前回では、8月22日投開票の横浜市長選をめぐり、現職の林文子市長や自民党神奈川県連がカジノ誘致をめぐり方針を二転三転させる体たらくに陥っていることなどについて、立憲民主党推薦候補の山中竹春前横浜市立大学大医学部教授と、同党の若手のエースと評される中谷一馬衆議院議員(横浜市港北区・都筑区の神奈川7区)にインタビューした。今回は日本の遅れが国際的に目立つデジタル政策について聞いた。
デジタルプラットフォームで民意を吸い上げ
中谷)10年後の横浜を考えたときに、私はアフターコロナの時代背景をしっかりと認識した上で、観光政策を切り拓きたいと思います。実行するには、横浜市民の集合知を活かした政策立案が重要だなと思ってるんですけど、例えば、台湾のオードリー・タン デジタル担当大臣が”シビックテック”という取り組みを進めています。具体的には、みんなが意見交換を行うことができるデジタルプラットフォームを作り、「こういう政策があるんだけど、みんなの意見はどうですか」と意見を募集します。その上で、プラットフォーマー、事業者、労働者、利用者など様々な人のエビデンスを踏まえた声を政策に反映させていくという取り組みなんですが、そのあたりに関しては山中さんどうですか?
山中)デジタルは、数年前とは比較にならないほど進歩してますし、今、5Gが広がりつつありますので、市民の方々の声を集めることが、以前よりもずっと容易になってきています。テクノロジーを駆使して民主的な決定を促進していくのが、現代的な流れでしょう。ただ新しいやり方になりますから、古くしがらみのあるところには馴染むまで時間がかかるかもしれないですが、横浜市は、最大の政令指定都市ですから、その流れを早く取り入れて、市民の意見を政策に反映させる、そういう先進的なリーディング都市にしたいと思っています。
―横浜市は日本で一番大きな基礎自治体ですから、やっぱり日本のロールモデルになるようにしたい、と。
山中) その通りです。横浜市民みんなが横浜市を引っ張っていくような都市で本来あるべきなんですけれど、そういう都市のロールモデルにするというリーダーシップが、今は弱い。私は、横浜市をもっと良くできる人間がリーダーになるべきだと思っています。
中谷)私もそう思いますね。10年後の2030年代を想像してみていただきたいんですが、IoT、人工知能、ロボット、ブロックチェーン、自動運転の車、ドローン等々。こういったものが当たり前に実装されている社会になります。今は、5Gが少しずつ普及してますけれども、10年後は6G。通信速度が更に100倍ほど速くなる時代がやってきます。こういう時代の到来に柔軟に対応できる若い力が必要ですし、かつ市民の声に基づいた政策決定をするっていう当たり前の政治を横浜に取り戻してほしいと思っています。たとえば、選挙の前だけ、カジノは白紙ですって言って、でも選挙で当選したら「やっぱりやります」みたいに話を二転三転させて、嘘をついてまで、自分たちがやりたいことを、しかも根拠もなく進めようとする、今のダーティーでアンフェアでクローズドな政治に対して、みんな物凄く頭に来てる思うんですよ。
山中)同感です。やはり基本になるのは客観性。私はそれが透明性だとも思っています。そこに活用できるのはデータ。ただし、データは、取り方によって変なふうに変えられたりします。待機児童の問題なども定義を保留児童に変えて、待機児童問題は解決しましたと言っている。評価指標の定義を変えたり、あるいはデータそのものの取り方に偏りを持たせて、こんな感じになりましたと報告することに違和感があります。
私は、横浜市立大学でデータサイエンス学部やデータサイエンス大学院の開設準備の責任者だったんですが、そのときに重視したのは、どういうふうにデータを作るのか、何を評価項目にするのか、そういう段階から現場の知識や経験を重視しながら決めて、実際にデータを取ることの重要性を学べる教育体系でした。データの専門家というと、解析するとこだけって思われがちなんですけど、どうやってデータを取るか、最終的にどうやって意思決定するか、その全体の流れを重視しています。
EBPMは行政の意思決定の上でそのプロセス全体を扱うものなので、横浜市でもそういったアプローチに対する意識を醸成し、そして、デジタルで市民の意見を収集し、解析して、より良い意思決定する。そういう透明性のある横浜市を目指したいです。
中谷)横浜は医療、介護、福祉、子育て、教育、経済、あらゆる面で問題を抱えています。しかもそれが一部の方々の意思決定によって、ちょっとバランスの偏った政策決定がされているなということをひしひしと感じているので、データに基づいた意思決定という当たり前なことを進めるだけでも改善される領域がかなりあると思いますし、横浜市民もそれを望んでいると思います。そうした中で、多分横浜市民が今一番何とかしてくれと思ってるのは、コロナ対策だと思いますが、山中さんは横浜市のコロナ対策についてどのように考えてますか?
