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トヨタ・グループ、次々と不正発覚で信用失墜…豊田社長、自工会会長続投に業界内で反発

文=桜井遼/ジャーナリスト
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レクサス・LS(「Wikipedia」より)

 トヨタ自動車と関連する企業の不祥事発覚が止まらない。子会社を含めてトヨタ系列ディーラーが道路運送車両法に違反する不正車検を行っていた事実が相次いで明らかになっている。部品販売子会社では社長のパワーハラスメントが発覚、7月30日付けで辞任に追い込まれた。8月26日には、東京パラリンピックの選手村で、トヨタの自動運転車「e-Palette」(eパレット)が選手に接触する事故が発生、この選手は出場辞退する事態となった。

 さらに9月15日には、顧客の個人情報を本人の同意なく不適切に取り扱っていたトヨタ系ディーラーが27社もあったことを公表した。相次ぐ不祥事の発覚にトヨタの豊田章男社長が目論んでいる業界団体・日本自動車工業会(自工会)の会長続投に赤信号が灯りつつあり、本人も苛立ちを隠さない。

不正車検

「トヨタ・グループでこれだけ不祥事が相次ぐのも珍しい」――。ある業界関係者は、自動車業界の「優等生」と呼ばれたトヨタ・グループと関連企業で、不祥事の発覚が相次いでいる事態に首を傾げる。日産自動車、スバル、スズキなど、多くの自動車メーカー、インポーターで不正が明らかになった完成検査問題でもトヨタの名前は挙がらなかった。しかし、ここ最近、自動車業界の不祥事といえばトヨタ系企業に集中している。

 昨年12月、トヨタ系ディーラーで最大のATグループの傘下にあるネッツトヨタ愛知が、不正車検を行っていたことが国土交通省の監査で発覚した。これに続いてトヨタ子会社のトヨタモビリティ東京が運営する「レクサス高輪」でも車検での検査結果の数値を改ざんしたり、定められた検査項目を実施していないなどの不正が明らかになった。

 こうした事態を受けてトヨタは、全国の系列ディーラーに対して車検整備の状況を再調査するよう指示。この結果、新たにネッツトヨタ山梨でも不正車検が行われていたことが明らかになった。

個人情報の不適切な取扱い

 さらに、トヨタの将来に大きな影を落とすことになりそうなのが、パラリンピック選手村での自動運転車と歩行者の接触事故だ。事故にあったのは柔道男子81キロ級に出場予定だった視覚障がいがある北園新光選手で、選手村のT字路を横断中、eパレットと接触した。トヨタによると、eパレットは交差点手前で一時停止し、オペレーターが安全を確認後、手動で発進、自動運転モードに切り替わったところ、センサーが反応して自動ブレーキがかかったものの、北園選手と接触したという。

 事故の詳細な原因などは警察を含めて調査中だが、事故を起こしたeパレットは、トヨタの次世代自動車を象徴するモデルだ。人の輸送に加え、物流や物販など、さまざまな用途に活用できるMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)専用の自動運転電気自動車(EV)で、2018年1月に米国ラスベガスで開催された「CES2018」で「自動車メーカーからモビリティカンパニーに変わるトヨタ」を具現化するコンセプトモデルとして紹介された。トヨタが工場跡地に開発している実験都市「ウーブン・シティ」でもeパレットがフル活用される予定だ。

 オリンピック・パラリンピックの最高位スポンサー「ワールドワイドパートナー」のトヨタはコロナ禍前、東京オリンピック・パラリンピックを日本の先進的な自動車技術を世界中に発信していく機会と捉え、この一環で選手村でeパレットを運行していた。しかし、モビリティカンパニーを目指すトヨタの象徴的なモデルが事故を起こしたことで、トヨタの自動運転技術のレベルに対して疑問の目が向けられるのは避けられない。自動運転の早期実用化を目指している国土交通省などの行政側も、選手村という目立つ舞台で自動運転車の事故が世界に発信されたことにあきれ顔だ。

