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雇用保険から排除される非正規労働者…失業保険を少しでも多く受け取る裏ワザ

文=日向咲嗣/ジャーナリスト
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「Getty Images」より

「ようやく解除か」と安堵する一方、日を追うごとに深刻になりつつある雇用への影響の大きさに気づく人も多いだろう。新型コロナウイルス感染者数の急増によって、1月7日に出された国内二度目の緊急事態宣言のことである。

 厚生労働省によれば、新型コロナウイルスの影響で仕事を失った人は、見込みも含めて8万8000人とされるが、野村総合研究所は、働く女性1163万人のうち少なくとも7.7%にあたる90万人が”実質的な失業状態”にあるとの推計結果を先頃発表した(『コロナ禍で急増する女性の「実質的休業」と「支援からの孤立」』2021年1月19日)。

 この分を考慮した実質的な失業率は、すでにリーマンショック並みの5%を超えているのではとの見方もある。同調査によれば、6割の女性が休業手当や各種支援金を自分が受け取れることを知らなかったとされている。

 女性が比較的多く就業する飲食・サービス業への影響は甚大で、時短営業や休業を余儀なくされた店舗で働いている非正規労働者にとっては、収入激減で死活問題だ。

 そんなときこそ役に立つのがセーフティーネットとしての雇用保険だが、困ったことにコロナ禍は、雇用保険制度そのものに大きな欠陥があることを浮き彫りにした。

 雇用保険に何年間加入していても、非正規労働者は一定の勤務日数がなければ、退職後に失業手当の受給資格が得られないという理不尽な事態が起きている。いくら本人が働きたくても、店舗が時短営業や臨時休業しているところでは、通常営業通りにシフトに入れないからだ。

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賃金基礎日数が11日以上、または80時間以上勤務した月のみ1カ月として計算。上のケースでは、最終月の8月は11日勤務に1日足りないものの80時間勤務なので1カ月として換算する一方、2月と7月は10日勤務(80時間未満)のため算定対象期間外とされ、結果的に被保険者期間は10カ月となり、自己都合退職なら受給資格(12カ月以上勤務)はなしと判定される。

 11日以上(もしくは80時間以上勤務)働いた月が、原則として過去2年間に12カ月以上ないと雇用保険の受給資格を得らない。それをクリアできない人が激増している。これは制度上の大きな欠陥だ。

 雇用調整助成金や休業手当については、メディアでも広く報道されて国会等で議論されているが、雇用保険制度のこの欠陥については、まだほとんど認識すらされていない。

 そこで今回は、その仕組みと対処法を紹介したい。

 まずは、昨年12月22日付当サイト記事『コロナ禍の基礎知識!失業給付金を有利にもらうコツ…給付要件緩和&給付額増加の可能性も』でも取り上げた、雇用保険制度の問題点とその仕組みを、あらためて詳しくみておこう。

・非正規労働者の場合、会社都合で解雇される前に、単にシフトに入れる勤務日が激減する。「これでは生活できない」として退職すると、「自己都合」と判定されて退職前2年間に12カ月以上勤務していなければ失業手当を受給できない。

・受給資格を得るための加入期間に換算できるのは、11日以上もしくは80時間以上勤務した月のみ。飲食店などサービス業でシフト勤務の人は、10日(もしくは80時間未満)しか働いていない月は、雇用保険の受給資格上は「勤務していない月」とみなされる

・その結果、何年もフルタイムで働いてきたのに、コロナ禍で勤務先が休業を余儀なくされたケースでは、退職後に失業手当を1円ももらえない理不尽な事態が多発している

 では、どうしたらよいのか。前回記事では「在職中は、できる限り月11日(80時間)以上シフトに入る」「ハローワーク(ハロワ)で会社都合と認めてもらう要件に該当する証拠をもっていく」などを紹介した。

