスのもと、日韓歴史問題の再燃を事実上後押ししてきた。それは後述するように北朝鮮の“同盟国”でもある中国に秋波を送る行動でもあるのだ。一方で経済的な面を見ると韓国は、日米の虎の尾を踏まないように立ち回らなければいけないという中途半端なスタンスを取り続けざる得ない。米中のどちらにつくのかを韓国はいずれ迫られることになる、と李氏は指摘するのだ。

 米中対立が国際社会における大きなテーマとなっている現在、韓国はその立ち位置に苦慮しているといえるだろう。文化的には日米から大きな影響を受けている一方で、民族的には北朝鮮という同胞国家を隣国に持つ。日本政府が対韓国輸出制限やGSOMIA破棄に打って出たのも、いずれも北朝鮮への技術流出や情報流出を懸念してのものだ。

日韓歴史問題の“モンスター”化

 文大統領が誕生したことによって日韓関係が悪化してしまった。最大要因は日韓歴史問題が再燃したからだといえるだろう。まず文政権は、日韓合意によって設立した慰安婦問題を解決するための財団である「和解・癒やし財団」を解散させる。2018年末には韓国大法院で元徴用工や遺族による損害賠償裁判で、日本企業に対して賠償命令が下された。日本政府は「徴用工問題は1965年の日韓基本条約で解決した問題だ」と抗議したが、文政権はこの司法判断を放置し、事実上追認をしたのだ。

 文政権のスタンスは日韓歴史問題の“モンスター”化を招き、日韓関係を修復不能と評されるまでに悪化させた。

 日韓歴史問題が経済摩擦にまで発展していることについて、李氏はこう嘆く。

「韓国最高裁の徴用工判決はとんでもない判決でした。文大統領は少なくとも最高裁判決が出る前に大法院と協議すべきだった。国際法を守るのかという問題は、国の品格に関わる問題です。それを無視すれば、その国は信頼できないと考えるのは当然のことです。文政権は“反日”を政治利用し、国民をミスリードしようとしている。韓国世論は政治的な煽動に迎合しやすい。このまま対立を続けていたら韓国経済は大きな損害を受けるしかない」

 なぜ文政権が日韓歴史問題を再燃させることに積極的であるのか。その背景にも、米中対立が影響していると指摘するのは、ある日本政府関係者だ。

「米国は、中国当局の香港での抑圧、台湾への威迫、ウイグルでの人権弾圧などの人権問題を国際世論にも訴え、厳しく糾弾を続けてきました。こうした人権問題批判に対抗する一手が、慰安婦問題や徴用工問題などの“歴史問題”だと中国は考え始めている。実は旧日本軍による慰安婦問題や徴用工問題は、いずれ韓国と北朝鮮が連携してくると想定されていますが、中国も被害を訴え参戦してくる余地は十分にある。三国で『日本は反省をしていない、反人権的な国じゃないか』という国際世論をつくることで、中国の人権問題に対する国際世論の批判をかわしたいという思惑があるとされています」

 じつは、こうした予兆はすでに現れている。慰安婦問題について否定的な論文を書いたマーク・ラムザイヤー米ハーバード大ロースクール教授について中国外務省が噛みついたのだ。

「中国外務省の報道官が珍しく、厳しい口調で批判したのです。19日の会見で報道官は『慰安婦問題は日本軍国主義が第2次世界大戦中にアジア地域の国民を対象に犯した深刻な反人道的犯罪であり、慰安婦問題に対する中国の立場は一貫して明確だ。私たちは日本が歴史を直視し、反省し、責任のある態度で慰安婦問題を処理し、国際社会の信頼を得ることを要求する』との声明を発表しています。慰安婦問題などについて近年は発言を控えていた中国でしたが、その態度を一変させたと驚く声があがりました」(全国紙外信部記者)

 つまり報道官の言葉は、中国が日韓歴史問題に首を突っ込み始めたということであり、場合によっては韓国との共闘も辞さない姿勢を見せるようになったということなのだ。

 慰安婦問題についての詳細については複雑な問題を内包するため、本稿では掘り下げない。もし興味ある方がいれば拙著『韓国人、韓国を叱る 日韓歴史問題の新証言者たち』(小学館新書)で、その問題と二重構造、そして矛盾について詳述しているので参照していただきたい。

 本稿で指摘したいのは、日韓歴史問題が再び国際世論において議論され始めるという状況になりつつあるということだ。その前段となったのが文政権下における日韓歴史問題の再燃活動なのである。さらに米中対立という構造のなかで、韓国→北朝鮮→中国が連携していく可能性が出てきており、日韓(日中)歴史問題をターゲットに親米国である日本叩きを始める可能性を匂わせ始めたということなのである。

日本政府側は静観姿勢

 一方で、韓国政府は風見鶏的な動きも行っている。朝鮮半島の平和プロセス再起動に日米両国を引き込むため、日本に融和メッセージを送るようになったのだ。しかし、これまでの経緯から日本政府側は静観姿勢を崩していない。

 日本政府側の意思は明確だ。徴用工問題などについて韓国政府に「司法判決を尊重する」というグレーな立場表明ではなく、より積極的な解決策を示すように求め続けている。菅義偉首相は1月18日の国会施政方針演説で、韓国側が解決策を先に出さなければならないと強調した。彼は「健全な関係に戻るためにも韓国側に適切な対応を強く求めたい」と発言している。

 韓国のジョン・ウィヨン外交部長官は就任してから2週間経ったが、茂木敏充外相と対話ができておらず、カン・チャンイル駐日韓国大使はいまだ菅首相と茂木外相に会えていない。なぜ日本政府側が強硬姿勢に出るのかといえば、前述のように歴史問題を放置しておけば、いずれ韓国、北朝鮮、中国が連携して問題を喧伝し始めることを警戒しているからだといえよう。

 日韓関係の行方は、米中対立という新たな“変数”によってますます不透明な状況が続くことになりそうだ。

(文=赤石晋一郎/ジャーナリスト)

赤石晋一郎/ジャーナリスト

赤石晋一郎/ジャーナリスト

 南アフリカ・ヨハネスブルグ出身。講談社「FRIDAY」、文藝春秋「週刊文春」記者を経て、ジャーナリストとして独立。
 日韓関係、人物ルポ、政治・事件など幅広い分野の記事執筆を行う。著書に「韓国人韓国を叱る 日韓歴史問題の新証言者たち」(小学館新書)、「完落ち 警視庁捜査一課『取調室』秘録」(文藝春秋)など。スクープの裏側を明かす「元文春記者チャンネル」YouTubeにて配信中

Note:赤石晋一郎

Twitter:@red0101a

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