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鬼塚眞子「目を背けてはいけないお金のはなし」

コロナワクチン、認知症患者への接種判断が盲点に…親族と成年後見人の責任問題が浮上

文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表
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首相官邸と厚労省が共同で作成したパンフレット(「首相官邸 HP」より)

 4月12日から65歳以上の高齢者約3600万人を対象に、新型コロナウイルスワクチンの優先接種が始まった。新型コロナ感染者が増え、25日に東京、大阪、京都、兵庫に緊急事態宣言が発令されることになり、ワクチンへの期待は高まる一方で、従来にはない製法に不安の声があるのも事実だ。

 今回薬事承認がされ接種が開始されたワクチンは、アメリカのファイザー社製のmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン(販売名:コミナティ筋注)だ。厚生労働省はmRNAワクチンについて、次のように説明している。

「SARS-CoV-2のスパイクタンパク質(ウイルスがヒトの細胞へ侵入するために必要なタンパク質)の設計図となるmRNAを脂質の膜に包んだ製剤になります。本剤を接種し、mRNAがヒトの細胞内に取り込まれると、このmRNAを基に細胞内でウイルスのスパイクタンパク質が産生され、スパイクタンパク質に対する中和抗体産生及び細胞性免疫応答が誘導されることで、SARS-CoV-2による感染症の予防ができると考えられています」

 首相官邸と厚労省が共同で作成したパンフレットでは、予防の有効性について次のように説明している。

「新型コロナワクチンは2回の接種によって、95%の有効性で、発熱やせきなどの症状が出ること(発症)を防ぐ効果が認められています」

「どんなワクチンでも、副反応が起こる可能性があります」

「国内治験では、ワクチンを2回接種後に、接種部位の痛みは約80%に、37.5度以上の発熱が約33%、疲労・倦怠感が約60%の方に認められています」

「アナフィラキシーの発生頻度は、市販後米国で100万人に5人程度と報告されています。日本での接種では、ワクチン接種後15~30分経過を見て、万が一アナフィラキシーが起きても医療従事者が必要な対応を行います」

 つまり、治験では、接種した3人に1人以上に37.5度以上の発熱が、5人に3人に疲労・倦怠感がみられたという。

副反応に関する報告

 副反応について、第55回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会(令和3年度第1回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会 資料1-1 2021(令和3)年4月9日)で、次のような報告がなされている。

・令和3年2月17日から令和3年4月4日報告分までで、接種者数1,096,698人、副反応疑い報告数1,755、うち重篤(注)報告数296、死者5人、副反応が発症した割合は0.16

(注)「重篤」とは、(1)死亡、(2)障害、(3)それらに繋がるおそれのあるもの、(4)入院、(5)(1)~(4)に準じて重いもの、(6)後世代における先天性の疾病又は異常のものとされているが、必ずしも重篤でない事象も「重篤」として報告されるケースがある。

 副反応が出た場合の接種責任の所在が気になる。厚労省はHPで、「新型コロナワクチンの接種は、国民の皆さまに受けていただくようお勧めしていますが、接種を受けることは強制ではありません。しっかり情報提供を行ったうえで、接種を受ける方の同意がある場合に限り接種が行われます」と明記している。接種の際には、期待される効果やリスクを総合的に判断する自己責任が不可欠というわけだ。

 私見ながら治験審査委員の立場でいうと、治験を行い、どんなに服用・接種のルールや環境を厳格に整備しても、有害事象は発生する。厚労省は、接種できない人についても「明らかな発熱がある方や、重い急性疾患にかかっている方」「ワクチンの成分に対し、重度の過敏症を起こしたことがある方」と明記している。また、「注意が必要な方」として「現在、何らかの病気で治療中の方」「薬や食品に対する重いアレルギー症状・けいれん(ひきつけ)のような症状が出たことがある方」を挙げている。

認知症患者の接種判断

 悩ましいのが認知症患者の接種判断だ。健康状態に問題がない認知症患者なら、接種は可能になる。通常、認知症患者の接種判断は親族に委ねられることになるが、親族が反対する中で仮にたったひとりの親族が強引に接種を受けさせ、副反応が出た場合、判断の責任が問われるのだろうか。

 さらに難しいのは、認知症患者に成年後見人が選任されている場合だ。成年後見人の内容には「身上介護」が含まれている。東京法務局のHPには、「成年後見制度の概要(従前との比較)」として、こう記されている。

「本人がお持ちになっている預貯金や不動産などの財産管理,あるいは介護,施設への入退所など,生活に配慮する身上介護などを,本人に代わって法的に権限を与えられた成年後見人等が行うことによって,本人を保護し,支援する制度です」

「生活に配慮する身上介護」にワクチン接種の判断は該当するのか、また、判断の責任は誰が負うことになるのか。

 成年後見人には、裁判所が選任する法定後見人と任意後見人がある。特に注意すべきは、法定後見人として弁護士などの第三者が選任されている場合だ。東京家裁に「認知症患者のワクチン接種の判断責任」を聞いてみたところ、「法定後見人か親族かは個別案件ごとに調べてお話しする」とのことだった。個別案件に対応してもらうには、裁判所に法定後見人制度を申請した際の家事事件番号が必要となる。

 一般的な成年後見人の職務内容は定められているが、成年後見人が具体的に「何ができて、何ができないのか」に関しては個別での対応となる。家事案件がわかる大阪の親族の例では、大阪家裁から「本件のワクチン接種の判断は成年後見人。副反応が出た場合、成年後見人の責任追及は裁判となる」と言われたという。つまり、接種判断は法定後見人に委ねられる場合があるわけだ。

 たとえ家裁が接種判断の責任が成年後見人にあると認定しても、親族が第三者が接種判断をすることに納得いかないケースもあるだろう。

 以上みてきたように、認知症患者へのワクチン接種をめぐっては、今後さまざまなトラブルが発生する可能性がある。本人が健康だったらどう判断したかと想定しながら、法定後見人と親族の双方が十分に効果とリスクを検証して、接種判断を行うことが不可欠である。

(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

出版社勤務後、出産を機に専業主婦に。10年間のブランク後、保険会社のカスタマーサービス職員になるも、両足のケガを機に退職。業界紙の記者に転職。その後、保険ジャーナリスト・ファイナンシャルプランナーとして独立。両親の遠距離介護をきっかけに(社)介護相続コンシェルジュを設立。企業の従業員の生活や人生にかかるセミナーや相談業務を担当。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などで活躍
介護相続コンシェルジュ協会HP

Twitter:@kscegao

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