 今回は、もうひとつ重要なこととして「勤務先から休業手当をもらう」ことを挙げたい。

 休業手当をもらっていれば、その期間も被保険者期間として算入されることになり、これも含めた日数がトータルで月11日以上(または80時間以上)ある月は、雇用保険に加入していた月に換算できるからだ。

 月10日以下の勤務が続くと、それらはすべて「カラ期間」扱いだが、休業手当をもらっていた期間は普通に働いていた期間と同じ扱いになるため、受給資格のハードルが少し低くなるのだ。

 たとえば、昨年3月に入社して今年2月末で退職する人が、他の月は20日以上働いていたのに2月は10日間(80時間未満)しか働けなかったとしたら、退職前2年間に11カ月しか勤務してない(失業手当受給には12カ月必要)として、退職後は失業手当を受給できない。しかし、もし2月に1日でも休業手当をもらっていれば賃金支払基礎日数は11日となり、退職前2年間に12カ月加入していたとして、退職後は失業手当を受給できるようになる。

休業手当をもらったときの失業手当は?

 そこで気になるのが、休業手当を受け取った場合の失業手当の計算方法だろう。休業手当は原則休業前の平均賃金【※1】の6割以上。ただでさえ安い給与なのに、さらにその6割を基に失業手当(原則として退職前半年間にもらっていた給与の5~8割)を計算されると、極端に安くなってしまうのではないのかと心配される方も多いだろう。

 だが、その点は安心してほしい。雇用保険制度では、受給資格の決定には休業手当支給期間も含むが、失業手当の額を計算する際には、原則として休業していた期間は除くことになっている。

 たとえば、1カ月の給与を20万円、休業手当(1カ月当たり10万円)を3カ月にわたってもらっていた場合、賃金日額(過去半年の平均賃金)は、以下のような計算式になる。

    (半年間にもらった給与総額90万円)-(1カ月10万円×3カ月)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
   180(1カ月30日換算×6カ月)-90(休業手当支給30日×3カ月)

※1 時給・日給者は、休業日以前3カ月間の賃金総額 ÷ 3カ月間の労働日数 × 60%として計算

 要するに、過去半年の平均賃金を求めるときには、休業手当をもらっていた期間も含めて計算すると、その間の安い賃金が失業手当に反映されるため不利。そこで、休業手当をもらっていた期間は除外して、ちゃんと稼げていた期間の平均賃金を基に計算するという主旨である。

 そして、この平均賃金の5~8割(低い人ほど8割に近く、高い人ほど5割に近い額)が、実際の失業手当となるわけだ。

 ただし、ひとつ例外がある。失業手当を換算するときの対象になる「過去半年間」にわたって、まるまる休業手当をもらっていたケースに限っては、その半年間の休業手当の金額がそのまま失業手当を計算するときに使われるので注意したい。

休業手当が出なければ「会社都合」を主張すべし

 さて、ここで、メディアでさかんに取り上げられている”休業手当の問題点”が浮かび上がってくる。

 労働基準法では、会社が自らの都合で従業員を休ませる場合、平均賃金の60%以上を休業手当として払うことを義務づけている(その費用負担のために、解雇を回避した会社には雇用調整助成金が出る)。これは長期間の休業はもちろん、1日単位でも払う必要があり、違反すれば罰則もある。

 ところが、大企業でも、非正規のシフト労働者に対して休業手当を支給しないケースが多いことが判明し、いま大きな社会問題になっている。

 シフトが確定した後に一方的にキャンセルされたら「休業」に当たるが、シフトが決まる前の場合には、企業側が労働者に「休業」を命じていないので、休業手当を払う義務はない――と主張しているからだ。

 そこで知っておきたいのが、もし休業手当が一切出なかったら、退職後にハローワークで雇用保険の手続きをする際に、こう主張することだ。

「休業手当が支給されなかったので、やむなく退職した」

 考えてみてほしい。月何日勤務するとか、週何時間勤務するとは契約書には書かれていなくても、雇用保険の加入手続きをしているということは、実態として少なくとも週20時間以上勤務することが前提になっており、前月までのシフト表をみれば、休業入るまでの通常営業での平均的な勤務実績というのは、ある程度把握できるはずだ。

