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現役マネージャーが語る、芸能ニュース“裏のウラ”第37回

連ドラ主演クラスでギャラ2千万円の“安さ”を考える…芸能人が不倫で謝罪する本当のワケ

文=芸能吉之助/芸能マネージャー

geinou  どうも、“X”という小さな芸能プロダクションでタレントのマネージャーをしている芸能吉之助と申します。

 ここ数年、大手芸能プロダクション所属のタレントによる独立ラッシュが続いていますね。

 この4月にも、佐藤健くんや神木隆之介くんが、長く在籍した大手芸能プロ・アミューズを退所して新会社に移籍、昨年11月に不倫スキャンダルが発覚して無期限の活動自粛中だった近藤真彦さんはジャニーズ事務所を退所、女性社長によるパワハラ問題で揺れている中堅プロ、スウィートパワーからは、デビュー当時から所属していた高杉真宙くんが退所して個人事務所を設立……と、さまざまな動きがありました。

 すでに売れっ子になっていれば、大手芸能プロダクション所属という肩書きがなくても自分の名前で仕事が舞い込んでくるだろうし、事務所の取り分がなくなったことでギャラも増えるでしょう。そりゃあ、“揉めて辞める”とかではなく“円満退所”ならば、独立したほうがメリットは大きいように感じます。

 だって実際、雨上がり決死隊の宮迫博之さんとか、元NEWSの手越祐也くんなんかはYouTubeで稼ぎまくってて、一説によれば年収は億をゆうに超える……なんて話もあります。かつては吉本興業やジャニーズ事務所に所属していた宮迫さんや手越くんがまさにそうであるように、大手プロを辞めて“圧力”や“忖度”で地上波に出られなくなっても、今はYouTubeやSNSで自己発信してビジネスできるから全然いいじゃん!とも思えちゃいますよね。

 時代が変化したこともあって、これからは芸能プロダクションの力が弱くなっていき、タレントはプロダクションに所属せず、ハリウッドで主流の“エージェント方式”が日本の芸能界でも一般的になっていくのでは……といった見立てもあります。

日本の芸能界も、欧米式のドライな「エージェント方式」に切り替わっていく?

 ここでいうエージェント方式とは、出演先への営業やクライアントとのギャラ交渉、仕事のスケジュール管理のみをタレントの代理人が代行するような形式を指します。しばしば“ファミリー”に例えられる日本のプロダクションのように、業界の礼儀やしきたりの教育や、タレントの日々の生活の世話などまでカバーし、タレントの面倒をまさに“まるごと”見るのではなく、いわば秘書のようなビジネスライクな役回りのみを担う……というイメージでしょうかね。

 このエージェント方式の場合、ギャラはタレントの手元にまるっと入った後、その手数料をエージェントに支払う形になるのが一般的なので、基本的にはタレント側の取り分が大きくなる。いうなれば、タレントはエージェントにとっての“お客様”のような立場になるので、お互いの力関係も対等です。それとは真逆で、プロダクション側の力が強い関係が基本の、日本的な芸能プロダクションなんて、ただの既得権益企業、圧力団体であって、これからのネット時代にはもういらないんじゃないか……みたいな意見さえ聞くことがあります。

 でも、コトはそう単純じゃないんですよ。

 ひとくちに芸能人といっても、宮迫さんや手越くんみたいな芸人さんやタレントさん寄りの人であれば、自分を商品として切り売りできるので、まだ独立のうま味はあるのかもしれません。しかしこと俳優、役者さんという職種に限っていえば、ブレイクして功成り名を遂げた後に、その“売れっ子”の状態を維持したまま今後は独立独歩でやっていきたい……と考えて大手芸能プロダクションを辞めたとしても、実際のところひとりでやっていくのはまだまだしんどい……という、日本の芸能界独特の構造があるんです。

 そこで今回は、そういった「日本の芸能界独特の構造」について説明していきましょうかね。

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人気俳優の佐藤健、神木隆之介が長く在籍した大手芸能プロ・アミューズを退所し、新会社「Co-LaVo」に移籍、話題となった。(画像は「Co-LaVo」公式サイトより)
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雨上がり決死隊・宮迫博之のYouTubeチャンネル「宮迫ですッ!【宮迫博之】」は登録者数140万人超えで大成功。宮迫や元NEWSの手越祐也のような芸人やタレント寄りならば、独立のうま味はあるのかもしれないが、俳優や役者という職種に限っていえば……。(画像は同チャンネルより)

連ドラのギャラは主演クラスでも1クール3000万円程度、大作映画の主演でも1000万円程度

 役者さんの場合、地上波連続ドラマのギャラは、主役級のトップクラスの人でさえ、1話あたり100万円からよくてもせいぜい300万円程度。ということは、1クール3カ月で全10話だとして、1000万〜3000万程度でしょう。ギャラの取り分が役者さん7割、プロダクション3割だとすると、本人に700〜2000万円程度、プロダクションに入るのは300〜900万円程度ということになりますね。さて、これを高いと見るのか安いと見るのか、なんですよ、問題は。

