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山崎俊輔「発想の逆転でお金に強くなる『お金のトリセツ』」

「75歳まで働く社会」が現実味…退職年齢を自分で決めるために今やるべき“お金のこと”

文=山崎俊輔/フィナンシャル・ウィズダム代表
「75歳まで働く社会」が現実味…退職年齢を自分で決めるために今やるべき“お金のこと”の画像1
「Getty Images」より

自分の「引退年齢」というゴール、意識したことはある?

 アラサー、アラフォー世代の読者にとっては、「引退年齢」や「定年退職」の話を聞かされても他人事だろうと思います。それはそのはずで、30歳まで人生を生きてきた人に、65歳のことを想像しろというのは、今までの人生の長さ以上先の未来を考えるわけで、無理な話かもしれません。40代でもなかなか難しいもので、22歳から20年くらい働いてきた時点で、さらに25年後を考えるわけですから、あまりにも遠いことです。

 しかし、マラソンランナーが折り返し地点でゴールのことを考えないはずがありません。ペース配分を意識したり、残り半分の高低差(上り坂がラスト5キロあたりにある、とか)を意識します。

 今、「折り返し地点」と言いましたが、自分のゴールがどこにあるかを考えることは、とても大切です。マラソンランナーが42.195キロのゴールにたどりついたとき、いきなり「ゴールはあと5キロ先でした」と言われれば気力の限界に達し、倒れてしまいます。新しいゴールまで走り抜くことはできないでしょう。

 実は今年4月、“70歳現役社会”に向けた一歩目がスタートします。しかし、「65歳ではなく70歳をあなたのゴールにしましょう」という話ではありません。あなたがアラサー、アロフォー世代であれば、「ゴールは75歳」を意識しておいたほうがいいのです。そしてゴールをもっと手前に設定したいのであれば、やるべきことがあります。

70歳現役時代スタート ただし「年金が破たんするから」ではない

 法律上、会社が定年を60歳より若く設定することはできません。定年というのは一律に年齢で退職させる仕組みです。多くの会社は60歳定年となっていますが、人材不足のなか、65歳定年となっている会社もすでに2割くらいあります。また、60歳定年であっても65歳までは本人が希望すれば継続して雇用することが会社にとって義務となっています。いわゆる継続雇用制度です。これにより、65歳までは働ける環境が整っています。

 今回の法律改正では、さらに5歳引き上げを行い、70歳まで会社が社員の働く機会を提供するよう求めています。ただし「努力義務」としているので、強制ではありません(おそらく5~10年後くらいに完全義務化される)。

 こういうニュースをみると「年金が破たんするから70歳まで働けというのだろう」と感想を抱くと思いますが、実はそれは異なります。確かに引退年齢を60歳から65歳に引き上げたときは、年金受給開始年齢の引き上げとセットだったのですが、今回はそうした引き上げはありません。

 むしろ年金は65歳からという基本は変えないことが、政府の基本方針にも盛り込まれています。年金破たんを避けるため70歳まで「働かされる」のではなく、70歳まで「働ける」選択肢を先に与えて、自分の引退年齢を自分で決めていくというのが、70歳現役社会の姿なのです。

アラサーなら75歳リタイアを意識し 未来を早めに考えよう

 70歳現役社会への移行がこれから始まり、10年後くらいに完成するとして、その頃アラサー、アラフォーの皆さんはそのときまだまだ現役です。「70歳現役社会のその次」を見越しておく必要があるでしょう。

 昭和の前半(戦後まもない時期)は50歳もしくは55歳を引退年齢としていたようですから、その頃働き始めた若者の実際の引退時には+10歳くらいになったイメージです。だとすれば、私たちが年を取った頃には“75歳引退”の世の中になっても何もおかしいことはありません。

 繰り返しますが、公的年金については破たんリスクを気にする必要はありません。制度全体の収支バランスをとる仕組みなので、むしろ破たんさせるほうが難しいでしょう(ただし、65歳より遅くもらい始めて公的年金を増額しておくほうが賢明です)。

 そして、今どきの高齢者は元気になりました。25年前、60歳の人が65歳まで働くのはしんどいという雰囲気でしたが、今の65歳は運動もできるほど元気です。70歳過ぎて山登りをする人もたくさんいます。アラサー、アラフォーの皆さんが70歳を迎える頃には医療技術も進展し、長寿化は進みます。統計上はすでに女性の4人に1人は95歳まで長生きする時代になっており、“人生100年時代”は本当にやってくると思うくらいがいいでしょう。

 今から75歳でのリタイアを意識してキャリアプランを考えておくことは、決してムダにならないはずです。

お金の心配がなければ、いつだって自分の引退は自分で決められる

 それでもやはり「75歳までは働きたくない」「65歳で辞めたい」という人もいます。もし本気で考えているなら、自分で経済的安心を確保しておくことにつきます。

 とりあえず公的年金は65歳でもらえるわけです。しかし公的年金では日常生活費のやりくりにしか回りません。そうなると65歳以降働くかどうかは、あなたの預金残高の余裕が決めるということになります。お金の不安がなければ、65歳以降は「(基本的には働くつもりはないけれど)仕事が楽しそうならやってもいいか」と強気に出ることもできます。会社に頭を下げさせてもいいわけです。しかし、65歳で引退して経済的にやりくりする自信がなければ、仕事がつまらなくても70歳あるいは75歳まで働かなければなりません。

 若い世代に向けて、iDeCoつみたてNISAの制度を活用して老後資産形成に取り組むことが推奨されていますが、そうすべき理由は、会社員人生の引き際を「自分で決める」ためなのです。

 ちなみに、iDeCoが月2.3万円(企業年金のない会社員)、つみたてNISAが月3.3万円の積み立て投資が可能になっています。もし、あなたが早い時期にこの枠を使い切って資産形成に着手できれば、年間で67.6万円の残高が上積みされ、運用収益(非課税扱いになりさらに有利)も加算されます。もし20年以上取り組みを継続できれば、これに退職金が上積みされますから、65歳ないし70歳の人生の選択はお金の不安を抜きにして決断することができるでしょう。

 お金ではなく、「自分のやりたいこと(仕事として、あるいはプライベートで)」を判断材料として引退を決断できれば、これほど気持ちのよいリタイアはありません。20年、あるいは30年以上先を見据えて行動するのは大変です。しかし、未来を想像して行動した人には、「自分で自分の引退年齢を決める」という自由が待っているのです。

(文=山崎俊輔/フィナンシャル・ウィズダム代表)

山崎俊輔/フィナンシャル・ウィズダム代表

山崎俊輔/フィナンシャル・ウィズダム代表

1972年生まれ。中央大学法律学部法律学科卒業。企業年金研究所、FP総研を経て独立。個人の資産運用や老後資産形成のアドバイスが得意分野。日経新聞電子版やYahoo!ニュースなど多数連載を持つ。月間PVは200万以上。
フィナンシャル・ウィズダム代表 ファイナンシャルプランナー
financialwisdom

Twitter:@yam_syun

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