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野村直之「AIなんか怖くない!」

真のDX推進を実現する正しいAI導入のコツ…人間は人間にしかできない仕事をして利益を最大化

文=野村直之/AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員
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「Getty Images」より

 前回記事『“過渡期のAI”導入がDXを遅らせる!』を読まれた方は、「え? AIがDXの邪魔をするって?」とびっくりされたかもしれません。

 理屈は簡単です。画像や音声などのアナログデータ、特に手書き、印字を問わず、紙文書、FAXに書かれた文字を読み取るようなAI(人工知能)を新規開発してしまうと、投資回収のため、しばらくその業務フローを維持・継続しなければなりません。そうなると、そもそも手書き、FAX、紙全般をなくして、最初からデジタルで正確で迅速な新業務フローに革新する本格DX(デジタルトランスフォーメーション)の早期導入を阻んでしまうわけです。

 ハンコを押した印影の認識精度向上にお金を使うのと、ネット上で複製不可能な認証、完璧な証拠保全を実現するためにブロックチェーンを導入し、それを完璧にしつつ、超高速の企業間契約を実現するのにお金を使うのと、どちらが良いでしょうか? 前者を選べば、判子廃止の絶好のチャンスを逃し、フルデジタルの本格DXによる劇的な生産性向上が遠のき、国際競争力が失われかねない。だから、アナログ情報をテキストデータや数値に変換するタイプのAIを、“過渡期のAI”と呼びました。

 ハンコ押しロボットは、フルデジタル化の邪魔をする象徴として、わかりやすい存在でした。これについてのIT Media Newsの記事の結語はこうでした。「ハンコ文化から抜け出せない企業は、長期的にはペーパーレス化を視野に入れつつ、実現までの“中継ぎ”としてこのサービスを利用するのがよさそうだ」

 しかし、コロナ禍が上記の“中継ぎ”や“ゆっくりシナリオ”を蹴散らしました。中継ぎと本番で2度おいしいと期待したIT企業は、Web会議やオンライン・ワークスペースで時空の壁を取り払おうとするSlackなどの本格DX支援企業を前に、行き場、ビジョンを見失っているようにもみえます。本連載拙著を読んで(笑)、ビジョンを再構築し、メタデータ社の人工知能API群を組み込むなどして(笑)、正しいDX、正しいAI活用に邁進していただければ、と思います。

真にDXを推進する正しいAIを導入のコツは?

「では、画像に写っているものの名前を当てたり、話し声をテキストに書き起こすような認識系AIは、みんな“中継ぎ”で無駄な投資になるの?」といえば、まったくそんなことはありません。1つの大きなコツを書くと、

【従来人間にはできなかったことをAIを使ってやりましょう!】

となります。

 たとえば、都市の地下に埋められたガス管や水道管の【中】に入って自走し、内壁を安全に照らしてひび割れやサビがないかを超高速で画像診断する認識系のAI搭載ロボットです。物理的、生理的に人間には不可能な仕事(やったら死んじゃいます!)。

 物理的に不可能ではなくとも、経済的にまったく割に合わない仕事もたくさんあります。さきほどと似たインフラ系の事例では、地上数十メートルの高さで、かなり大きな間隔で鉄塔が並んでいる高圧線の状態を外観検査する仕事など、もし人間が間近で完全に目視するとなると危険さを差し引いても非効率で、大きな人件費がかかることでしょう。

 しかし、高専ロボコンなどで試作、提案された「尺取り虫型ロボット」にカメラを取り付け、画像認識・分類AIで判定させれば、コストは下がり、人間は危険から解放されます。

 首都高の路面の劣化のチェックは、検査車両を走行させながら、車底に取り付けたカメラがAIで認識することで、一時通行止めにすることもなくなり、従来より数十倍のスピード、生産性で実施できるようになったといいます。

 大勢の入場者の顔を事前登録者と照合するなど、人間が辛い不毛な仕事をしていたのを肩代わりすることで、人件費節減、対応容量アップ、精度向上というあたりも、認識系AIの面目躍如とはいえるでしょう。ただ、この種の応用でも、従来は経済的(コスト)、時間的制約(処理速度)、判定の均質さ(公平さ)、精度の観点で不可能だった応用を考えるのが成功への近道でしょう。たとえば、スマホ決済ならぬ「顔決済」です。