 地上波連ドラの主演を張るような看板役者ともなれば、純粋な撮影期間以外にも何人ものスタッフがかかわっており、撮影後には基本的にノーギャラの番宣活動なんかもあったりする。そしてそもそも、地上波連ドラの主演クラスなんて、そういうもろもろの“周辺仕事”まで含めれば、年に多くても2回くらいしかできないもの。そしてその期間、当然ながらそれ以外の“大きな仕事”は物理的にできなくなるわけですよ……。

 そんなアレやコレを考えた場合、1クール3カ月で本人に1000万〜2000万円程度、事務所に1000万円程度……というのは、地上波連ドラの主役を張れるような売れっ子、今をときめくイケメン役者、美人女優……ということを考えれば、ちょっとこれ、とても“ウハウハな金額”ではないことは、読者のみなさんだってご理解いただけますよね?

 だって、連ドラの主役級なんて当然、ポッと出の役者さんではないわけですよ。そのポジションに上りつめるまで数年、場合によっては10年以上の期間がかかっており、その間の稼ぎは、当然もっと低いのが当たり前。でもその間もその役者さんが生活に困らない程度にはお給料をあげなければいけないし、レッスンやなんだも受けさせてあげなければならない。そして当然ながら、そういった“先行投資”をして支えたにもかかわらず、報われずに業界を去る方も多いのが現実、というきわめて厳しい世界……。

 ドラマだけでなく、映画も基本的には似たようなものです。

 大手配給会社が扱うような全国公開される話題作でさえ、主役級の役者さんで、ギャラはせいぜい500〜1000万円程度でしょう。場合によってはひと月近く撮影のために拘束され、映画公開前には、連ドラ同様ノーギャラでテレビへの番宣や劇場でのPR活動にフル稼働となる。そしてドラマと同様、基本的にその期間にはほかの仕事はできない、ないしできたとしてもきわめて限定的、ということを意味するわけで……。

 これでは、ドラマや映画に出まくりの売れっ子役者さんだったとしても、「悠々自適なセレブ生活を送れる」なんてのは夢のまた夢であり、芸能プロ側にとっても、人件費やその他の諸経費を考えれば、そこまで大儲かりするわけではまったくない……ということになるわけですね。

 う~ん、厳しいなあ。でもこれが日本の芸能界の現実なんです。売れっ子役者さんでさえね。

日本の芸能界において「売れっ子になる」とうことはすなわち、「CM仕事をいかにうまくこなしていくか」ということ

 でも、現実には売れっ子俳優さんは、みんな都心のタワマンに住んでいいクルマに乗って、わりとウハウハな生活をしているように見えますよね?(笑) それってなんなのか。そう、そこでポイントになるのが、「広告のお仕事」なんです。

 日本の芸能人……特に“費用対効果”だけ考えれば決してコスパがよいとは思われない「俳優」というお仕事をしている芸能人にとって、“本業”である役者業と同じくらい大切なもの……特にビジネスの観点からいえば、本業以上に大切かもしれないもの……それが広告の仕事、簡単にいえばCMキャラクター、イメージキャラクターを務めるお仕事なんですね。

 芸能人が仕事で実績を上げて有名になれば、家電、クルマ、化粧品、医薬品、携帯サービス……その他さまざまな商品のテレビCMに登場し、ポスターにも掲載され、そして最近では静止画・動画を問わずネットで表示される広告にも出演する……それって、日本に住んでいれば当たり前のこととして自然にみなが受け入れていますよね? 「え、だって有名な人が商品キャラクターを務めればその商品のプロモーションになるんだから、当然じゃん」って。

 いやまあそうなんですけど、欧米などの諸外国ではそれってそこまで当然のことじゃないんです。だって、ハリウッドセレブがアップルのiPhoneのCMに出てます? フランスの有名俳優がルノーのCMに出てます? ところが日本(だけじゃないんですけどね、わりと東アジア圏では多いです)では、有名俳優が有名企業のCMに出るって、きわめて当たり前のこととして認知されているんですね。

 というわけで、少なくとも日本において役者として売れてお金持ちになるということは、この「広告のお仕事」をいかに上手にこなしていくか、ということとイコールなんですね。それはなぜか? そう、ズバリ「お金」なんです。(では、ハリウッドセレブがなんでそこまで広告のCMをやらないのか、あるいはやる必要がないのか、という疑問については、【次回】でじっくり語りますので、お楽しみに)

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画像はイメージです(Getty Imagesより)

タレントが担う広告仕事の大きな“デメリット”…プライベートを縛られてしまう

 CMの仕事は、コスパがいいです。俳優の仕事に比べれば圧倒的に。

 もちろんギャランティはクライアント企業や俳優のレベルによって千差万別ですが、基本的には1本につき数百万円から数千万円。ドラマや映画みたいに数週間やひと月にもわたって撮影をするなんてことはあり得ませんし、基本的には拘束は数日程度。役者仕事から得られるお金と比較すれば、圧倒的に大きいですよね。

