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藤和彦「日本と世界の先を読む」

米情報機関、中国・武漢ウイルス研究所のデータ入手との報道…ニパウイルスめぐり新疑惑も

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
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中国・武漢(「gettyimages」より)

 米国の情報機関を統括する国家情報長官室は8月27日、新型コロナウイルスの起源に関する調査報告書の概要を公開した。その内容は「ウイルスが動物から人に感染したのか」「中国科学院武漢ウイルス研究所から流出したのか」という2つの仮説を裏付けるのに十分な証拠がなかったことから、結論が出せなかったというものである。

 中国政府からの協力が得られない状況が続いており、想定内の結果であったが、報告書の内容で注目すべきは「新型コロナウイルスは遺伝子操作されて発生したという可能性は低い」との見解を示していることだ。筆者はこの見解に違和感を抱いている。

 エネルギー省傘下のローレンス・リバモア国立研究所は昨年5月、「新型コロナウイルスからCGG-CGGという組み合わせの塩基配列を発見された。このような塩基配列は自然界では存在せず、ウイルスの感染力を高めるなどの実験を行う際に人為的に注入されることが多いことから、『武漢ウイルス研究所から流出した』とする仮説は妥当である」との報告書(非公表)を作成しているからだ。

 報告書はさらに「ウイルスが生物兵器として開発されたものではない」との見方を示している。トランプ前政権が今年1月に公表した新型コロナウイルスの起源に関するファクトシートでは、人民解放軍が生物兵器禁止条約に違反する形で武漢ウイルス研究所で秘密裏に生物兵器を開発していた可能性を排除しなかった。バイデン政権はこの点を否定したことになる。

 だが報告書の内容とは裏腹に、世界では新型コロナウイルスのパンデミックを契機に生物学的脅威に対する意識が高まるなか、「生物兵器禁止条約の遵守を徹底するためにより強力な権限が必要だ」との声が高まっている(9月1日付フィナンシャル・タイムズ)。

 現在の条約は生物兵器の開発、貯蔵、移転、使用を禁止しているが、加盟国に条約を遵守させるための強い措置を規定していない。防衛や予防のための研究開発は許されており、攻撃目的にも使えるような二重用途の研究も完全には禁止されていない。

 8月30日からスイスのジュネーブで生物兵器禁止条約に関する専門家会合が開かれているが、「専門家たちは重大な生物学的事象について第三者による透明性のある正式な事実検証を行う」国際的な枠組みの構築を求めている。武漢ウイルス研究所の運営や資金提供の面で人民解放軍が関わっていることから、「我々が知らないことがたくさんあり、中国は透明性を持たせることに前向きでない」と憂慮する専門家が多いからだ。

 これに対し中国は「政府は条約を守ることに真剣に取り組んでいる」とした上で、「米国は製薬会社の懸念を背景に生物兵器を査察する仕組みを構築する努力に水を差し続けてきた」と反論している。WHO(世界保健機関)による調査と同様、ここでも中国は米国を一方的に非難するばかりで、自らの姿勢を改める気配を一切見せていない。

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