横浜市におけるコロナ対策に関して
山中)コロナの対策としては、まずワクチンで免疫をつけてもらう。それから、感染源を早期に同定する。そして、かかってしまった方への治療体制を確保する。その3つの三本柱から成り立っています。三本柱それぞれで、効果的な運営をしていかなければいけない。たとえば、ワクチンの接種に関しては、横浜市はデータ開示が少な過ぎるので、データをきちんと開示をして官民で分析できるような体制が必要でしょう。そして、横浜市は広いので、多様なライフスタイルに合わせたワクチン接種体制が必要と思います。たとえば、24時間体制のワクチン接種拠点や主要駅周辺で通勤途中にワクチン接種できるような拠点の設置なども考えられると思います。意義のあるコロナ対策を先駆けて実行し、他の市区町村の見本となるような横浜市になるべきです。
中谷)ワクチンは接種したくないとお考えになる方もいらっしゃると思うので、そういう方々の人権は当然配慮していくべきだと思いますが、その上で今はワクチンを接種したいと思っている人が、接種できていない状況にあるので、多様な接種体制を整備して、みんながコロナ対策をしやすい環境を作ることが重要ですね。最後に、私たちが政界にいるからには、政治と市民の距離を近づけ、その声を反映させる政策が求められると思いますが、山中さんはどうやって横浜市政に多くの市民の皆さんが参加したくなるような施策を講じていきたいと思いますか?
民主主義のアップデート
山中)今の横浜は住民自治がないがしろにされてきましたが、住民自治を取り戻し、市民が参加する機会をどれだけ増やすかということが重要だと思います。そのためには政治側からの働きかけが必要です。タウンミーティングを開催して市民の意見を聞く機会を持つのは有意義だと思いますし、デジタル目安箱などの電子化の力で市民の意見を聞く方法も考えたい。若い方を中心に政治不信になっていると感じますが、横浜市政が市民の意見を聞くという態度を示すことが大切だと思います。横浜市は、市民の意見を取り入れれば、より良くなる都市だと確信しています。
中谷)1889年(明治22年)に横浜市制が施行されて以降、最多の署名数となったカジノ誘致に関する住民投票を求める署名19万3193筆を、たった3日の審議で与党が握り潰して否決する市政というのは、残念ながら議会としては機能不全に陥っていると思います。この姿勢は、市民の代表たる議員として失格であるばかりでなく、民主主義の根幹を揺るがす暴挙であり、横浜市民を馬鹿にするのもいい加減にしろと怒りが込み上げてきます。私自身は、国会でインターネット投票を推進する法案を提出させていただいたんですが、デジタルの活用で、民主主義をアップデートさせることができると確信しています。今後も山中さんと一緒に、政治を市民にとってより良いものにしていきたいと思っています。
前後半にわたりインタビューをお読みいただいた。バブル崩壊後の30年にわたる日本の停滞を招いた大きな要因が、自民党による「ムラの論理」など根拠が不透明な意志決定によるものであることは、今回の東京五輪などですでに国民の知るところとなった。データ活用などデジタルという軸を導入することで日本社会の遅れを挽回しようとする試みは理にかなっている。菅義偉首相のお膝元である横浜市長選の結果がどうなるかが、今後の日本全体の試金石になるだろう。
(構成=編集部)