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藤和彦「日本と世界の先を読む」

サウジアラビア、自らの首を絞める原油増産…アメリカの要求に操られるサウジのジレンマ

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
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オーストリア・ウィーンにあるOPECの本部(「Wikipedia」より)

 OPECとロシアなどの大産油国で構成される「OPECプラス」は4月1日、市場の予想を覆す決定を行った。OPECプラスは、協調減産の規模を5月と6月はそれぞれ日量35万バレル、7月は同44万バレルと縮小することを表明した。独自の追加減産(日量100万バレル)を実施していたサウジアラビアもその規模を5月に25万バレル、6月に35万バレル、7月に40万バレル縮小する方針である。

 これにより7月までに日量200万バレル以上の原油が増産されることになるが、その規模は世界の原油供給量の2%以上に相当する。市場関係者の間では「OPECプラスとサウジアラビアは現行の減産規模を据え置く」との見方が多かった。OPECは事前の予測で「新型コロナウイルスのパンデミックの影響で世界の原油需要は下振れする」との見通しを示していたからである。

 今年に入り世界の原油市場は「強気モード」が支配的になりつつあった。「新たな商品のスーパーサイクル(価格の長期的上昇)が始まる」との威勢の良い声が聞かれたが、欧州地域での新型コロナウイルスの感染拡大などから3月中旬に腰折れとなった(1バレル=60ドル割れ)。その後スエズ運河でのタンカー座礁事故を材料に原油価格は反転し(世界の原油供給量の2%弱がスエズ運河経由)、その流れをOPECプラスの協調減産などが後押ししてきた。

 OPECプラスのメンバーの大半は協調減産の規模を維持する方針を支持していたが、OPECの事実上の盟主であるサウジアラビアが供給増の提案を行ったことで議論の流れは変わった。サウジアラビアが増産に踏み切った背景には、OPECプラス会合の直前にアブドルアジズ・エネルギー相がグランホルム米エネルギー長官と行った電話会談にあるとの観測がもっぱらである。

 会談の内容は明らかになっていないが、グランホルム氏はアブドルアジズ氏との電話会談後、「手頃で信頼できるエネルギー源の確保に向け、国際協力が重要であることを再確認した」とツイートした。アブドルアジズ氏はOPECプラス会合後の記者会見で「米国をはじめ、いかなる原油消費国との協議の影響を受けていない」と語っているが、「原油高でガソリン価格が上昇すれば、大規模な経済対策の効果が損なわれてしまう」ことを懸念する米国が、サウジアラビアに対して増産要求を行ったと考えて間違いないだろう。

安全保障上の要請

 今回の増産の決定で原油価格が今後下落するリスクがあるにもかかわらず、サウジアラビアが増産に応じたのは、安全保障面の要請からではないかと筆者は考えている。

 1年前のこの時期には逆の事態が起こっていた。原油価格の維持を軽視していたサウジアラビアのムハンマド皇太子がOPECプラスの協調減産を反故にする大増産を実施したことで、原油価格が急落したのが事の始まりだった。米WTI原油先物価格が一時マイナスを記録するという異常な事態となり、自国のシェール企業の多くが倒産することを恐れた当時のトランプ米大統領は「増産を止めなければサウジアラビアに駐留する米軍を撤退する」とムハンマド皇太子を一喝すると、これに震え上がったムハンマド皇太子はただちに大規模減産を実施して米国に恭順の意を示したという経緯があった。

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