日本語などの自然言語の解析、分析もできそうでできていなかった

 自由に記述された大量の文章のネガポジ(肯定・否定)の傾向を判断したり、たとえば100万件の記事から、十数秒で自分にとって重要な数十カ所を抽出して読めるようにしたりしてくれる、なども、人間の秘書などには絶対にできないことです。たとえ1000人を投入しても、完全に同一の基準で判定するなどは不可能です。

 私が経営するメタデータ社では8月17日、性格診断API、メンタル分析支援ツールについてプレスリリースを行いました。これらは、テキストビッグデータを文脈処理し感情解析、人柄・性格タイプやメンタルヘルスの状態を判定するものです。

 大企業では、顧客のアンケートの自由回答をすでに数千万件蓄積していたり、従業員の日報、週報、月報を数百万件蓄積したりしているところがあります。ところが、これらは多くの場合に宝の持ち腐れとなっていました。上司に「来週までに過去の全件を集計し、そこから新商品のアイディアを抽出しておけ」と言われて100万件のアンケートの自由回答を渡されても、100人がかりで不十分ながらできるかもしれない、という程度でしょう。

 90万件目にユニークな提案を見つけて、「あれ? これと似たのが、10万件目あたりに2件、20万件目あたりに7件あった気がするけど……」など分業していては、思い出すのは無理。AIが秒単位で、似たような意味の記述を見つけてくれる類似検索機能を使わない手はありません。

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 上の画面例は、高級一眼レフデジタルカメラについてのクチコミに対して、自分が注目した記事から関心箇所をコピペして、それとの類似度をデータベース中の全件とAIに比較させたものです。何万件あろうと、あっという間に類似度の順にランキングしてくれます。横倒しの鶯色の棒グラフが類似度を視覚的に表します。特に強い類似の手掛かりとなった上位数十単語には色付けしてくれるので、同じくらいの類似度でも、その根拠が全然違うのが一瞬で見て取れます。

 そして、棒グラフの長さがほぼゼロになった箇所以下には、似た内容の記事がないこともわかります。たとえ何百万件のデータがあっても、多くの場合、ユニークな上位数十件だけ見れば良い。ほかには存在しないとほぼ断言できる。不存在の証明は、人間の能力では不可能とされ、「悪魔の証明」と呼ばれてきました。AIがAIらしい長所を発揮すると、「悪魔の証明」すらできてしまうのです。

「文章読解やその評価が相当自動化できるなら、人間は何をすればいいのか?」

 良い質問です。AIには「なぜ回答率が低いのだろう?」とか、「このロットの回答者はどうも正直に本音を書いていない匂いがする」とか考えることは(少なくともまだ)できません。裏返せば、人間は、高い回答率で多くの本音を引き出すための設問文や総合的な施策を考えたり、そもそも何のためにアンケートを再設計するのか? といった価値観を抉るような深い高度な思考にシフトすればいいのです。

 AIの解析結果、それを美しいグラフで視覚化した結果の意味を読み取ること、因果関係の深堀り(『AIに勝つ!』第6章「新たに生まれる仕事群を楽しむ」に記したように、5回「なぜ」を問う)をして結果を解釈するという事後の大仕事もあります。そして、さまざまな解釈、新しい仮説から有望なものを理由付きで選び抜いて、競争戦略などマーケティング、経営に反映し、自社の売上・利益の増大をはかるのも人間の仕事でしょう。

野村直之/AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員)

野村直之/AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員)

AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員。


1962年生まれ。1984年、東京大学工学部卒業、2002年、理学博士号取得(九州大学)。NECC&C研究所、ジャストシステム、法政大学、リコー勤務をへて、法政大学大学院客員教授。2005年、メタデータ(株)を創業。ビッグデータ分析、ソーシャル活用、各種人工知能応用ソリューションを提供。この間、米マサチューセッツ工科大学(MIT)人工知能研究所客員研究員。MITでは、「人工知能の父」マービン・ミンスキーと一時期同室。同じくMITの言語学者、ノーム・チョムスキーとも議論。ディープラーニングを支えるイメージネット(ImageNet)の基礎となったワードネット(WordNet)の活用研究に携わり、日本の第5世代コンピュータ開発機構ICOTからスピン・オフした知識ベース開発にも参加。日々、様々なソフトウェア開発に従事するとともに、産業、生活、行政、教育など、幅広く社会にAIを活用する問題に深い関心を持つ。 著作など:WordNet: An Electronic Lexical Database,edited by Christiane D. Fellbaum, MIT Press, 1998.(共著)他


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