 それを基に休業手当が支払われるべきと考えるのが妥当で、それを拒否されているということは、生活維持が困難で、それに耐えきれずに退職したということになり、当然それは「会社都合」であるといえる。

 また、正社員には休業手当を払っているのに、非正規労働者にはそれを払っていないとしたら、明確に違法と認定される可能性は高くなるだろう。休業手当不支給の場合について、ハロワの現場には、まだ統一的な取り扱いを指示する通達が出ていないという。「現場で状況に応じて判断」ということになっているそうだが、こういう申立が激増すれば、安定所長も一律で判断せざるを得なくなるだろう。

 もし休業手当が出ないまま退職することになったら、上のような論理で、ハローワークで「会社都合退職」にあたると異議申立をすべきである。

 雇用している会社側に明らかに責任があると認められれば、会社都合と判定される可能性は大いに高まる。そして会社都合と認められた場合、11日または80時間以上勤務した月が6カ月以上あれば退職後に失業手当をもらえる。自己都合と比べたら、半分の加入期間で受給可能になるのだから、黙っていては大損である。

 さらに、雇用保険の受給資格さえ確保できれば、コロナ禍の臨時特例で実施されている延長給付の特典(60日)を受けられたり、職業訓練を受講することも可能になる。その結果、90日しか手当をもらえない人でも、なんとか半年くらいは食いつなぐことができるはずだ。だからこそ、何がなんでも会社都合で退職することにこだわるべきなのである。

 なお、新型コロナの影響で休業したのに、勤務先から休業手当を支給されない場合に、労働者本人の申請によって国から支給される「新型コロナ感染症対応休業支援金・給付金」(休業前の平均賃金の60~80%を支給)という制度も用意されているので、そちらもできる限り活用したい。

“コロナショック”を起こさないためには

 2008年のリーマンショックのとき、失業手当をもらえない大量の非正規労働者が出て、雇用保険制度に大きな穴があいていることがクローズアップされた。

 当時、雇用保険の加入要件に「1年以上雇用見込み」という抜け道があったため、「短期契約にすれば加入しなくてもよい」と解釈されていたからだった。そのため大手企業やその系列でもアルバイトや契約社員など非正規労働者に対しては、この抜け道を利用した「雇用保険未加入」という脱法行為が平然と行われていた。

労働政策にかかわる研究者たちからも長年、その弊害は指摘され続けてきたが、なぜか一向に改善されなかった。これがリーマンショックで大惨事を生んだひとつの大きな要因でもあった。

 その反省のもとに、「1年以上雇用見込み」という要件は、09~10年にかけて行われた二度の法改正を経て改善。現在は「31日以上雇用見込み」があり「週20時間以上」働いてさえいれば加入義務が発生するようになり、加入に関してはほぼ抜け道はなくなった。とりあえず、雇用保険制度からこぼれる労働者は、リーマンショックのときから比べると激減したとみられる。

 ところが、今回のコロナ禍は「シフト勤務労働者は、長く働いても退職後に雇用保険をもらえない」という新たな制度の欠陥があることが浮き彫りにされたのだった。

 この欠陥を修正するために、法改正は必要ない。安定所の現場で「休業手当不支給による生活維持困難者は会社都合退職」と判定するだけで解決するはずだ。ぜひ、そのような対応をお願いしたい。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)

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hina39@gmail.com 日向咲嗣宛て

日向咲嗣/ジャーナリスト

日向咲嗣/ジャーナリスト

1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経てフリーに。「転職」「独立」「失業」問題など職業生活全般をテーマに著作多数。2015年から図書館の民間委託問題についてのレポートを始め、その詳細な取材ブロセスはブログ『ほぼ月刊ツタヤ図書館』でも随時発表している。2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。

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