 自動運転と同じくトヨタの将来のビジネスに影響しそうなのが、トヨタ系ディーラーでの個人情報の不適切な取扱いだ。トヨタは9月15日、新たに27社で本人の同意を得ず、勝手にIDを発行していたことが発覚したと発表した。トヨタでは系列ディーラー9社で個人情報の不正使用を公表していたが、その後の調査で不正が拡大した。

 最近の自動車は通信端末を搭載して外部と接続できるコネクテッドカーが急増しており、自動車での新しいビジネスではコネクテッドカーから収集されるデータの活用が成否を左右するとされる。コネクテッドカーからのデータ収集には、顧客の承認が必要だが「個人情報を不正利用するトヨタに対して、ユーザーがデータ提供を拒否するケースも考えられる」(自動車メーカー幹部)。今回の不祥事でデータビジネスにトヨタが乗り遅れた場合、将来に向けての致命傷となる可能性は否定できない。

自工会会長のポストに拘泥

 一方で、トヨタ系企業の相次ぐ不祥事に頭を抱えているのが豊田社長の取り巻きだ。豊田社長は来年任期満了となる自工会の会長を続投し、異例となる3期目を狙っている。自工会の会長ポストは1期2年で、トヨタ、ホンダ、日産の輪番制だ。本来なら2020年にホンダが会長ポストを担当する予定だったが、日本の自動車関連技術を世界に発信できる機会である「東京オリンピック・パラリンピック開催」を理由に、豊田会長が続投した。

 さらに、豊田会長は2022年も続投する意向で、そのための準備も進めてきた。自工会の会長、副会長はもともとトヨタ、日産、ホンダ、三菱自動車、マツダの大手5社だった。しかし、燃費不正で三菱自、完成検査不正で日産がそれぞれ副会長ポストを手放した。すると昨年、豊田会長はヤマハ発動機、いすゞ自動車の2社を副会長ポストに割り振った。建前上、二輪車、商用車の代表者に副会長になってもらうためとするが、実際はいすゞもヤマハ発もトヨタと資本提携しており、いってみれば豊田会長の言いなりだ。豊田会長としては次期会長であるホンダさえ納得させれば、自工会会長ポストを続投できると踏んでいる。

 そこに大きな障害として立ちはだかっているのが、ここ最近の相次ぐ不祥事だ。自動運転車の事故を世界に発信したほか、道路運送車両法違反や個人情報保護法違反など、違法な行為の発覚が相次いでいる企業グループのトップが自工会のトップを継続するのかとの批判の声があがるのは避けられない。

 トヨタは当面、事態が落ち着くの待つ方針だったが、これに水を差したのが9月8日付日本経済新聞が報じた「豊田会長が自工会会長を続投」だ。翌日の会長記者会見で、豊田会長は「報道はいつから噂話を載せるようになったのかなと疑問に思っている」と否定した。ただ「(役員人事について)決まっていません。まだ」と述べ、続投する意向を持っていることは否定しなかった。

 ある業界関係者は「豊田氏はトヨタのトップなだけなのに、日本の自動車業界のトップだと勘違いしている。その意味で自工会のトップは自分しかいないという思いが強い」と解説する。また、会長続投の理由として「前回は東京オリンピック・パラリンピックだったが、今回はカーボンニュートラル社会実現に向けた電動化による業界の危機を煽り立てる」と見る向きは強い。実際、自工会の記者会見で豊田会長は、カーボンニュートラル化は「(エンジン関連企業を中心に)雇用問題を招く」と懸念を示すなど、業界の危機を1人で煽り立てている。

 不祥事が続いても法律違反が明らかになっても日本の自動車業界の盟主としてのポジションを死守したい豊田会長の想いは、成就できるのか。

(文=桜井遼/ジャーナリスト)

桜井遼/ジャーナリスト

桜井遼/ジャーナリスト

自動車業界の現場を中心に取材するジャーナリスト

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