
日米の両国政府が、次世代の高速通信規格である「6G」の共同研究を行うことが明らかになった。それは、NTTやNEC、富士通など日本の通信関連企業にとって、国際競争力の向上と先端分野でのシェア獲得を目指す好機がやってきたといえるだろう。ただ、専門家のなかには、「当該分野で米国や中国などから後れを取ってしまった、日本企業にとって“最後のチャンス”になるかもしれない」との見方もある。
現在、米国のバイデン政権は、産業補助金や海外企業からの技術移転などによって、米国企業の実力を高めることに腐心しているようだ。その背景には、IT先端分野で台頭している中国を抑えようというスタンスが明確にある。米国政府は従来の経済運営に関する基本的な考えを修正し、半導体や6G通信などの先端分野での研究開発および生産技術の向上を支援し始めている。そのために米国は同盟国である日本の企業をより重視し始めた。
それは、NTTなどにとってビジネスチャンスになるかもしれない。NTT、NEC、富士通などの国内企業に求められるのは、国内の人材と技術をフルに活用し、6G通信規格基準の国際統一に向けた議論を主導することだ。その実現は、日本企業が米中対立から実利を得ることにつながる。各社が6Gや量子暗号技術、さらにはその応用を支えるチップの設計などの分野で存在感を高めることを期待したい。
自由主義経済体制でも起きているゲームチェンジ
リーマンショック後の世界経済の展開を振り返ると、自由資本主義体制をとる米国など主要先進国よりも、産業補助金政策など共産党政権の指揮による経済運営(国家資本主義体制)を強化してきた中国経済の強さが顕著になってきた。
特に、中国が進めている先端分野の産業強化策である「中国製造2025」のインパクトは大きい。5G通信分野では、中国のスマートフォンおよび通信機器メーカー大手である華為技術(ファーウェイ)が価格競争力を発揮して世界トップのシェアを手に入れた。ファーウェイと中興通訊(ZTE)2社の通信基地局市場でのシェアは約45%に達する。
トランプ前政権は制裁発動などによって中国の国家資本主義体制の強化と、それによる世界経済への影響力拡大を食い止めようとした。ただし、制裁によってファーウェイの事業体制は不安定化してはいるものの、5G通信基地局市場でファーウェイのシェアを上回る米国企業は登場していない。6Gの技術開発をめぐる競争が5G以上に熾烈化することを考えると、米国は中国の台頭にかなりの危機感を強めている。