 その代わり、大きな“デメリット”があります。企業やその商品の「顔」になるわけですから、そのCMのなかだけではなく、その他の部分でも“イメージ”が大切になってくる。そう、プライベートを縛られてしまうんです。「ウチの商品のイメージアップ、販売促進のために出演してもらい、その対価としてギャランティを支払うわけだから、ちゃんとそのイメージを守ってね」というわけです。

 だから、例えプライベートであっても、クライアント企業のイメージダウンにつながるような行動はNG。実際、CM仕事の契約書には、「当該商品の印象を毀損せしめるような行動を出演タレントがとった場合、損害賠償金を支払うものとする……」とかなんとかっていう文言がちゃんと記載されていたりします。というわけで、CM仕事……特に誰でも知っているような有名ナショナルクライアントの広告に出演している芸能人は、少なくとも表向きは、“品行方正”でなくてはいけない、ということになるわけですね。

「なぜ不倫で謝んなきゃいけないの?」という問いへの、「CM仕事」「地上波テレビ」というシビアな回答

 最近ネットでは、不倫スキャンダルが発覚したタレントが謝罪し活動を自粛することについて、「世間に迷惑かけたわけでもないし、別に謝らなくてもいいじゃん」「不倫なんて一般人もやってるんだし、誰に謝ってるの?」といった意見もよくありますよね。もちろん言いたいことはよくわかるし、実際「謝りすぎ」な側面はあると思うし、その背景には日本独自の文化的背景もあるかもしれません。

 だけど、それだけじゃない。もしその不祥事をやった芸能人がCM仕事をやっていたとすれば、これはもう、まずクライント企業に謝らなくてはいけないわけです。視聴者のみなさまに、ではなくてね(笑)。たとえ直接的なCM仕事をやっていなくても、地上波のテレビに出ていれば、そこには当然、CM枠を買ってくれているクライアントがいるわけで、そのイメージを毀損し、関係各所に迷惑をかけてしまったことに対して謝罪する必要が、どうしても出てきちゃうわけですね。ましてや道徳的に許されないというだけの不倫などではなく、薬物犯罪や交通事故などの刑事事件を起こしてしまうなんてことは……これはもう言語道断です!

 というわけでまとめますと……

日本の芸能界で“売れる”ということは、ビッグビジネスである広告の仕事もやれるようになるということである。

ところが、広告の仕事は「イメージを売る」ことと等価なので、どうしてもある程度の“プライベートの管理”が必要になってくる。

ゆえに、タレントのプライベートには基本的に干渉しない欧米的なドライな“エージェント”ではなく、もう少し全般的なタレント管理に長けた存在が必要になってくる。

それが、日本における「芸能プロダクション」の大きな役割、存在意義である。

……ということになってくるんですね。そして、この点において、過去の経験と規模の巨大さからノウハウを蓄積しているのが、「大手有名芸能プロダクション」だというわけなのです。

広告仕事を取ってくるコネクション、不祥事を“おさめる”ためのノウハウを有する大手芸能プロ

 渡辺プロダクション、ジャニーズ事務所、ホリプロ、スターダストプロモーション、アミューズ、エイベックス、オスカープロモーション……そういった「大手」と呼ばれる芸能プロは、それなりに長い歴史を持ち、テレビ局や出版社などのメディア企業のみならず、電通や博報堂などの名だたる広告代理店とも多くのビジネス経験を持ち、そしてそれらとの人的ネットワークも有しています。ということは、役者さんにとって本業である役者仕事だけではなく、広告方面の仕事もきちんと取ってこれる強いコネクションを持っている、ということになります。

 そして、もし万が一所属タレントが不祥事を起こした際にも、適切にマスコミに“お願い”をして報道をコントロールし、場合によってはイメージダウンを最小限に抑える形でメディアを呼んで記者会見を開催し、そしてテレビ局や広告代理店、クライアント企業にもにしっかり謝罪して回る……そういったことに膨大なノウハウが備わっています。

 だからこそ、大手芸能プロに所属している芸能人のほうが不祥事を大目に見てもらいやすく、弱小プロダクションに所属している、ないフリーの芸能人は好きなだけマスコミに叩かれまくる……というわけなんですね。そこに、芸能人が大手有名芸能プロに所属することの、大きなメリットが存在するわけなんですよ。

 では、それなのに冒頭で述べたように、昨今の芸能界では、そんな大手芸能プロからの独立が相次いでいるのはなぜなのか、実際に独立を果たした場合にどんなことが起きるのか……?

【次回】ではそのあたりについて解説していきたいと思います。乞うご期待!

(構成=田口るい)

【次回「満島ひかりの“自由さ”から考える、日本の芸能界が俳優に強いる“不自由さ”という問題」】

【次々回「貧困なる日本芸能界…佐藤健、神木隆之介の独立…二階堂ふみ、宮崎あおいの社内独立の背景」】

芸能吉之助/芸能マネージャー

芸能吉之助/芸能マネージャー

弱小芸能プロダクション“X”の代表を務める、30代後半の現役芸能マネージャー。趣味は食べ歩きで、出没エリアは四谷・荒木町。座右の銘は「転がる石には苔が生えぬ」。

Twitter:@gei_kichinosuke

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